真田行家 食堂 闇饗秘饌の間
照代がふすまを開ける。食事の間、闇饗秘饌の間に案内される。
「上、なんか難しい漢字が書いてあったけど? あれ、どういう意味」
「あれは、やみあえひせんって読んでね、意味は闇に潜む忍びが、秘伝のご馳走を味わう場所、という意味よ」
「へえ、かっこいい響きね」
室内は和室でしっかりとした木目の美しい黒の長い卓が中央に据えられ、その上には豪華な和食がいくつも盛り付けてあった。
壁際には収納式の座席が整然と並ぶ。壁には朽ちた古文書や武具が掛けられ、ほのかな灯火が揺らめいていた。家具、内装、そして漂う匂い。全てが質実剛健でありながら、どこか落ち着きを感じさせる空間だった。
「……」
「……」
そこへ数十名の黒装束に身を包んだ忍びが入ってくる。誰一人言葉を交わさず迅速に決められた席に座る。
「あら? 彼らは?」
「生徒でござる。イロハニ全部揃っているでござろう。もうすぐ出来る給食を待っているでござる」
「みんなここで食べるんだね。あ、おじいさんもいるんだね(あれ? なんか見たことあるおじいさん? そんな訳ないか)」
「そうよ。忍びの道に年齢など関係あらずでござる」
「そういう考えいいよね。お、なんだこりゃ? 初見の料理ばっかりよ。あ、あれは?」
まず目についた料理は、汁物なのだが何かが浮いている。
「金色のが浮いてるよ?」
「流石に一番目立つでござるねwこれは
『金箔入り隠れ汁』
でござる」
「金箔かこれ」
「そうでござる。味噌とすりおろした山芋を基調とした汁物で、最高級の松茸とフカヒレを贅沢に使い、胃腸を労わると同時に、長時間の潜伏にも耐えうる滋養を備えている。金箔が浮かび、視覚的にも華やかでござろう?」
「松茸にフカヒレ……幾らするのよこれだけで……こっちのお肉は?」
肉が手裏剣の形に切られているステーキか?
「これは、
『黒毛和牛の十字手裏剣炙り焼き』
でござる。厳選されたA5ランクの黒毛和牛の胸肉を手裏剣の形に切り炙ったもので、表面にほのかにぬちまーすの塩が振られ、身はしっとりと仕上がっているでござる。噛みしめるたびに、脂の旨味と炭火の香ばしさが広がるでござる」
「美味しい……これを毎日……? でも十字手裏剣の形にわざわざ切らないでよ! 大分そぎ落とされてるよ? どっさり食べたいよ!」
ぱくぱく
「そこは忍びの料理ということで手裏剣でござるよ。我慢する! で、これがメインの、
『黒トリュフ忍米団子』
でござる」
「この屋敷では団子がメインなのね……意外ね。でも、とても良い香りが……何の匂い? これだけで好きになりそうなのよね」
「そうね。これ、私も大好物なのよ。もち米と玄米を石臼で挽き、練り上げた小さな団子なんだけど。これにはフランス産の黒トリュフがたっぷり練り込まれていて、香りが素晴らしいの」
「美味しいしこの香り……最高だわ……食事ってこんなに素晴らしい物なのね……」
「まだ始まったばかりでござるよ。次は、
『霧隠れ蒸し』
でござる。細かく刻んだ山菜と根菜を蒸し上げた料理なの。ほのかに香る柚子の風味がいいでしょ? キャビアを散らしてあって、口に含めば、ほろほろと崩れて、野菜本来の繊細な甘みとキャビアの塩味のバランスが良い品よ」
「どれもこれも美味しいわ。来てよかったあああ。あ、あの黒い豆腐は?」
「これは、
『影豆腐』
ね。これは通常の豆腐よりも固く、燻製されているため黒い色をしているの。で、濃厚なウニのタレをたっぷりかけて食べるのよ」
「少し苦いけどウニのタレが良く合うわ。新食感ね」
「これが最後かしら?」
「なんだ? 大きいドライフルーツ?」
「いや、これは
『静寂柿』
でござるよ」
「静寂?」
「あまりの美味さに誰も声すら上げること敵わず、黙々と食べる様子からこの名が付けられたのよ。干し柿の中に練乳と最高級のマヌカハニーを詰め、さらに薄く粉砂糖を絡めたものよ」
「いただきます」
ぱくり
「……!」
もぐもぐ もぐもぐ
お喋りなアリサが全く喋らず食べ続けているぞ。
「こりゃ黙るわ……喋る時間がもったいない……」
「これぞ静寂柿の神髄でござる!」
「……!」
「……('▽')」
「……(*´ω`)」
幸せそうに食べ終わる。
「あ、生徒さんも黙々と食べてるけど幸せそうね」
「そうでござる。毒が入っていても食べたいでござるね」
生徒達も、無駄な言葉を交わすことなく、全てを平らげた。だが、それぞれの料理は、ただの食事ではなく、これからの厳しい授業、模擬戦、そして任務のための糧であり、生徒は恐らくは毒が入っていることは知らないが、それに対する耐性を付ける修業とも言える。
生徒の関係者もこの事実を知らないが、忍者になると決めた以上、この真実を知っても文句は言えまい。
屋敷で行う一つ一つの行動が血となり肉となり、そして免疫すらも付けてしまう。彼らにとっては全てが修行なのだ。
だがそこまで高級の素材を使っていても平気なのか? それほどこの学校は潤っているのか? それともほかになにか収入源が? そう言えば飛影竜王がビームクナイや円月輪が最大の収入源とか? どうのこうのと言っておったが……分からぬ。
「イーグルスノーホテルの料理と甲乙つけがたいわ! すごいねお金持ち!!」
実際アリサはそこでは一口も食べてはいないがな。代わりに匂いを堪能した。それとの比較なのだろう。
「でしょ? 私も久し振りに実家に帰ってきた時はこんないい物を昔は食べてたのねって思い出したものよ。
ついこないだまでコンビニの弁当やカップ麺が主食だものね。お見合いは、今日の夕食後に始まるわ。結構かかると思うし今日は泊まってくれるわね?」
「そうなんだ。いいよ」
「ありがとう」
「これから先生に会ってどんな感じか見極めるんだね?」
「そうよ」
「でも近いうちに一人決めなきゃいけないんでしょ? 出来るの? 本当に」
「分からないけど話だけはしてみる」
「そう、でも普通お見合いって朝やるものじゃない?」
「そうでござるが先生方も午前中は仕事がある故に夕方からということにしているでござる」
「ふーん。まあ、別にいいよ。本当は日帰りのつもりだったけどね」
当初の予定では日帰りのつもりだったが、こんな豪華な屋敷に住んでいるとは思わなかったアリサ。
そして忍者の家というのにも興味があり、ここに泊まっておきたいなと考えたのだろう。
「じゃあご馳走様でした。で、でも……く、くやしい」
「どうしたでござる?」
「ここに来る前に一駅歩いて途中の公園で食べたママの弁当、疲れている時に食べて、宇宙一美味しいって言って涙したのよ」
「降りる駅間違えてたもんね。暑い中」
「そう、でも、こっちのごちそうの方が遥かに美味しくて……思い出補正とか、シチュエーションとか完全無視してはるかに美味しいのよ……」
「弁当は体が疲れていて暑い中食べたということもあり、思い出補正も完璧だった訳でしょ? それで悔しがってるのか」
「ええ、所詮がさつな刑事の手料理よ。本物の料理人には勝てないのね……」
「なんか申し訳ないわね」
「良いのよ……美味しかったし……あ、誰かが静寂柿残してるよ! 勿体ないwwwよし! もらいっと」
サッ パクパク モリモリ
「ああ、栄養だけでなく少量の毒があるから食べ過ぎないでね」
「そう言えばそうだった……これで毒入ってるのよね……信じられないわ……名残惜しいけどご馳走様!」
まだ照代は食べているようだ。鍋にきのこを入れているな。ところが……
「拙者、料理の中でも特にキナコ鍋が好きなんでござるよ」
唐突におかしな事を言う照代。
「え?」
「キナコには食物繊維、β-グルカン、ビタミンD、ビタミンB群、リンなどが豊富で低カロリー。うーん美味しいキナコでござるw」
そう言いつつ、キノコを鍋に入れ食べ始める。
「ちょっと待って? それキノコの説明……キノコより一つ多いよ? 市田さんが発狂するって」
市田とは3話に出てきたおじいさんで、市田理内というフルネームだ。そう、名前通りいちたりない様にすることが大好き。例えばアリサならアリリ。ネズミならネズニと変換し、それを喜びとする変態で、詳しく説明すると、カタカナのサとミから一を引いている状態にして喜んでしまうおじいさんなのだ。だから、照代が本来キノコの話でキナコと言い笑いにしてしまっている故、実際にはキノコの
『ノ』
に
『一』
を足して
『ナ』
にしている状態とも言い換えることも出来るから、もし今の会話をそのおじいさんが見聞きしてしまったなら瞬時にその悪行に気付き、お得意の市田語で
『NO!』
と強く否定するであろうな。
「お? アリサもキナコを食べるでござるか?」
「おい、何回言うのよ! 止めなさい!」
「キナコ嫌いでござるか?」
「まだ言うか! このキナコじじい! 一度で気付きなさいよ!」
「何がでござる? ってかそれ子泣きじじいのことでしょ? 妖怪じゃない!」
「これだけ指摘しても続けるのは人間のメンタルやあらへん。妖怪の類やでえ、このキナコじじい」
「二回も言った! やだあもう! せめてキナコババアでしょ? いや! ババアじゃないわ! 30の幼女だからキナコ幼女と言い直しなさい!」
「おばさん? 今までのすべてが滑ってるって! もっと頑張れ! 何回か言えば受けると思ってごり押ししても無理なのよ……30にもなって何でそんなことすら気付けないのよ!」
「響きが似ていて面白いと思ったでござるが……」
「これも毒の影響ね。センスまでそぎ落とされるとは……恐ろしい毒よ」
「でもこれだけは分かって? この場を盛り上げようと、楽しくしようとしただけなのよ。アリサに遠いところから来てもらったお礼に。それに美味しい物を食べていればこれ位でも笑顔になれると思って……うう……」
「だめだめ。あ、カレーもあるじゃん。気付かなかったわ。いい匂い。もう食べられないよ。悔しいなあ」
「秘伝のスパイスを沢山使っているでござるね。まあ別腹ということで飲むでござる。喉越しばっちりでござるよ」
「こんどはカレーは
『飲み物』
か……既に先駆者がいるのに、さも自分が思いついたように言ってくる奴って面白くないわよね……まあ定着してるけどね。私は認めないわ」
「結局カレーって飲み物よ? 喉越しが大事でござる!」
「本気で言ってるの?」
「え? これは普通の話じゃないの?」
「具が入ってるけどどうするつもり?」
「いやまあ、多少具があっても、カレーは飲み物でござる!」
「多少って……のどに詰まるわ」
「つまらないござる!」
「それはおばさんのギャグね?」
「キノコの件は認めるけど、カレーは飲み物。これだけは否定させないでござるよ!」
「まあカレーは飲み物ってのはウガンダ・タイガーのネタだもんね。全宇宙に浸透している。故にそれはネタとしてはおもろい。でもさ、所詮ネタなのよ。これよく見て? 牛肉。拳サイズじゃん さっきのそぎ落として手裏剣に形を変えたステーキより素敵よ?」
「……」
「このじゃがいも。皮むいてるけど切ってないよ? 飲み込める?」
「いや、この屋敷のカレーは素材を味わってほしいから、大きめの具を使っているでござる。だから噛めば……」
「おばさんはさあ日本語って知ってる? 飲み物ってのはね? 噛まないのよ。歯を使わず直接喉に流し込むことを言うのよ? 一回でも噛んだら食べ物よ? 童話の賛美キノコ豚……あっ! 可愛いミスをしちゃった! あんたがキノコのことばっかり言うからこんなありえない変換しちゃったじゃんwwキノコを賛美する豚って何よwwwトリュフを探して回る豚のことかしら? 三匹の子豚よ! このあほ! その話に登場するオオカミはね、藁と木の家の二匹の豚を丸呑みしたのよ? 一回も齧らずに! そんで後で狼の腹から無事に精悍な顔つきで生還したのよ」
「何がいいたいの?」
「おとぎ話のオオカミは絶対に食べ物を噛まない。オオカミにとってすべてが飲み物ってこと……あれ?」
「話がずれてるでござる……で、でもカレーは飲み物という願いは変わらんでござる!」
「はあ、じゃこれ、人参。長さ18センチ」
「ストローでは? やわらかいし、行けると思うでござる」
「喉、詰まらない?」
「でもカレー自体は液体でござるし……」
「じゃあ聞くけど」
「はい」
「おでんの大根、出汁に浸かってたら飲み物?」
「いや、それは……」
「シチューに入った鶏、飲み物?」
「……」
「噛む工程が発生した時点で、それはもう食事なのよ?」
「でも世間ではカレーは飲み物って流れができてるでござるよ?」
「比喩表現」
「……」
「あと、このカレー、スプーン立つわよ?」
プス
「……」
「飲み物は立たないでしょ? こんなの一気飲みしたら喉詰まってあの世行きよ?」
「はい」
「早く食べなさい!」
「そういえば拙者、料理の説明だけしていて全然食べていないでござるよ。どんなに腹が減ってもダジャレを全力で言うことに夢中になっちゃったのね」
「そうだったね。あんまりしつこいから思い出しちゃったじゃん」
「え? 何をでござる?」
「キノコ鍋信者の
『一筋のサンシャイン』
君をw」
「一筋のサンシャイン? 君? それ人名でござるか?」
「そうよ。そいつの秘密を一番ばらしてはいけない相手にばらしたの」
「え? いつ?」
「2~3日前かしら? 7月の終わりだったわ」
「つい最近でござるね」
「そいつをメンタルブレイクしたら、奴の奥さんが見切りをつけたみたいで、別れ話を切り出して、養育費に毎月600万請求してたw」
「壮絶でござる……」
「で、その請求の返事に
『キノコ』
って言って呆然としていたの」
「ふむ」
「で、奥さんがなんかお礼を言ってきたのよね……まるで……こうなることを望んでいた?」
「アリサが秘密を洩らした結果旦那を嫌いになったのでござろう? 今までそいつに騙されていたのに気づいたことに対してのお礼じゃない? でもそんなの黙っておくべきじゃないのでござるか? アリサ! 一組の夫婦を別れさせたのよ! 酷いでござるよ」
この話、結婚する予定の彼女が聞く内容ではなかったようだな。敏感になっているな。
「まあその部分だけ聞けば私は悪人よね。でもそれをされるに相応しい悪事を一人のバイトの人に集中していたのよ。会社の従業員総出で。その部分だけでも20万文字になるから読みなさい。あ、読む時に心が病んでいないことを確認した上で読んでね? 死ぬから。あ、あと一つ。一気に20万なんて読んじゃ駄目よ? あ、正式に言えば199998文字だったわww失敬失敬w」
そうだぞ! 2文字も間違えたらだめだぞ!
「えええ? 2足りないのお?」
「その言葉市田さんが聞いたら怒りそうw」
「さっきも言ってたわね。誰それ?」
「ちょっとした変態よ。でもね、この内容の話を聞いたら正義の心がうずくのよ。誰だってね。ほら! おばさんだってそうでしょ?」
「な、何でござるこれは……今読んでいるでござるが確かに……これは……酷過ぎるでござるでござるでござる……ううっ」
涙を浮かべつつ、4話のエピソード6の
『1人の亡者 鈴木???? との会話』
を読みつつ涙を浮かべる照代。
「素早い対応感謝いたしますわ。メンタルは大丈夫でしょうか? しっかりと確認した上で続きをお読み下さいね?」
「承知したでござる……うっぷ……オエー」
吐いちゃったあ。
「あらあら、嫁入り前のオカメっと失礼……乙女のすることじゃあないわ」
「見ないでええええ涙」
「あんたが片付けるのよ?」
「うう」
ごしごし
「話を戻すね。あの人、ほくそ笑んでる気がしたのよね。本当にばらされるのが嫌だったらお礼なんて言わないで文句を言うはずなのよ……あの人すごく怖い感じがしたのよね」
「そうなんでござるね……ひええ、何でそこまで……オエー」
「元気いっぱいねえ(*'▽')」
引き続き吐いておるな。まあそれが正常な人のリアクションだ。だが皆さんは照代のように一人で読んでは危険だよ。もし可能なら、お友達や伴侶、それとも子供やご両親、おじいさんおばあさん、親類縁者と共に読まなくては危険だよ? それほどまでに
『4話のエピソード6の 1人の亡者 鈴木???? との会話』
の内容はおぞましいんだ。バイトながら社員や社長からのいじめを一人で耐えた末、結果自死してしまったが、爪痕を残して死んでいった。黙っていれば命までは取られなかった彼だが、その命を懸けてでも成し遂げたかったこと。それを貫き通した。その生き方は間違ってはいなかったはず。そして、確かにあの女はその男、鈴木を殺した張本人だ。だがその事実は、直接対峙した私のみが知っている内容。その真実を知らぬアリサですら本能的に彼女に恐怖心を抱いておる。しかし彼女はめちゃくちゃ名前が長い女である。恐らくこれまでの流れからほぼ確実にアナザーストーリーが開始されるが、その長すぎる名をそのまま表記してしまえば皆さんも混乱してしまいかねぬ。なのでruler of Shadowという異名があった筈なので、それを略し、
『ルーシャ』
としておこう。これより、彼女の名は木林ルーシャだ。
「でも大丈夫よ。廃っといたから」
「何でござるか?」
「ああ、素人に専門用語はダメだったね……木林日光一はちゃんと廃人にしておいたってことよ」
どの筋の専門用語なのだ?
「それってもしかしてネタバレでござるか? 読む楽しみを奪うなんて酷いでござる!」
それで嫁入り前の乙女がゲロっちゃったんだから最後まで見ない方がいいと思うよ。
「あ、ごめん。でも今、どこで何をしてるのかしら……あ、もう! またか……」
意識が、遠のく……
「また? あ、あれが来ってことでござるね?」
ーーーーーーーーーAnother Story Rusha Kibayashiーーーーーーーーーー
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次回、旦那から解き放たれ、自由の身となった奥さんが登場しますよ。




