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真田行家 忍術学校二組教師 忍神 忍

「じゃあ次はどうする?」 


「じゃあ一番下の二組にしようかしら」


「二組ね? すぐ隣よ」

歩いて数歩、二組の前に着く。入る前にアリサが一言。


「さっきの人だけど、葉隠だっけ? バカみたいな顔の上にハの字眉毛でしょ?」 


「ええ、少し下がった感じだよね……ってバカは余計よ!」


「私の大切なツッコミの


『小さいは余計よ!』 


の言い方をリスペクトしてるじゃん」


「あらやだ」


「無意識のうちにやってしまうって言うのはその人に対するリスペクトだと思うからちょっと鼻が高いわwでね? ああいう奴って気が弱いし思いっきり優柔不断だと思うな。上に立つ者としてのあれやこれやが足りねえ。あと、卑屈な感じがして更には女癖が悪い印象を受けたわ。だからアリサの好きなタイプでは無い。参考にするかはあなた次第。以上!」


「そうなのね? でもちょっと見ただけでしょお? 何でそこまで分かるのお?」 


「逆にずっといるのにそんなことすら分からないの? ちょっとヤバいわよ?」


「まあ、まだ家に戻って一週間くらいだからねえ。その時初めましてだから」


「そっか、ずっと都会の新聞記者やってて、殺されかけて最近帰ったんだもんね。でも手紙では結構ずっと一緒にいるみたいなこと書いてたから」


「ああ、親にしつこいくらい紹介されたからそう感じてしまったのでござるね。もう赤の他人ではないってくらい事細かに教えてきたわ」


「その時から結婚させるつもりだったのかもね」


「そうかもね。だって久しぶりに帰った娘に対して、お帰りって言葉すら言わず、開口一番に4人を紹介し始めたからねえ」


「露骨すぎw」


「ええww玄関で勢ぞろいでちょっと怖かったわ。みんな私を下から上へ舐めまわすように見てたもの……うん、葉隠先生の件は参考にしておくわ。じゃあ次いくわ」

二組のふすまを開ける。


忍神(にんじん)先生? ちょっと見学に来たでござる。今時間いいでござるか?」


「これは照代殿? こんにちはでござる! 相変わらずお美しい……見学でござるか? 大丈夫でござる」

先程の葉隠は私服だったのだが、この男は忍者の格好をしている。更に背中に短刀を差しており、頭には鉢金を装備している。いつ敵襲にあっても対応出来そうな状態であるな。年齢は葉隠より若そうだ。25才位であろう。


「人参? 免疫力を高めたり、血圧を下げたり、便秘を解消したり肌や粘膜を健康に保ったり目の健康を保ち、骨や歯を強くしむくみを予防するあれ?」


「ほう、人参にはそんな健康効果があるでござるのか?」


「そうね、私は嫌いだけど人参にはビタミンC、ペクチンと言う食物繊維、βカロテン、ビタミンA、ルテイン等が含まれているからね」


「詳しいでござるね。人参の博士でござるか? この件に関してもインフォメーションダンシャリィを行わないのでござるね? 毒と食べ物関係はインフォメーションダンシャリィ不必要の必須科目でござるか?」


「まあ食べ物全般に詳しいだけよ? 生きる上で必要だからね。あのさあおばさんさあ、ことあるごとに言うやん」


「え?」


「インフォメーションダンシャリィよ! それ、多用しないで? 私の物だったはずなのにあんたの物になりつつある」


「気に入ってしまったので使えそうと思った時には使って


『よく使うなあ。インフォメーションダンシャリィって言葉、もしやあの人の編み出した言葉なんじゃないか?』


という刷り込みを行い、自分のモノにしようと企んでいたでござるがバレてしまったでござる」


「そうだと思ったよ。そんな泥棒猫みたいなことしちゃ駄目よ? 自分で編み出しなさい。気に入った響きを自分で作り出す能力こそこの世で最も崇高な能力なんだから。所詮借り物で満たしてもいずれ虚しくなるだけ。早くそれに気付きなさい。そしていち早く


『こちら側』


にいらっしゃい。あんたが今やっているのは、他人が血肉を削って生み出した宝石を、百円ショップのプラスチックケースに詰め替えて売るような浅ましい行為よ? 恥を知りなさい」


「ひえ……でも、良い言葉はみんなで共有した方が世界が平和になると思わないでござるか? 著作権フリー、概念フリーでござる! それにさっきバカは余計よ! って言った時リスペクトの表れということで鼻高々だったでござるよ? 今回も鼻高々で終わればいいのに……何でそこまで怒るんでござるか?」


「さっきと今では明確に違いがあるのよ。それが分からないの? なら教えてあげる。これは平和じゃなくて、


『思考の停滞』


よ。さっきは私の大切な


『小さいは余計よ』


をアレンジした形で


『バカは余計よ』


と言った。だから許した。でも今のはまんま使ってしまっている。このニュアンスの違いをいつまでも理解できない様ならいつまでたってもこちら側には来れないわよ? 誰かが作った言葉をなぞるだけの人生なんて、他人が噛み砕いたガムをもう一度噛むようなものでしょう? 味もしないし、何より不衛生よ。私の語彙の庭から勝手に果実を盗まないで。あんたにはあんたの、その


『忍者の子孫』


という、カビの生えた設定から滲み出る独自の言葉があるはずでしょ? それを絞り出しなさい。ちょっと考えればひねり出せそうなのに 


『ござる』


のみに甘え、思考停止しているように見えるわ」


「カ、カビって……! 私のアイデンティティを全否定でござるか!? でも、自分だけの言葉なんて、そう簡単に……アリサは一体、どんな修行をして


『あちら側』


に辿り着いたのでござるか?」


「修行なんて必要ないわ。ただ、世界を自分の目線で、自分の解像度で切り取る覚悟を持つだけ。そうすれば、自ずと


『インフォメーションダンシャリィ』


なんていう、天から降ってきたような神々しい言葉が舞い降りてくるの。それを横から網で掬い取ろうとするなんて、万死に値するわ。いい? あんたが次に私の造語を盗んだら、その瞬間にあんたの脳内の全情報を物理的にダンシャリィしてあげるから、覚悟しておきなさい。初期化されたくないなら、その口をチャックするか、新しい概念を自力で出産しなさいな」


「し、出産……! 結婚前の乙女には重すぎる現実を叩き付けられたでござる……」 


「オラ、脳が止まってるのか? 思いつけねえのか? 私の3倍生きてるんだろ? ただ長く生きてるだけじゃあないよな?」


「く! 頑張って考えてみるでござるよ。えーと、えーと……


『ニンジャ・リバイバル・デリート』


……とか?」


「ニンジャ・リバイバル・デリートねえ……それとこの、インフォメーションダンシャリィを戦わせようとしたんだ……センスゼロね。 


『リバイバル』



『デリート』


を並べるなんて、アクセルとブレーキを同時に踏み抜いて自爆してるようなものよ。再生したいのか消したいのかハッキリしなさい。言葉のサラダボウルにして誤魔化そうとするその根性が、まさに


『あちら側』


で二の足を踏んでる凡人的発想ね。二度と私の前で創作活動をしないで? 不快指数が急上昇して、私の美肌成分が酸化しちゃうわ」


「ひどいでござるー!!」

ふむ、語彙の所有権を巡る、泥沼の知性バトルであるな。アリサにここまで言わしめるとは、この忍びの女、相当な


『言葉の貧困層』


だったようである。だが、こうして言葉をぶつけ合うことで文字数が稼げるのだから、私としては彼女のナンセンスに感謝せずにはいられない。サンキュな、照代。


「どうやら分かってくれた様ね。じゃあ話を戻すよ? で、人参に含まれるビタミンCには免疫力を高めるから、感染症から身体を守る効果があり、食物繊維には腸内環境を整え、善玉菌を育て、免疫力を高める事が出来、カリウムには余分なナトリウムを体外に排出する働きがあり、血圧を下げ高血圧を予防する効果が期待出来て、ペクチンと呼ばれる食物繊維が豊富に含まれており、腸の調子を整え便秘を解消する働きがあるのね。

β-カロテンは体内でビタミンAに変換され、皮膚や粘膜を丈夫に保つ働きがあり、更には目の機能を保つ働きがあり、ルテインは目の水晶体や黄斑部に多く存在し、紫外線などのダメージから目を守るんだって」

ふむ、


【ニンジン 健康効果】


を検索して一番上にあるサイトに出ている様な説明口調であるな。


「勉強になったわ。サイトのコピペ乙。でもね、その人参とは違うのよアリサ」


「だったら途中で突っ込みなさい! 最後まで説明して文字数稼ぎ出来ちゃったじゃんwww」

うむ、それは非常に良いことだ。おめでとう。


「それはおめでとう! でも、私も人参の成分に興味があったし知らないことばかりで、アリサの口から紡ぎ出される新しい知識が脳に刻まれる事実で喜びが半端なかったの。だから、止められなかったわ……」


「不覚ながら拙者もでござった……ところで文字数稼ぎとは一体なんでござる?」

なんとまあ、この男、そんな基礎知識すらも知らぬとは……悲しい男である……まあまだ発展途上なのだろうな……だが、この残念とも言える質問すらも文字数稼ぎと考えて置けば気が楽になるというもの。サンキュな、忍神とやら。


「私も良く分からないのよ。それでも喜ぶ奴がいるみたいでねえ。まあやらないよりやった方がいい行為ってことだけは簡単に分かる」

うむ。


「そうなんでござるか? 具体的にはどうすればいいでござる?」


「沢山喋ればいいのよ。余計なこともそうでないことも」

甘いな。アリサはこの学問の真相にはまだ到達していない様だな。もっともっと沢山の稼ぎ方があるのだ。


「なるほど」


「この人は忍神 (しのぶ)先生よ。右から読んでも左から読んでも忍神忍なのね。凄いよね?」


「凄くないよ。それに厳密に言えば右から読んだら、


『ぶのしんじんに』


でしょ!」


「部の新人似? 確かにそうだけど、そこは漢字で感じて」


「何が感じてよ! ダジャレ大好きおばさんってことでいいの?」


「お姉さんね。後、好きと言うよりはダジャレの達人ね。合わせるとダジャレ達人お姉さんね」


「でもおばさんそこまでの功績残していないよ?」


「よくもまあそんなこと言えるわね。あんた、私の最高傑作のダジャレの


『忍者になるのは堪忍じゃ』


を葉隠先生の前で使ったじゃない? で、


『私のネタをパクったでしょ?』


って抗議したら、自分が思い付いた体でそれを絶妙なネタって自画自賛していたわ。その言葉で私はこの肩書を名乗ってもいいって感じたのよ。アリサのお陰で自分のダジャレは達人の域なんだってことを知れた。だからこのドヤ顔なのよ」


「え、もしかしてあれってやっぱり本当におばさんのネタをパクってたの? 信じられない……その辺の記憶が無いのよね」


「本当に記憶がなかったのでござるか? なら仕方ないでござる。でもこれが真実でござる! アリサが庭であのダジャレを聞いていた時、笑うどころか素っ気ない態度だった! それがすごく寂しかったでござる」


「でも、長旅で疲れてたし、あの時は合言葉を自力で解いた達成感で胸が一杯だったからうわの空だったのかもね」


「それでも脳に焼き付いたってだけでもそのダジャレは凄いということになるでござるよ」


「じゃあダジャレ達人くそババアってことで」


「くそババアは気に食わないけど達人を認めて貰って嬉しいわww」


「あ、一つ嬉しいお知らせがあるよ」


「え?」


「この達人認定ね、ただの一般市民からの認定じゃないのよ? 第11回ボケ人間コンテスト優勝者からの認定よ? 誇りに思いなさいね」


「それ、本当でござるか?」


「もうすぐテレビで放送されると思うから、その時私の雄姿を堪能なさい」


「推理だけじゃなく笑いにも精通してるってことでござるか?」


「そうね」

アリサ? もしテレビで見られたら白川に優勝を譲ってもらった瞬間までも見られちゃうよ? そうなると実際は2位だったという真実が露呈し、実際は大したことが無い幼女だとバレちゃうんだぞ!


「では2位は大したことないんですか? ダメなんですか? 最悪なんですか? バレて恥ずかしいことなんすかァ? あなたは私の放ったネタの数々を覚えていないんですか? あれは全て偽物、まがい物で、あの20000ポインツを叩き出した面白い☆☆☆三連星のネタもまぐれだったって言い切れるんですか? どうなんですか? ねえ? ねえ?」

ぬう?


「え? ア、アリサ? どうしたでござる? 20000ポインツ? 今あんたが言ったことのほとんどが分からなかったでござるよ?」


「あ、今のはおばさんに言ったんじゃないの。なんか脳内に滅茶苦茶不愉快な響きが響いた気がしたからちょっとね……」

私に反応していた? ま、また繋がってしまったか? 気が弱くなるとこっちに反応して高確率で言いがかり付けてくるの止めてほちい……てか今、気が弱っていたのか? 食事をしたばかりで元気いっぱいの筈じゃん……なんでこんなんなるねん……ってことはわてがアリサの悪口言うたら即つっこまれることになりかねへんやん……どういう変化が起こったんや? たとえどんなに離れていても悪口に反応するシックスセンスでも身に付いてもうたんか? なんでや? 何のイベントもなくそんな力手に入れたらおかしいやでえ。


「そ、そうなんだ……ちょっと! 見学まだ全然よ?」


「あ、ごめんごめんwじゃあ忍先生? どんな授業をしているのか聞かせて?」


「そうでござるね……二組は学年で言えば1年生と言った感じでありまして、忍者としては一番基本的なことを教えているでござる」


「例えば?」


「忍者専用の言葉である忍字(にんじ)でござるね」


「人参? 免疫力を高めたり、血圧を下げたり、便秘を解消したり肌や粘膜を健康に保ったり目の健康を保ち、骨や歯を強くしむくみを予防するあれ?」


「それはさっきやったでしょ」


「ナイス突っ込みwでもちょっと遅いよw全部言い終える前に突っ込まなきゃあかんでw」


「さっき聞いたいい感じの情報を再度聞くことで、脳内に記憶を定着させようと本能的に察知した結果、最後まで聞くしかなかったでござるw」


「向上心の塊であり勉強熱心な30歳w」


「人参ではなくにんじでござる。あいうえおであれば


『阿位宇江汚』


と言った感じに変換して使うでござる」

黒板に文字を書く。


「1年目から結構難しいのを覚えさせられるのねえ。ふむふむ、こんな感じかあ。あ、あれ? 違和感が」


「何でござる?」

アリサは何やら携帯で調べている。


「ほら! 旧字とちょっと違うよね? 阿と宇と江は同じだけど、伊と於は別の漢字よ?」


「ほう、確かに違うでござるね。そうでござる。忍者イコール汚いであるから、


『お』



『汚』


で固定でござる。それをまず覚えることから真田行流忍武術の始まりでござる! 賢さも兼ね備えてこその忍者でござるゆえに。当然もう二組は全員覚えているでござるよ」


「はいっ」


「はいっ」

元気に返事をする生徒達。30人程いるが、この教室も子供だけでなく、老人も混ざっているな。


「余計な知識だよなあ。絶対要らないよ、こんなのインフォメーションダンシャリィしなさい」


「そうでござるか? インフォメーションダンシャリィの意味が分からんでござるが……」


「さっきの話の中で推察しなさい。それでも無理なら4話前のミトリダティズム? の回を見なさい」


「承知!」


「でもアリサ、忍字を知っているメリットもあるんだよ? それを知っている者同士でやり取りすれば外部の者は介入出来ないでござるし……」


「え? 介入出来そうだけど」


「まさか!」


「だって漢字の音読みがそのまま使われてる訳だし、忍字初見の素人でも何となくわかると思うのよねえ」


「言われてみれば……」


「何を考えて忍字を作った創始者はこれを広めようとしたのかしら?」


「そう言えば忍字の創始者は酒を飲みながらその設定をしていたという話を聞いたことがあるでござる」


「だめじゃん」


「酒を飲むか忍字を作るかしか出来ない人でござったからなあ」


「だからって同時にやる必要性は無いのよね。二つしか出来ないとしてもここはシングルタスクしなさい。そいつ終わってんじゃん……そんなのカリキュラムから外しなさい」


「書き食らうとは何でござる?」


「カリキュラムでしょ! えっと、学校教育などで、学習活動のために準備された教育の内容を目的や段階に応じて配列したもの。教育課程よ」


「むむ? ち、ちょっと良く分からないでござる」


「あら? この人、あんまり頭良くないの?」


「彼、ま、まだ25歳でござるから」


「私は11歳よ?」


「うう……」


「恐らくこの屋敷のカリキュラムをそのまま教えているだけのティピカルな教師なのね。ちょっと拍子抜け」


「テピカル? 何でござる?」


「ああ、横文字は苦手っぽいよね。典型的って意味よ」


「て、典型的? はて」


「www」


「あっ……」

顔を赤くする忍神。これは一般人なら知っておかなくてはいけない常識なんだと察したのだ。


「こ、こら! 私の旦那になるかもしれない人よ? 笑わない!」


「いくらなんでも酷いんだもんwこれは草を禁じ得ないよwwww大体わかったわ。じゃあ次行きましょう」


「め、面目ないでござる……」

落ち込み、授業を再開できぬ忍神を背に、二組を後にする。

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