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真田行家 遊び場 変幻自在畳の広間

寄り道の寄り道


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カンカン カンカン

アリサが音のする庭へ向かう。照代は追いかけてアリサを止める。

「ちょっと待ちなさいよ!」


「うるせえ」


「もう」


「ちょっと遊んできなさい」


「分かったわ。とりあえず食堂でも行ってくるわ」(まあ好きに見ていなさい。私の説明なしであちこちうろついたら絶対に後悔するんだからねっ! この真田行家の真の姿を。真の恐怖を思う存分に味わうのねっっっっ!)

とことこ

照代は去っていった。


「全く……折角集中してたのに……ん? あっちも気になるけどこっちも気になる……」

音のする方向へと歩いていたが、途中、廊下の突き当たりにある巨大な広間を発見する。


「こういう時はこれかな? どーれーにしようかなー天の神様の言う通り、なのなのな。鉄砲撃って、バンバンバン。 柿の種、もひとつおまけに、なのなのな。 裏の神様に聞きゃ、すぐわかる。 あべべのべの、べ ……金属音か、大広間か。 ど・っ・ち・に・し・よ・う・か・なっ!! はいっ!! よし、じゃあこっちから先にいこうっと」

アリサは突然


『選び歌』


を歌い始める。これは問題に直面し、どちらも魅力的で優先順位が分からない場合、子供達がよく歌う歌のことだな。しかし歌詞に柿の種や鉄砲などもあるのか……それにまさかあれに選び歌などという名称があるとも思わなかったがな……だがアリサは本来食事をするために照代に付いていくはずだったが、庭に響く謎の音の引き寄せられたのだ。だがさらそこから目についた広い部屋に寄り道をする形となっている。神様は随分と気まぐれなサイコロを振ったものだな。まあ私は彼女の行動に干渉できぬ。引き続き成り行きを見守るとするか。 


「お邪魔します……え? 誰もいないのお?」

どうやら広間が選択されたようだな。そして入口の梁には


『遊び場』


の看板が飾られている。

そこは、生徒たちが昼休みや放課後に集まる


『遊び場』


ということなのだろう。ならばここは普通の学校で例えると、いわゆる体育館のようなものなのだろうな。そんな広間まで屋敷内に設置出来る資金力は大したものだな。

そして当然普通の学校の物とは何もかもが違う。それをこれからアリサが体を張って紹介してくれる筈だ。


「広いわね……どれから行こうかな。色々ありそう……」

部屋は20平方メートルくらいの畳敷きの部屋。ただ、部屋の四辺の部分は木で作られている。一見、木と畳で構成された平凡な体育館と言った感じだが、床から何かの音が響いている。

他にもおかしなところを挙げて行けばきりがないが、天井を見上げれば、無数のはりがジャングルジムのように入り組み、そこから縄が垂れ下がっている。ただ、一つ小さい部屋が広間に置いてある。アリサから見て右上の方である。

―————————―————————―—

│         │          │

│         │          │

│         │    小屋    │

│         │          │

│------ 全面畳20㎡------- │

│         │          │

│         │          │

│         │          │

―————————  ―————————

        アリサ

         

               

まずは入り口の畳。これはシーソー畳の床だ。床一面に敷き詰められた畳は同じ形だがいくつかのギミックが仕掛けられていて、例えば広間左下の畳は、踏むとシーソーのように下がる


『不均衡畳』


なのだ。中途半端なところに立ち止まっていては、そのまま落ちて地下室へ。今は授業中で誰もいないが、休み時間には生徒たちはここを走り回りながら、重心の制御を遊びとして学べるようだな。


「何か音が響いてる……怪しいわね」

アリサは広間を見渡し考える。


「なによ! ただの遊び場よね? 恐れることはない……かな? い、いやでも慎重に……」

忍者屋敷の遊び場が、ただの子どもの遊び部屋になるはずもない。その辺は理解しているようだな。警戒しつつ、慎重に最初の一歩を踏み出した。

左利きの彼女は入り口から入り、木の足場から少し歩き、中央より左側の畳を踏んだ。すると……

バコンッ!


「きゃっ!?」

足元の畳が突然シーソーのように下がる、アリサの足元が、垂直に近い角度で奈落へと傾斜する。


「……あ、足がっ……!!」


このままでは床下の暗闇に飲み込まれる。その瞬間、アリサの指先が反射的に壁を捉えた。正確には、


『寄せ付け』


と呼ばれる畳と畳の間に走る唯一の不動の支えに咄嗟に指をかけ、ぶら下がる。さがった畳はアリサの足に触れている間は下がったまま止まっている。手を離せばいつでも地下室に落ちることとなるな。


「ちょっと……! なんなのよこれ! 落ちる! 落ちたくない!」


何とか這い上がり、体重をかけても大丈夫だが薄い寄せ付けの上に立ちバランスを取り、一つとなりの畳へ足を乗せる。

「こっちは?」

ガコン


「きゃあ」

そこも乗ったら下がる畳となっていた。

ガッ


再び寄せ付けを掴み考える。


「こういうことか……うわああ」


底にはクッション代わりに藁が敷き詰められ、落ちた後でも畳の部屋へと戻れる梯子も設置されてはいたが、高所恐怖症のアリサ、下を見るや否や顔を引き攣らせる。生徒たちはこれを遊びで避けているというのか……すごいなあ。


「ちょ、よいしょ……はあはあ……この畳、片側に体重をかけると下がるのね? 畳に見せかけたシーソーってことなのね? はあ、はあ……屈辱だけど、背に腹は代えられないわ……!」


アリサは一旦畳の間の細い木の上にバランスを取りながら移動を開始。その数センチの足場を必死に進む。これは本来のこの畳の攻略法ではない。だから屈辱だと言っているのだろうな。だがこのバランスもすごいと思うが……そのすぐ両端は傾く畳。だが常人ではできないほどの集中力で安定した地点、広間の隅まで逃げおおせた彼女。再びそこから入口に戻る。そのまま逃げればいいのだが逃げんだろうなあ。


「見てなさい……構造さえ分かれば、次こそは……! 片側に体重が乗ると下がるんだから、大体真ん中を意識して歩けば進めるのね? だったら、常に


『畳の真芯ましん


を捉え続ければ、水平を保てるはず……!」

アリサは鋭い視線で畳を観察した。


「基本の動きは畳の中央、すなわち


「重心の支点」


をピンポイントで踏み抜く。シーソーの真ん中に立ち傾かせないように自分のセンスで調節するような感覚ね。で、それを捕えたらその位置から足の開きを一切変えず、短い歩幅、相撲のすり足みたいに移動すれば傾かないわ。

で横方向はいいけれど縦向き畳への移動はどうするか? これはジャンプしかないわ。隣の畳が


『縦向き』


に変わる境界線では、そのまま歩くと重心がブレ落ちる。だから、次の畳が縦ならば、その


『ど真ん中』


を目指して、精密な小ジャンプするしかないわ。横向きの畳から、90度角度の違う縦向きの畳の重心へ飛ぶこと、そして着地した瞬間に動揺しバランスが少しでも狂えば、一気に傾く。確かにこの空中での体勢制御は並の人間では出来ない。でも私は推理クラブの副部長。故に完全に出来る!!」

アリサはまるで信頼できない根拠を述べつつ進む。だがアリサの理論は間違っている訳ではなかったようで、傾かずに水平を保つことができた。こんな感じだ。

  

   〇

   大

   ▢▢


これは、一枚の畳を二枚の▢で表現し、その中央に立ってバランスを保っていることを表している。


「よっ、はっ」

何とか畳の法則を理解し、バランスを維持する。アリサは畳の中央を意識し、短い歩幅で進む。


「やったわ! 下がらない! 攻略完了! いや、まだあれがある」

そう、縦向きの畳へのジャンプ移動も残っている。空中で体の軸を垂直に固定し、畳の正中線上へと着地をしなくてはならない。


「やあっ」

忌憚なくジャンプ。


「むむう」

重心が揺らぐ。だが焦ればさらに悪化する。心を落ち着け立つ。

グラグラ……ぴたっ


「おいこれいけるやんけわれえ!」

得意の関西弁が発動。これはいけるのか?


「よし、次は……」

コツをつかんだか? わざと90度向きの違う畳を選びジャンプを繰り返した。

  

「これが忍者の学校の遊び場なのね? コツさえつかめれば楽しいわwwwでも一辺がおよそ20メートルの広間。普通に歩けば15秒もかからない距離なのに、この移動方法では10倍はかかるわ。でも焦っちゃ駄目。取り合えずあっちの壁まで飛びましょう」 

バランスを取りながら冷静に状況を整理する。

広間の中央の壁際まで辿り着いた頃には、アリサの集中力は限界に達していたが、足元は一度も沈むことはなかった。


「ふう、この畳……バランス維持すると内ももが痛くなるわね。もう筋肉痛になってる……普段鍛えないところを鍛えている証拠よね」

広間の壁際には休憩できるスペースがありそこで5分ほど休息する。


「まだ始まったばかりよ! 奥まで行ってみよう」

さらに北上しようとジャンプする。


「え? きゃあああ」

すー

アリサは畳の中央に間違いなく飛び乗ったはずだった。だが、畳はアリサの体重を確認するや否や、右に滑るように移動し始める。


「ちょっと! 止まって!!」

ピタッ


「あ、良かった……止まってくれて……音声認識システムなんだね。すごいじゃん」

ところが

スー


「ちょっと! 今度は上かああ」

広間の中央で右に移動するのは止まり、上へと移動する。

  ―————————―————————―—

  │        ↑ │          │

  │        ↑ │          │

  │        ↑ │    小屋    │

  │アリサ→→→→→↑ │          │

  │------ 全面畳20㎡------- │

  │         │          │

  │  シーソー畳  │          │

  │         │          │

  ―————————  ―————————

そして上の突き当りに行くと左に向きを変え,その突き当りで下を目指す。これは渦のように動いているな。

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  │↓ ←←←←←←← ↑ │          │

  │↓ ←←←←←←←↑ ↑ │          │

  │↓ ↓→→???? ↑ ↑ │    小屋    │

  │↓ →→→→→→ ↑ ↑ │          │

  │アリサ→→→→→ ↑ │          │

  │------ 全面畳20㎡------- │

  │         │          │

  │  シーソー畳  │          │

  │         │          │

  ―————————  ―————————

「え? これ渦になってる? 中央を目指してない? どうなるの? 頭が回るうううう」

中央に付くと……ヒューン……ドサッ

藁の上に落ちる。15ポイントのダメージを受けた。


「いてててて……落し穴かよ……折角シーソーのところでは引っかからなかったのに……まあ、二度は引っかからないわ! 動き始めたら反対向きに全力疾走すればいいだけよ。でもシーソーから移動畳に切り替わったわね。多分真ん中より上は移動畳。下半分はシーソー畳って感じかしら? もしかして右半分の上下もただの畳じゃないのか? ま、まさかね……」

左上の畳はランニングマシーンの様な物であろうな。ただ角に差し掛かると向きが変わるので非常に危険である。


「暗いけどところどころにろうそくの照明があるわ……それでも薄気味悪いわねえ……白骨とか転がってないよね? あ、梯子!」

地下室は広間と同じ広さで4隅の方に梯子がある。アリサは一番近くの広間の右上の梯子から広間へと戻る。


「ここまで来たからにはあの小屋にも行ってみたいわね。ふうちょっと疲れたわ。え? ぎゃあああ」

くるりん

息を整えようと壁に手を触れると壁が音もなく回転。アリサの体は壁の向こう側、広間の隠し部屋に移動してしまう。この広間には壁抜けの仕掛けも至る所に仕掛けられている。


「まさしく忍者屋敷だなあ。息つく暇もないわ……誰がこんな悪趣味な設計をしたのよ! 庭には罠がなかったけどここは酷いわ」

庭にも沢山罠があったのだがな。だが庭の罠は自然を利用したり、原始的な罠が多かったが、移動畳はどう考えても電気の力を使っている気がする。忍者屋敷にそぐわぬ技術のような気もするな。

だがそれを利用し生徒たちは山道などで練習せずともここで不安定な足場での移動の修行をしているのかもしれない。もう一度回転させ一旦広間に戻る、壁には梯子がある。天井に向けて立てかけられていた。


「あ、梯子だ! 上もあるんだ。天井たっかい! どうしようかな?」

まあ行かないだろうな。


「よいしょ」

ぬ? 上層階へ向かおうというのか? アリサは壁に立てかけられた梯子を上り様子をうかがう。

目の前に梁が剥き出しになった吹き抜けが現れた。 下を見れば、先ほどの広間が遥か下方に見える。


「やば、そういや高所恐怖症だったんだよ。でも好奇心が自己防衛本能を上回っちゃう……でもこんな高いとこをここの生徒? 達はそれこそぴょんぴょん飛び回って鍛えてるのか。私も……私だって!」

負けず嫌いのアリサ。見えない相手を勝手にライバル視し、張り合おうとしてしまう。


「あ、これは……しょうがないわねえ。これは、ここについている物でしょ? 付けないで行く手もあるけど今回だけは付けてあげますか……」

梁の少し上に沿って鉄線が。それに輪の付いたロープが垂れ下がっている。これは命綱だろう。それを付け歩いてみることにする。まあ忍者学校の生徒と言えど、この高さから落ちたら危ない。流石にこれ位は用意しないといけないな。


「そろーりそろーり」

慎重に歩き、梁の半分まで到達。


「これで折り返し……はあはあ、ひいひい、ふうふう、へえへえ、ほおほお……あら? 自分でも驚いたわ。今ので


『は・ひ・ふ・へ・ほ』


全て使用した


【は行完全制覇ためいき】


が完成しちゃったじゃない」

何を言っているのだ……疲れすぎて脳が正常な判断を欠いているのか? そんな言葉を勝手に作っちゃだめだよ? ぬ? ためいき? あの疲れた時に出る息もためいきと言うのか? 何か違和感があるな。ためいきは落ち込んだ時に使う物であろう?


「ああ、そうなのよ。そこが日本語の面白いところで、ためいきは溜息と書いて、もともと感情ではなく呼吸の種類を指す言葉なのよ。


『がっかりしたとき → はぁ……』


『疲れ切ったとき → はあはあ……』


『緊張がほどけたとき → はぁ〜』


これは全部同じ


『深く長く吐く呼吸=溜息』


なので、日本語では一つの言葉でまとめられているのよ。だから、落ち込んだ息、疲れた息、安心した息は、気持ちは違っても同じ言葉が使われるのね。で、お前が感じた


『落ち込んだ時の言葉だと思っていた』


という感覚も正しくて、それは溜息が感情と強く結びついて使われてきたからなのよ。

でも根っこは全て


『体が深く息を吐く動作』


なのよ。気分が沈んだ時も、体が疲れた時も、同じ言葉でちゃんと通じるの。日本語ってうまくできてるよね」

ほおほお……というか私に言っていたのだな? でもお前呼ばわりは傷つくから出来るだけ言わないほうがいいよ? でもアリサはこういう時、そう、アリサは疲れたり弱ったりすると、私の言葉が届いてしまうのだった。うっかりしていた……そして私に日本語の講釈を垂れ終えた時、彼女のスタミナは文字通りゼロになった。


「……もう一歩も動けない。誰か、私を台車に乗せて運んでくれないかしら……なーんて、冗談はこの辺で……残り半分だ! いくわよ!」

冷や汗を流し、過呼吸になりながらも一本の細い梁の上でバランスを取りながら、歩く。


「はあはあ……向こう側に付いたら最強、ふうふう……向こう側に付いたら最強……」

そろそろ そろそろ 

その姿は正しく女の子の忍びである。


ーーーーーーー30分後ーーーーーーーー


「ついたああああああ……はあはあ……ねえアリサ様? 何でこんなことをなさろうと思いあそばされましたのですか? こんなの全く意味ないですよね。これは本当に怖くて苦しかったのですよ? ……でも待って? アリサ様! これを終えた後になんか物凄い達成感! そうだったんですね? この例えようのない素晴らしい成功体験を味わうためにわざわざやったのですね? 流石アリサ様です! ますます尊敬します!!」

一人で謎のやり取りをするアリサ。だが、高所恐怖症のアリサが命綱があるとはいえ地上から4メートル上の幅20センチ、長さ20メートルの梁を歩き通した。意地が恐怖を上回った瞬間だ。因みに梁にはいくつかのロープがぶら下がっている。慣れている生徒はここから梁に上ることも出来るのだ。アリサもそのロープの存在も利用法も理解はしていたが流石に触れることはなかった。そう、逃げたのだ。まあ体力消費も著しい。勇気ある撤退だろう。


「もうやばい、降りる。言われた♪言われた♪言われた―からやーった♪」

そして満足して鼻歌交じりで梯子を下りる。


「さて、もう出ようかしら? あら? まだ残ってるわねえ」

大きな広間に室内にもう一つの部屋らしきものがある。図では右上に当たる場所だ。

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│         │          │

│         │          │

│   移動畳   │    小屋    │

│         │          │

│------ 全面畳20㎡------- │

│         │          │

│  シーソー畳  │          │

│         │          │

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梁渡りで左端から右端の壁まで渡った後、梯子を下りたアリサは広間の右の真ん中辺りにいる。

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│         │          │

│         │          │

│   移動畳   │    小屋    │

│         │          │

│------ 全面畳20㎡---- アリサ│

│         │          │

│  シーソー畳  │          │

│         │          │

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そこから少し上へと歩けば届く部屋だな。これは御殿内ごてんない、又は置き部屋おきべや

と呼ばれ、大広間の内部に後から別の構造物を作った形式を指す。

江戸時代の豪華な屋敷などで、大広間の中に茶室や貴賓室を独立して設ける際にもこの建築形式は使われる。そして、真田行家ではそこに


『万華鏡の壁』


と呼ばれる部屋を設置している。この部屋の特長は、中に無数の鏡があるということだ。


「なにかしら?」

当然好奇心の塊のアリサ。躊躇いなくその部屋に足を踏み入れる。その瞬間、視界は数千、数万の


『アリサ』


で埋め尽くされる。


「ここも……誰もいないわね。まあ逆に誰かいたら怖いわ。多分今はみんな授業中なのかもね……しかし悪趣味な部屋ね……うわっ、何これ。どこを見ても私、私、私……ナルシストなら喜ぶんでしょうけど、でへへ……周囲の全てが美しい……」

大喜びである。


「でもいつまでも見とれている場合じゃないわ。それに平衡感覚がおかしくなるわ」

視覚を狂わせる部屋。この部屋は忍者の修行なのか? 一体何の役に立つのだろう。まあ素人はここに長居は出来そうにないな。


「このまま入り口に戻ってもいいけど……アリサはそんなことはしない。入った瞬間勝負を受けたということなんだから。出口を探す!!」

そう息巻くが入った瞬間から一歩進むにつれ自分がどこに立っているのか、上下左右の感覚が完全に消失する。


「こんな子供だましに引っ掛かるわけないでしょ。ここかしら? 駄目ね……いてっ! 美しい二人のアリサ様同士で頭をぶつけてしまいましたわ。じゃあここ? よし」

ギイ

アリサは眩暈に耐えながら、必死に壁を伝い、出口の扉を押し開けた。かくれんぼをするには最適? というより、そこを隠れ場所に使ったら卑怯とまで言われそうである。


「完全攻略ね。でも……二度と入らないわあんな場所……寄り道しちゃったけどそろそろ音の方に行ってみないと……」

アリサが現在いる場所は入り口からかなり離れている。場所は右上。ここには鏡の間があるので畳自体にはギミックはない。だがそこから入口へと向かおうと歩くと、はじめに遭遇したシーソーではなく別の畳のギミックがあるのだ。この付近は、忍者の瞬発力と適応力を極限まで試す


千変万化せんぺんばんか混成畳こんせいだたみの領域】


だったのだ。

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│         │          │

│         │          │

│   移動畳   │    小屋    │

│         │          │

│------ 全面畳20㎡------- │

│         │千変万化・混成畳  │

│  シーソー畳  │の領域       │

│         │          │

―————————  ―————————


まだ帰れそうにないということか。だがそんなことを知らず油断しているアリサ。


「……よし、もうお腹いっぱいだからここを出ましょう」

アリサは鏡の部屋でぶつけた頭をさすりながら広間の右下半分を過ぎた畳を踏む。すると……

びよぉぉぉんっ!


「きゃあああ!? 何これっ!?」

最初の一歩で、アリサの体は3メートル跳ね上げられた。


「あっちのとは違う? 畳が跳ねるなんて聞いてないわよ!」

と空中で手足をバタつかせながら、隣の畳へ着地する。すると今度は?


「……っ!? 抜けない、足が抜けないわ! 何よこの畳!」

そこはまるで底なしの流砂のような畳だった。 ズブズブと膝まで沈み込み、踏ん張ろうとすればするほど深みにハマっていく。アリサは半泣きで這い上がり、さっき跳ねたはずの畳へ戻ろうとした。


「もうっ、さっきの


『ジャンピング畳』


に戻るわ……えっ?」

ズブブブブッ……


「嘘でしょ!? さっきまで跳ねてたじゃない! なんでここも沈むのよ!」


すると答えはこれだよ? と言わんばかりのタイミングで床下から


『ガコン……』


という不気味な歯車の音が聞こえる。

アリサは気づいていなかった。この部屋は一定時間ごとに、地下の仕掛けで畳の配置をランダムに入れ替えているのだ。


「え? 約束が違うよ? ひっ、また沈む! 次は……あっち! ぎゃあまた沈む! 助けてー」

2026年で最高の命乞いを始めるも、誰も助けには来ない。

最早運頼みで赤ん坊のヨチヨチ歩きでトランポリンの勢いを極限まで抑えつつ跳ねたり、沈んだりの繰り返しでようやく隅の方へと逃げおおせた。そして最後の畳に差し掛かる。


「はあはあ……ぜいぜい……これで安全地帯よね?」

すると……

ぴょーーーーーん


「ぎゃああああ」

大ジャンプの畳に踏み入れてしまった。下から物凄い力で押し上げ、アリサを先程の梁の上まで戻してしまう。戻った場所は広間の右端の梁の上。位置的には広間の右中央である。ここからまた梯子を下りて帰ろうとするとまた大ジャンプで戻されかねない。


「さっきの場所じゃない! そうか、ロープでよじ登ったりはしごで登るのが面倒な場合、このジャンプ畳で一気にショートカットしてねってことね? 親を切ると書いて親切う!! それじゃここを渡って入口に戻るしかないかも……」

命綱を付け梁を渡り、梯子からシーソー畳のところまで戻り、入口に生還した。


「なんちゅう部屋だ……全身が痛いよ……真田行家。この家の設計者は、絶対に性格が歪んでいるわ。きっと家の人も歪み切ってるに違いないわ……」

アリサは畳の色をした緑色の砂を払いつつ額の汗を拭った。だが、まだこの時は、自分が後に登場するこの屋敷を逃げ回る


『存在』


を追い詰めるためにこの知識を使うことになるとは思いもよらず、ただただ屋敷の異常性に腹を立てていた。


「さて、音のする方に行ってみるか。もう寄り道はしない!」

そして寄り道はまだ続くようだな。照代の元へは戻らず。次の寄り道先へと急ぐ。全く……好奇心旺盛である。

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