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真田行家 庭内 鍛冶屋『霧隠の炉』

「とんでもない場所だったわ」


「あ、アリサだ。なんで生きてるでござる? あの場所に入った者は死が必ず約束されているのに」


「危うく死にかけたわ。お腹も減ってる」


「じゃあ食事ね?」


「だめ」


「え? なんで?」


「これ」

カンカン カンカン


「この音?」


「呼んでる気がする。だから行かなきゃ」


「そう、勝手にしなさい。でも、食事が冷めちゃうわよ?」


「今日は特別に熱いから冷めたくらいがちょうどいいわ」


「そう、じゃあしばらく待ってるわ。アリサがこの屋敷に興味を持ってくれてるのは嬉しいし」

とことこ とことこ


「あら?」

また食堂に去っていった。待っていると言ったそばからな。情緒不安定なのか? まあ彼女はこれから結婚するかもしれない身である。落ち着いて待っていられないのだろうか? あっちこっち歩き回っている。


「落ち着気がないわね……まあいいやあんなのほっといて。一番大事な私のことをやろう」

カンカン カンカン カンカン

音の方に数歩歩くと目的の場所へと辿り着く。


「あっ! 建物に看板があるわ。霧隠の炉? きりがくれのろ? かな? かっこいいなあ!! 何か興味ある建物ねえ!」

彼女の目の前には木造の建物が。外からでも分かる熱気が建物の周囲に漂う。屋根は元は白と思われるが黒い。恐らくすすで黒ずんでしまった? そして外壁には何年も積み重ねられた鉄の匂いが染みついている。入り口には扉らしいものはなく、分厚い布が垂れ下がり、外気を遮断しているのか? その布をくぐり中へと入る。


「お邪魔します」

すると、まず一番に目に付くのは中央に鎮座する背を向け作業している大柄の男、作業に集中し過ぎてアリサの声は届いていない様だ。

その傍には大きな炉。炭が赤々と燃え、ふいごが静かに脈打つ度に炎がうねるように踊る。

その傍らには、大小様々な火バサミが立てかけられ、炉の温度を調整する長い鉄棒が何本も並ぶ。

男の手元には鋼を叩く為の金床があり、その表面には何度も叩き込まれた跡が無数に刻まれていた。

壁際には、金槌がずらりと並んでいる。片手用の小ぶりな物から、両手で扱う大振りな物まで、その種類は多岐に渡る。柄は使い込まれて黒ずみ、頭部には幾度となく打ち下ろされた痕跡が深く刻まれている。隣には大小様々なヤスリが掛けられた木の棚があり、刀身を磨き上げるための砥石がいくつも積まれていた。恐らくここは鍛冶場の様だな。


「な、何なのここ? あっつ……」

とことこ

さらに進むと、かなりの高温で額に汗がにじみ出る。すると? アリサの声に作業しているひげの男が手を止め振り返る、そして、目が合う。


「ああ? おめえ誰じゃい? 見ねえ顔だな、ちっこいの」


「ごめんなさい間違えたましたでござるわ。それじゃあ忙しそうですのでドロンするでござるよ?」

興味があって入ったはずだが、男のとんでもない迫力に逃げ出そうと踵を返すが……


「まあ待て、滅多に人が来なくて寂しかったのだ。ちょっと話でもせんか?」

手招きをする男。


「いいえ、遠慮するわ。あんた、私にちっこいって言いやがったわよね? 刑法231条の侮辱罪よ?」


「お? そんなひでえことを言ったのか? 覚えとらん」 


「14秒前の話よ?」


「そうか。なら仕方ないな。俺は3秒前の事すら覚えておらんからなw」


「老化による脳機能の低下ね」


「それかも知れないな。ところでお前さん、この周りの工具に興味あるだろう?」


「ちょっとね。でも仕事中でしょ?」


「たった今休み時間になったので全然問題ないぞ、ちっこいの」


「また言った、今度は言い逃れ出来ないわよ? はっきり言ったね? これで二回目よ! 親父にも言われたこと無いのに……でも今11時11分11秒よね? そこの掛け時計も同じ時を刻んでいるわ。そんな中途半端な時間から始まる休み時間なんて聞いたことないわよ」


「あーいえばこう言う。面倒な奴だな。屁理屈ばっかごねてんじゃねえ、器のちいせえ子供がよ。まあ俺は自営業みてえなもんだからな。休みたい時に休む」


「しょうがないなあ。ちょっとだけだからね」


「素直だな。なかなか可愛いもんじゃないか。おめえ年長さんかい?」


「年長? まさか幼稚園のことを言ってるんじゃないだろうな? その倍は生きとるわ」


「ぬお? まさかおめえ小学生なのかよ。ってこたあ10歳位ってことなのか? こりゃあたまげた」


「どこから見てもそうでしょ? 不愉快になったわ。このヒゲ! 帰る!」

当然自分でも幼稚園児にしか見えない事実はわかっているのだが、それでも自分まで認めてしまったら誰も味方が居なくなる。

だからアリサは頑なに認めない。何が何でも認めない。


「待て待て。でもよ、胡坐をかいてる俺と直立してるおめえの目の高さが合っちまうって相当だぞ……勘違いしてもしゃあないわ。まあいい」


「ここってどういう所なの? 暑いしエアコンも無い。あんた全然汗かいてないね」


「この程度の暑さなんぞ何ともないわいガハハハハw」

この男、この仕事場の熱気を物ともしていない様だ。恐らく暑熱順化しょねつじゅんかされた体の様だな。ちなみにこれは体が暑さに慣れる事。暑熱順化すると低い体温でも汗をかきやすくなり、汗の量は増える。更に皮膚の血流も増加し、熱が逃げやすくなり体温の上昇は防ぐ。その結果、暑さに対して楽に過ごせるようになり、夏バテや、体のダルさを防げるのだ。汗腺で作られる汗は、毛穴から出る前に塩分が血液中に再吸収される。暑熱順化すると、この塩分の再吸収が更に高まるので、汗に含まれる塩分が少なくなり、脱水になりにくくなるのだ。

暑熱順化する為にはやや暑い環境で、ややキツいと感じる運動を1日30分行うと良い。自転車運転する、お風呂に入る。早歩きを3分の後にゆっくり歩き3分を繰り返すことも良いらしい。この夏を快適に乗り切りたいなら寒い段階で体自身を暑さに慣らして置くのが良いのかも知れない。まあハンマーを打つ度に汗を拭っていては仕事もはかどらないであろう。順当な体の変化なんだろうな。


「私はもう額から汗出ちゃってるよ。で、ここはどういうとこなの?」


「これを見てみい」

男の指差す方向には忍者特有の武器を作るための専用の道具が所狭しと並んでいる。忍者刀の刃を研ぐ細長い砥石、仕込み武器のための微細な細工を施すための極小ノミ、鎖鎌の鎖部分を手作業で繋ぐための鋏やペンチの類。


「色んな鉄の道具?」


「おう、そしてこれは見たことないか?」

そこには苦無や手裏剣の製造に特化した専用の鋳型いがたがある。


「なにこれ?」


「鋳型だ。手裏剣や苦無くないのな。これに溶けた鉄を入れて作るんだ。で、取り出したらバリなどを取って打ち直す」


「へえ打ち直すとどうなるの?」


「強度が増し歯が欠けにくくなる。そして、忍者の階級毎に異なる形状に変えるということもあるんだ。階級が高けりゃ細やかな細工が施され、殺傷能力も高い物が配布される決まりがある」


「ここって忍者専用の鍛冶屋って事なの?」


「おう、ここは400年以上続く忍者屋敷だ。で、俺は忍者専用の鍛冶屋、4代目の飛影竜王とびかげたつきみだ」


「ちょww悠々ハクションとトラクエ混ざってるww」


「そうそう、って? おい! おめえ、口頭で名乗っただけで漢字まで分かっちまったのかい?」


「そうなのよ」


「すげえなあ」


「でもおっさんらしからぬかっこいい名前で草なんよw」


「草ってなんだ……全く……面白いと言え! でな、忍びの戦闘スタイルに合わせて微調整を加える。例えば、遠距離からの精密射撃を得意とする奴には重量をわずかに下げた手裏剣を、接近戦での撹乱を目的とする奴には薄く鋭利な苦無を仕立てる。この引き出しの中には数十種類もの型枠が収納されている。俺は主の依頼に応じ、使い分けている」


「そんなに沢山いるの? 忍者なんて」


「それはしっかりと忍んでるからだ。それで分からねえだけで、居るんだなしっかりとな。一つの県に4000人は居るぞ。都内は1万は居るだろうな」


「そんなに忍び通せるものなのね? みんな出来るんだ」


「当たり前だ……って、なにがだ?」


「遊び場で本当に遊べること」


「遊び場……? ああ、広間のことか! おめえあの広間に入ったのか? 今授業中だぞ! 誰もいねえ中で無事だったのかよ?」


「ま、まあね」(落し穴で15ポインツのダメージを受けちゃったけど黙っとこっと)


「じゃああの大ジャンプ畳には驚いただろ?」


「あ! あれね! なんかしっかりと梁に乗ったのよ。しっかりとバランスを保ってね」


「ああ、あれは俺の技術を使っている」


「え? 技術ぅ?」


「大きいジャンプした後、ゆっくりと梁に近づいた気がせんかったか?」


「わからん。何もわからん」


「そうか。だがあの大ジャンプ畳で事故って貰っちゃあ困るんでな。持ち得る限りの最新技術を使っている。ゆっくりと確実に足場に着地するように飛ばしているんだよ。どんな角度だろうが必ずあの梁の真ん中に立たせるようにしてあるぜ。もし障害物が途中であったら避けて梁に立たせる」


「はあ? なんだその技術……あの原始的な仕掛けにそんなもの使ってどうするのよ」


「この屋敷のほとんどの施設は俺が担当していてな。職人の意地って奴か?」


「鍛冶屋だけじゃないの? 凄いね。あ、話が逸れちゃったね。そんなに忍者っているの?」


「いるぞ」


「都内で忍者って何してるの?」


「分かんねえ。そうだ、おい! 倉間!」 


「なんだよ! え? お客さん?」

すると、倉間と呼ばれた男の子が隣の部屋から顔を出す。


「だ、だれ? 私と同じくらい?」


「10歳だ。倉間獅童くらましどうだ。俺の助手をやってる。いわゆる鍛冶屋の卵って奴だ」


「よ、よろしく」


「へえ、よろしくね! アリサって言うのよ? 11歳でお姉さんだからね? 尊敬してね?」 


「ああ、アリサって言うのか。いい名前だな」


「そうね。て、あ! また悠々ハクションとトラクエじゃんww」


「蔵馬とシドーってか? 偶然だぜ?」


「すごいね。竜王とシドーって……世界征服出来そうじゃんwで、何で呼んだの?」


「蔵馬、聞いてただろ? おめえはどう考える?」


「うーん素人に聞く? ただの鍛冶屋見習いでしょ?」


「まあ考えてみるよ。えっと、まずは諜報活動かな? 企業スパイとしての情報収集や政治・経済動向の監視に、セキュリティチェックの依頼を受け、企業の防御力をテスト。

他には……忍術を駆使した要人の非対抗護衛。要は気配を消して見守る感じの護衛。それにパルクールやアクロバットが出来る忍びは、それをショーとして披露したり、映画・ドラマ・アクションショーでのスタントに、ショーのパフォーマーにゲームやアニメのモーションキャプチャー担当も出来そうだな。

他には……YouTubeで忍術の動画投稿で継承・教育や実際に体験ツアー、ワークショップの講師武術や瞑想、呼吸法を教えるインストラクター。現代に生きる忍びとして、都市内で起こりそうな災害から生き残る為のサバイバル術の伝授、防犯・防災テクニックを広める活動に、秘密裏に依頼される調査・回収・潜入ミッション。合法的な範囲で出来そうな物に短時間監視調査員としての活動くらいかなあ?」

なんだ? この少年は?


「すご! 天才じゃん」(同じ10歳だし嫌でも部長のことを思い出しちゃうなあ。でも流石に部長と比べるとまだまだって感じね……)


「お、おお……そんなに忍者って色々出来るのかよ……戦いだけじゃなかったのか……」


「多分こんなのはまだ一部だと思うよ。他にもあると思うけど、この辺で許してくれ。じゃあ勉強に戻るぞ」

勉強をしていたらしいな。この学校の授業ではないようだが。それに10歳なら小学校に行っていないといけない時間だが……この子は特別なのだろうか?


「お、おう……俺は諜報活動の時点で思い付けんかったぞ……俺は素人以下じゃねえか……この仕事やって30年……こんなに知らねえことがあったなんて悔しいぜ……俺なんか忍者は戦うと忍ぶの二つだけしかねえと思ってたぜ」


「職人ならしょうがないよw許してあげるwじゃあ部屋の紹介途中だったっしょ? 続けて?」


「何でおめえが上から目線なんだよ……倉間の手柄だろうが! く、くそ……じゃあこれは、異国の技術を取り入れた仕掛けを作る専門の台だな。仕込み刀の内部に忍ばせるバネや、機械仕掛けの仕組みを作るための細工用の工具達だ」


「こっちのは小型のノコギリや細いドリル?」


「これは新たな鋳型を作るための工具だな。鋳型は木を切って箱状に繋ぎ合わせて鋳物の元となる砂を固めて作るんだ。滅多に依頼は来ねえがな。で、奥の台には忍び道具を隠し持てるように装束に特殊な加工を施すための道具もあるんだ。竹筒をくり抜いて吹き矢の筒を作るための小刀、衣服に小さな仕込み袋を縫い付ける為の針と糸、更には毒や薬品を仕込む薬研や乳鉢も備えられてるぞ」


「へえ、暗器みたいな物ね?」


「そうだ、詳しいな。で、外には、完成した武器や道具を試すための砂地の実験場が広がっている。木製の人形や的で、ここで、俺自身が手裏剣のバランスを確認したり、忍者も自身の手に馴染むかを確かめる場として活用されているぞ」


「これが手裏剣かあ。結構重いねえ。これを忍者たちは遠くまで飛ばせるのかあ」

勝手に触るアリサ。


「こらこら素人が勝手に持つんじゃない!」 


「駄目?」


「普通に手が切れるぜ。そこに置いとけ」


「はいっ!」


「苦無も忍刀も本当に切れるからな? 触るなよ?」


「でも竜王さんは30年も同じ場所で作ってるのね? 他の事はしたいと思わなかったの」


「俺は親父を超えられていない。超えるまではやりてえと思うだろ? それが忍びの為になるってんならここでずっとここでって言うのも悪かねえな」


「私は色々なことをしたいと思っているわ」


「例えば?」


「刑事にもなりたいしマジック画家にも、そしてお笑い芸人にもなりたいし、呪文の達人にもなりたい」


「どれもこれも中途半端になりそうだな。特にお笑い芸人? どうしてそんなのになりてえんだ?」


「あいつに勝ちたい」


「あいつか? おめえも誰かライバルでもいるのか?」


「ええ、恐ろしく賢い奴よ……え? ま、また?」

意識が、遠のく……


「お、おい? アリサ? どうした?」

アリサは床の上に倒れてしまう。


ーーーーーーーーーーーAnother Story Syu Shirakawaーーーーーーーーーーー

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