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第三話:ツチノコを見付けた少女

 一たちが民宿に着いて、二階に上がっていった頃。

 その一階の部屋で一組の男女が会話をしていた。

 

「この村にまだつちのこ(・・・・)がいるって、本当なんだろうな」

「えぇ、必ず見付け出すのよ。そうしないと、この村も……あの村みたいに──」

 女性は目を瞑る。脳裏に映る光景に、強く手を握りしめた。



 怪異特別対策機関。

 部屋に置かれたノートパソコンのモニターには、大きくそう書かれている。


「他にもお客さんが来たようだけど……今の会話、聞かれてなかったわよね?」

 女性は短くキーボードを叩いてから、そのパソコンを閉じた。



 ☆ ☆ ☆


  道路という概念を一は改めて考える。



 お昼ご飯にミヒロの作ったチャーハンを食べ終わった後、一行は早速ツチノコを探しに宿を出発した。

 宿主のお爺さんに「ツチノコって何処にいますか?」と一が聞いたところ「とりあえず自然公園に行ってみたら良い」と答えてくれたのである。



 東黒川自然公園。

 東黒川村を囲む山全域を指す、自然豊かな登山道だ。

 ほとんど手付かずの自然にポツリポツリと小さな公園があったり、休憩の為のベンチがあったりと、一見普通の自然公園である。


 ただしここはツチノコ山。

 所々に点在する看板やベンチにはツチノコのイラストが描かれ、公園の遊具はツチノコの形をしている徹底振り。流石はツチノコ村と言ったところか。



「駐車場……ここで良いんだよな?」

 宿主のお爺さん曰く、山の入り口に駐車場があるから車でも行けるとの事。


 そんな訳で車を走らせてみた訳だが、アスファルトの道路なんてある訳もなく、何処からが山の入り口で何処までが車が通れる道なのかすら一には分からなかった。

 なんなら車でこれ以上進めば木の枝にぶつかり始めそうなところで、辛うじて「此処が駐車場か?」と思える場所を見付けた所である。


 蝉の声が車のエンジン音を掻き消して、エアコンの効いた車から降りれば木漏れ日に照らされた土の温度を感じる。

 本格的な夏の山がお出迎えだ。



「よし、ツチノコ探す!」

 駐車を終えて、助手席から飛び降りるヒラケンは山道に熱い視線を向けた。


 その肩には大きな虫籠が吊り下がっている。ツチノコ捕獲への熱意は誰よりも強く見えた。



「ツチノコ捕まえたらどうする?」

「んー、食べる?」

「食べる!?」

 一を唖然とさせながら、ヒラケンは「早く行こ。ツチノコ逃げたらどうすんの?」と口尖らせる。


「ツチノコいるかな〜」

「さぁ? いたら良いな」

 次いで車から降りてくるレジ子とミヒロ。


 ミヒロは手ぶらだが、レジ子は大きなネッシー(・・・・)の形をしたぬいぐるみを車の中から持ち上げて抱きしめた。

 実はこれはぬいぐるみではなくリュックである。お腹からショルダーベルトが生えていて、コレを背負う事が出来る変な形のリュックだ。



「今日は何入れて来たんだ」

「ツチノコ餌兼非常食です」

「さっきのおにぎりか」

 お昼ご飯のチャーハンで余ったお米を、ミヒロが握ったおにぎり。レジ子が幾つか持っていくと言っていたが、ネッシーリュックの中に入っているらしい。


 ツチノコがおにぎりを食べるのかどうかは疑問である。



「いこー!」

 既に先行していたヒラケンが二人を呼んだ。


「ツチノコ……いるのか?」

 トテトテと走っていくレジ子をゆっくり追いかけるミヒロ。



 腕をブンブン振り回すヒラケンにのんびり近付いていくと、山の方から突然、女の子の声が聞こえてくる。



「聞いて聞いて聞いてー!!」

 大きな声でそう言いながら山から降りて来たのは、小学生くらいの小さな女の子だった。


 運動をするには丁度良く、山を登るには少し軽装の、土色の髪をポニーテルに纏めた小学生くらい女の子。

 下り坂を信じられない速度で降りて来たその少女は、四人の前で急ブレーキを掛けて焦った様子で口を開く。



「あっちにね、ツチノコがいたの! ツチノコ、見付けた!」

 少女はそう言いながら走って来た山道を指差した。とても興奮した様子で、丁度真ん中にいたミヒロの袖を引っ張る。



「は?」

「早く行こ! ツチノコ逃げちゃう!」

 そう言って走り出す少女。


 ミヒロは筋肉質で百八十超えの、どちらかといえば大男だ。それが、少女に引っ張られて、引きずられていく。



「お、なんだ? ツチノコ? マジ?」

「ツチノコだって! 行こ行こ!」

 そんな光景よりも、ツチノコがいたという言葉にワクワクを隠せないのが一とヒラケンという男の子二人(・・・・・・)だった。


「……ミー君が拉致された。……ぁ、待って〜」

 呆気に取られていたレジ子も、遅れて走り出す。




 ツチノコを見付けた。

 そんな、突拍子もない事を突然言われた者の感情(・・)は様々だろう。


 

 喜び、疑念、否定、あるいは恐怖。


 少女を追い掛ける三人は、どちらかと言えば喜びの感情が大きかった。

 少女に引きずられているミヒロは、ツチノコよりも自分が引きずられている恐怖の方が大きいか。



「ほら見て! ツチノコ!」

 そして、急に止まった少女は慣性の法則で吹っ飛びそうになるミヒロを支えながら、もう片方の手で山の奥を指差す。


「ツチノコ!?」

「マジ!?」

「「ひぃ……ふぅ……っ、つ、ツチノコ……いたの〜?」

 遅れてやって来た三人。


「ぇ」

 その視界に、土色の、何か、蛇の尻尾のような物が見えて、直ぐにそれは木陰に消えた。



「あ、ツチノコ逃げちゃった」

「マジか!? 今のマジでツチノコじゃね? すげー!」

 飛び上がる一。それは一瞬しか見えなかったが、どうも蛇の尻尾には見えなかったのである。


「うお、ツチノコ! 捕まえる。レジ子ねーちゃん、早く早く!」

「これ以上走ると死んでしまう……。ふぅ……ふぅ……でも、本当に……ツチノコ、いた気がする……!」

 興奮するヒラケン。運動不足が祟って息を切らすレジ子。



「し、死ぬかと思った……」

 そんな三人を尻目に、ミヒロは年端も行かない少女に引き摺り回される恐怖からやっと解放されて安堵していた。



「残念……」

「お前……一旦なんだ」

 起き上がり、ミヒロは少女を見下ろす。


 村の女の子だろうか。何故か少女は口を尖らせて、残念そうにしていた。



「私? 私はね、岩永(いわなが)(ひめ)っていうの! お兄さん達は?」

「俺! 千堂一! 宜しくなー。姫ちゃんは東黒川村の子?」

「ううん。山の反対側の村に住んでるんだよ」

 どうやら一達が到着した村とは別の村の子供らしい。そうなるとかなり遠い所から来ている気がするが、子供は元気だと感心する。


「俺ヒラケン。ツチノコ探しに来た」

「私もー!」

 相手が年下の女の子だからか、大きな態度で挨拶するヒラケンの手を握る姫という少女。


 ヒラケンは歳上の威厳でも見せたいのか、よそ見をして口笛を吹き始めた。



「お兄さんは?」

「……ミヒロ。あっちの運動不足でヘタれてるのはレジ子」

「えーと、一お兄さんに、ミヒロお兄さんと、レジ子お姉さん! あとヒラケン!」

「ヒラケンさん」

「ヒラケン!」

 満面の笑みで名前を呼ぶ姫。ヒラケンは口を尖らせて不満そうだが、ミヒロは別の意味で困ったような表情を見せる。



「家の人は? 一人か?」

 田舎の村とはいえ、こんな山道を女の子が一人で歩いているというのは、どうも都会に住んでいると考えにくい。


「一人だよ! ツチノコ探してるの。お兄さん達は?」

「俺達も俺達もー。なぁ、さっきのってガチのツチノコ?」

「おい(はじめ)

「田舎なんてこんなもんだろ? むしろ、どうせツチノコ探すなら一緒にツチノコ探した方が安心だし」

 一の言う通りなのかもしれないが、ミヒロの脳裏に浮かぶのは『女児誘拐』とデカデカと文字が書かれた新聞の一面だった。



「本当!? ツチノコ探してるの!?」

 一の返事を聞いて、姫の顔はパァっと明るくなる。まるで四葉のクローバーを見付けた女の子のように、本当に嬉しい物を見つけた顔をしていた。



「本当本当。ツチノコ探す為に、態々東京から来たんだぜ! な?」

「はぁ……まぁ、良いか」

 逆にこの女の子から目を離して、何かあったなんて聞いた日には目覚めが悪い。放っておくよりは一緒にいた方が良いだろう。



「それじゃ! 一緒にツチノコ探そ! 大勢で探した方がきっと見付かるもん!」

 それが、彼等と岩永姫という少女の出会いだった。

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