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EP02-01 ザクロの選択


 いつもの街並み、押し潰される満員電車、埃っぽい風と見飽きた朝日。


 街は壊滅的な被害を被ったはずなのに、翌日、僕はいつも通りに登校していた。

 電車は多少遅延していたけど、影響はその程度だった。


 学校に到着する。

 クラスでは多少マトリクスが巨大なカイジュウと戦ったことが話題になってはいるが、その話題一色に染まるほどの盛り上がりを感じられなかった。

 トピックスの一つとして消化されている程度だ。

 有名な動画配信者の下世話な不倫物語の方が、みんな楽しそうに語り合っていた。


 スマホに通知が届く。

 ……トラから、だ。気がついたら追加されていたアプリ【M9】を介して、トラのメッセージが浮かび上がる。

 

『もちろん情報操作を行ったからトラ!』

『例えば、政府に接触して、とか?』

『そんな必要ないトラよ。この世界のニンゲンの意識をイジることなんて造作も無いトラ。今のお前らは日常の中で侵略者が登場して、当たり前のようにマトリクスが現れて戦う、そんな世界を生きてきた、と認識しているトラ』

『無理だろ、過去を調べたらそんなのおかしいと感じる』

『マトリクス史をこの世界のありとあらゆる研究機関や蔵書、情報通信に仕込んだトラ。この世界のニンゲンが寄ってたかって本気で調査するならば、矛盾に気づくかもトラだけど、マトリクスへの猜疑心が進行しないように抑制してるトラ』


 適当なことを言いやがって……。

 しかし、トラが説明した通りの光景が広がっている。

 カイジュウが出現したら付近のシェルターに隠れましょう、というルールが生まれていた。ビルが崩壊する最中でも、この世界の人間は学校や会社に赴くのだ。


 そもそも、あのカイジュウは一体何者なんだ? 

 なぜ、僕たちの街に襲いかかってきたんだ? と考えると『ヤツらはマトリクスに勝利することで存在意義を見出だせる生物トラ。この街を襲うのは、ここにヒロが住んでいるからトラ。それ以外に理由は無いトラよ』とメッセージが打ち込まれる。

『僕を狙う? いや、何かあるんだろ、人間の世界に奴らが訪れる本当の理由が』

『無いトラ。ニンゲンはすーぐ自分たちに可能性を求め、何か秘められた力が備わっているのでは? と考えるトラね。未だに宇宙すら到達できたことのない脆弱な分際で戯言を……トラ。一生幼年期どころか、まだ始まってすらいないトラなのに……』


「日向!」声をかけられ、スマホをそっとポケットにしまう。

「おはよう……」

「見たか、昨日の戦闘!?」「えっと……ロボットの」「マトリクスだろ! いや〜途中追い詰められて焦った焦った!」

「そう、だな」


 語りかけてきたのは、僕の数少ない友人の一人──井上ショウタだ。僕よりも背が低いが、その分を補うように口を大きく開いて喚くように捲し立てる。


 ──アレを操縦していたのは僕だ。

 ──なぜ、途中で動きが止まってしまったかというと……。

 フラッシュバックする光景──。


「日向どうした? 顔色が真っ青だぞ」

「体調……悪い?」


 井上の隣でボソッと語りかけてきたのは、同じく数少ない友人の一人──橋野ハルキ。こっちはひょろりと背が高く、ボソボソと囁くように喋る。


「……寝不足なんだ」

「わかる、昨日はマトリクス戦に加えて、ついに最終回だったからな〜」


 最終回? あ、そういえば宇宙世紀を舞台にした某起動戦士アニメ最新作の最終回が、昨日の夜中に放送されていた。

 僕も楽しみにしていたはずなのに、昨日はあの後……の記憶が混濁としている。気絶するように眠り、気がついたら学校に登校していた。


「まだ見てない……」

「は? お前早く見ろって!」井上が食ってかかる。「ハルはもう見た?」

「もち。でも後半駆け足すぎてよくわからなかった」

「な〜に言ってんだよ。あの最後どちゃまぜの疾走感こそ魅力だろ! しかもあんな風呂敷広げといて、綺麗にまとめたから流石だよ」

「そう? 自己満オマージュがクドくて全体的に二次創作っぽいし、なんかそれっぽい要素並べただけでこれでいいよね? って制作側の妥協が……」


 二人はいつものように舌戦を始めた。

 僕も普段ならそれは違うよ、と参戦するのだが、今日は口を挟む気にも慣れない。そもそも観てないから参戦する資格もない。

 黙って眺めていると、次第に話題が逸れて「ンアー、枕が──」と井上が某ネットミームで騒ぎ始めた。ハルもゲラゲラ笑ってやがる。


 ──その時、

 「ねぇ、それって学校では恥ずかしいことなんだよ!」


 一人の女子生徒が声をかけてきた。

 叱るというよりも、軽く嗜めるような口調で。


「…ぁ…スっ…」「…はぃ…」井上とハルは蚊の鳴くような声で頷く。

 二人の反応に、その女性生徒は嬉しそうにニコリと微笑んだ。

 なんて愛らしい笑顔なんだろう。

 僕たちはただただその笑顔に見惚れていた。

 青空を背負うように風に靡くカーテンが、その可憐さを一層引き立てる。

 「ちょっと……こっち」とその女子生徒は他の女子に腕を引かれて教室の隅に連れて行かれた。まるで僕たちを腫れ物扱いするかのように……。


「……まさか朝から笠置さんに声をかけられるとは……。しかもミームに乗ってくれた……くぅ、たまんねぇ」「……うん」「これから毎日淫カツしようなっ」「うんっ」「……おいっ」


「おっはよーっ!」


 二人を諌めていると、今度は教室の扉が勢い良く開くと同時に、弾けるような快活な声が響き渡る。

 その女子生徒は、まるで太陽が周りを明るく照らすように、分け隔てなくクラスの男女に声をかけている。

 クラスメイトもその声に返すように口々に挨拶を交わす。


「お、ロボ研はいっつも一緒だ! おはようっ!」


 僕たち日陰者にも平等に。

 自然と彼女を中心に輪が生まれる。強烈なカリスマ力はいつ見ても眩しい。


「陽キャの王、だな」「流石うちのクラスのトップスリーの一角」「それ言ってるのお前らだけだから……」

「なにを言ってる! 我がクラスのトップスリーは男子の誰もが内心崇拝しているんだぞ。男子が無遅刻未欠席、不登校はゼロ、カーストは存在するもイジメも無くみんなそれなりに仲良く健やかな学園生活を送ってるのも、全部トップスリーが存在するからだっ」隣でハルもうんうん頷いている。


 そんな馬鹿な……と否定したい。だが、遠巻きに彼女らを眺める男子生徒たちが、各々喝を入れてる瞬間を目撃し、あながち間違えじゃないかも……と信じそうになる。


 豚座ミカン。

 身長158センチ。

 サラリと靡く首元までの長髪をポニーテールに結いている。

 まるで対応がそのままやってきたかのような、とびきりに明るいムードメイカー、それが豚座ミカン。

 豚座さんの魅力はなんと言っても底抜けの明るさと弾けるような笑顔だ。

 朝、彼女が登校するやいなや、教室がぱっと明るくなり、おはようの挨拶を交わすだけで、周りのみんなの心まで元気つける姿はもはや魔法だ。

 我がクラスの男子がよし、今日も一日頑張ろう! と思えるのも豚座さんの美しい笑顔から一日が始まるからだ。


 笠置エミリア。

 身長161センチ。

 まるで二次元の中から飛び出てきたような、一際目を引く美少女、それが笠置さんだ。北欧の血を引き、澄んだ青い瞳に輝く金髪の髪はみんなの目を奪う。

 一見するとどこか高嶺の花のように見えるかもしれない。だが、笠置さんは気取らず、その優しい声色と穏やかな話し方に癒される。

 そんな笠置さんの意外な一面、生粋のオタクであること。大好きなアニメや漫画についてキラキラ顔を輝かせて喋る姿、絶対に守りたいこの笑顔……。


「で、最後の一人が──」


 井上が僕たちだけに聞こえる声量で一気に捲し立てた後、ふと僕の背後を見やる。

 背中に突き刺さる視線。

 僕はゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めて振り返る。


「おはよう……ザクロ」

「おはよ。ってかその名前辞めて。ロボロボの人たちもおはよう」

「ロボロボ? はいロボロボです! おはようございます、ユイさん!」「ユ、ユイさんおはよう……」と井上とハルはザクロの名前で呼ぶ。ザクロはユイと呼ばれたことで満足気に頷いてから自席に向かった。


 柘榴ユイ。

 身長157センチ。

 茶髪に染めたふわりと揺れる長髪と、吸い込まれるような大きな二重の瞳を持つ美少女。

 クールでミステリアスな雰囲気を纏い、どこか儚げな表情は何を考えているのか読ませない。だが、そのクールで冷めた仮面の隙間から、時折ふわりと笑を浮かべる刹那が、見る者の心を惹きつけてやまない。

 そしてこれは……昨今のコンプライアンス事情を鑑みて控えるべき発言ではあるのだが、いや敢えて言わせてもらいましょう、おっぱいがでッッッ。

 

「でもどうしてザクロって苗字が嫌いなんだっけ?」

「ザ・黒ってなるから暗い、濁音から始まるのがなんか嫌、響きも固いし……もっとお花みたいな苗字がよかった、とか」

「なるほど、流石幼馴染、でもあえてザクロと呼ぶところが……あっ(察し)、これ以上は触れちゃいけない二人の領域なのかもしれない」「ねっ」

「何もないから……。僕とザクロはただの幼馴染──」


 ザクロはいつも通りに自席に座り、仲の良い女子生徒と談笑している。いつもの笑い声が、僕の耳には遠く聞こえた。

 僕のことなんか欠片も興味無いような振る舞い。


 ──昨日お互いに想いを告白した。

 ──初めて彼女とキスをした。


 でも、それは全て遠い過去の出来事、いや……夢だったのかもしれない。昨日の記憶が、まるで霧がかかったように朧げになり、僕の中から消えようとしている。


 そんなわけなかった。

 むしろ、ドクンドクン……と脈打つように、昨日の記憶が僕の中で膨れ上がる。

 大量の精液を注ぎ込まれたザクロの姿が浮かび上がる。ゴムはつけていなかった。生で……ザクロの中に……。


 スマホが震える。

 通知が『その点は心配ご無用トラ! 妊娠してこの男性側が意気消沈したり、女性の活動に制限が加わったりしないように、子宮内に大量の精液が放出されたとしても妊娠できないようにユイちゃんの体を調整したトラ。だから中出しし放題トラ!』


☆★☆★


// 続く

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