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EP03-06 終始、体、重ねて【合宿二日目 保健室】


 ──映像が切り替わる。

 保健室のベッドが映された。殺風景な、パイプの骨組みで組み立てられたベッドがあり、その周りを薄いカーテンが覆っている。


 そのベッドの上には、誰もいなかった。

 ほっと胸を撫で下ろした瞬間、ぐるっと映像が回転し、隣のベッドを映し出す──。

 薄いカーテンに、シルエットが浮かび上がっていた。

 ベッドの上で体を起こした女性の輪郭が、パンッ! パンッ! と音に合わせて体が跳ね上がる。


 もちろんザクロだ。

 バランスを崩したザクロは、ガクガクと痙攣しながら前かがみに倒れた。

 倒れ込むザクロを教師は優しく受け止める。

 キスを交わしながら。

 さっきあんなに僕の隣で──。

【あ~もう……揶揄う先生にはイラつくけど、キスしながらは……クセになりそうっ♡】

【ってか先生が顔に似合わずキスのテクがえぐいのが悪い……♡♡】


 シルエット越しでも、隣のベッドの上で何が起こっているのかわかってしまう。

 ザクロは教師の首に手を回らしながらねっとりと深いキスを交わす。

 まるで一つの生物に成り果てたかのように、熱くそして密やかに癒着していた。


 ──再び映像が切り替わる。

 隣のベッドを真上から映し出す。

 もちろんザクロと教師が映し出されていた。

 ザクロは教師の体から降りると、どさっとベッドの上に横になる。

 

『アレ、忘れてないよな?』

『…うん、持ってきました…』

『ま、部活が始まるで時間があるんだから、一旦休憩とするか』


 教師がそっと腕を伸ばしてザクロの胸に伸ばす。

 ザクロはため息をつきながらも、拒むことはなかった。


『赤ちゃんか』


 …んちゅっ…ちゅぅぅ……。


『うわ~吸い付きえぐ……。おーい聞こえてます?』


 呆れ口調で声をかけるが、教師は聞く耳を持たぬとばかりに、ただ夢中になって吸い付く。


 「はぁ……」とザクロは盛大なため息をつく。

 が、その瞳にはどこか教師を憂い、慈愛に満ちた淡い微笑が浮かんでいた。


【昔から、胸が大きく良かったことなんて一つもなかった。男性からの視線はキツいし、ヒロくんは敢えて見ないようにしてなんか申し訳ないし、重いし、巨乳はアホだって下に見られるし……。でも、こうして先生が愛でてくれるのは、嬉しい。それだけで救われた】


『なんか完全に赤ちゃんモードに入ってますね……バブバブちゃん? ママの──』


 ザクロは棒読みでセリフを口にしながらも、どこか楽しげだった。笑みが、顔から溢れてく。

 教師の頭部を片手でぎゅっと抱き寄せながら、その頭部に顔を寄せる。

 ぞわっと鳥肌が立つ。

 不快感が、血液とともに僕の中を循環する……。


 ──午後の授業は始まっている。

 保険医の先生は、席を外していた。静謐な空間の中で、二人の狭間から下品な音が微かに聞こえる。


『舐めるの上手くなってるのなんかヤだ……あ、ちょっと……』


 ザクロの体が小さく跳ねた。その反応を楽しむように教師が微笑むと、ザクロも挑発的な笑みを浮かべる。 


『…じゃあママもせんせいの──』


 ザクロはクスクス微笑みながら、教師の頭部に顔を寄せる。


『ね、激しいのやめて……。ゆっくり……うん……』


 その一つ一つの仕草は、性的な愛撫というよりも慈しむような、ザクロの仄かな愛情の念を表していた。


『ここ、好きなんですよね? この……先っぽの溝のとこ。ぼこってしてて……こちょこちょ!』


 再び静寂が訪れる。

 二人の間から会話が消えた。

 時々響くザクロの小さな喘ぎ声もすぐに薄れた。


 指に触れるたびに濡れる性器の感触、乳首を舐める熱を持った舌、教師の頭部を抱きしめる腕に込められた切実な愛情。

 二人が性的快楽を介して交わす、濃厚な感情がはっきりと感じ取れた。


【最初は怖いと思ったおちんちんも、今は普通に可愛い。ダイレクトに好き、という感情が伝わってくるから愛らしい。もっと丸みを持たせて、デフォルメしたらちいか──あっ♡それ好き…好きっ♡】


『もう?……まだ? じゃあ……一緒に──』


 ザクロのリクエストに従い、教師はそっと擽るように指を弱めた。


『……あ、もしかしたら…、うん、今度…トラちゃんに聞いて…みますね…おっぱい出せる体にいじれないか、って……。じゃあ練習ですね、は〜い、よちよち、ママのおっぱい美味しい? はーい、おっぱいおじょーず……は? 演技が終わってる? ちょっと真顔にならないでよ! ……ってか終わってるのは、JKの胸にむしゃぶりつく教師の方ですよ、わかってます?』


 ──ザクロは昔から演技が酷かった。小学生の頃、班に別れて簡単な劇を発表する時、ザクロが台詞を発した瞬間、誰もがこれはまずい……と戦慄した。しかし、ザクロはとても満足げに微笑んでいたので、誰一人としてザクロの演技に口出しできず、あのなんとも言えない時間をザクロ以外の人間が共有していた。


 どうでもいい記憶に思えて、それが映像の中のザクロと重なるから嫌になる。

 偽物なんかじゃない、本物のザクロなんだと脳が訴えてくる。


 確かに異様な光景だった。

 小柄で華奢な体のザクロの胸に、教師は顔を埋めながら抱きついている。

 ザクロは我が子を愛でるような視線で教師を眺めている。けど、教師は僕たちの体育教師で、年齢も多分一回りは離れている。長身で肌の色が浅黒く、毛深いいかにもな体育教師の風貌だ。絶対に赤ん坊ではないはずなのに、ザクロの視線は子どもをあやすそれだった。

 世界を守るため、という大義名分があるけど、それを盾に何でも許されるわけじゃない……。


 ザクロの目元は優しく微笑んでいる。

 僕ではなく、教師に向けられた朗らかな愛情──。

 うっとりと瞳が緩む。

 ……知らない顔だった。

 僕の知らないところで、こんな顔──できるんだ。

 もしもザクロと婚約し、赤ん坊が生まれて二人で愛でたらザクロはこんな顔をしてくれるのだろうか……。

 やっぱり…嫌がってくれ。

 苦痛に歪み、涙を溢しながら教師を拒否……してくれ。

 なんでそんな笑顔ができるの?

 気持ち悪いだろ?

 僕だけがおかしいのか?


 ザクロの吐息が湿り気を帯びる。

 教師の頭部をいたわるように抱きしめ、自らの顔を擦り付けながらか細く震える。

 予兆……。

 一度も、ザクロとはセックスしていないのに、もうわかってしまう……。

 

『…せんせいも…?』


 二人は笑いながらゆっくりと体を重ねる。

 静かな保健室から、ザクロの甲高い声が廊下に漏れ始めた。



// 続く

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