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第一話:ツチノコを見付けに

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・地域・宗教とは一切関係ありません。

 ツチノコはいると思った。


 見たことがあるわけじゃない。大人の人達は「そんなのいない」って言う。

 でも、そうは思わない。


 ツチノコだけじゃない。

 河童にユニコーン、宇宙人に未来人、悪魔や天使、異世界や未知の遺跡。きっと、この世界にはまだまだ誰も知らない不思議な事が沢山ある。



 きっと、神様だっている筈だ。



「ぁ、あぁ……!! いたー!!」

 だからきっと──



「つちのこ、見付けた!!」

 ──きっと、この物語の結末は。




 ☆ ☆ ☆


 初心者マークのついた一台の車が、真夏の熱気でゆらゆらと空気が揺れる高速道路の上を走っている。



 時速は100キロ丁度をキープ。時折右側の追越車線をトラックが通り抜けていくのを横目に、運転手の青年は自分の車の速度計を二度見した。


「トラック早くね……?」

 レンタルカーショップで借りた、ちょっと安めの型落ち車。


 そのドリンクホルダーにはいつでも取り出しやすい位置に置いておく為にと、取り立ての自動車免許証が差し込まれている。

 免許証の写真に満面の笑みで写っている金髪の癖っ毛。その髪を少し掻きながら、免許証の持ち主千堂(せんどう)(はじめ)は助手席をチラ見した後、バックミラーで後部座席にも視線を向けた。



「俺よー、免許取り立てでこんな距離運転するの初めてなんだぜ?」

 その声は、どちらかと言うと助手席に向けられる。しかし、返事はない。


「旅行初っ端から寝る事ねーだろぉ?」

 助手席に向けた言葉というよりは、ただの独り言であり愚痴だった。


 (はじめ)の隣に乗っているのは、中学生くらいの男の子。帽子で日差しを避けて、気持ち良さそうに寝息を立てて寝ている。



「出発の時はしゃいでたから、疲れちゃったんじゃないかな〜」

 一の独り言に、後部座席に座っていた一人の女の子が口を開いた。


 はちみつ色のショートカットの女の子。変な形のアホ毛をゆらゆらと揺らしながら、ポケーっとした顔の彼女は抑揚のない口調でこう続ける。


「ミー君もおやすみだし」

 そんな彼女の横で、黒い髪の青年が扉に頭を乗せて寝ていた。真夏だと言うのに黒いコートを着たその青年を見て、一は苦笑いをこぼす。



「でもよー、レジ子。……いや、俺はレジ子だけでも起きててくれて嬉しい。レジ子だけだぜ、俺の話し相手はよ」

 一は若干諦めたような口調でそう漏らした。実際、隣に座っている中学生の出発直後のはしゃぎ具合ときたら車が揺れる程だったのだから仕方がない。



「私はね、朝まで寝ていたので元気です。準備もねー、ミー君がしてくれたから。ので、一君とのお喋り係をね、頑張るよ……!」

 謎のドヤ顔を見せるレジ子(・・・)と呼ばれた女の子。


 彼女の名前は岡井(おかい)(けい)

 岡井佳、おかいけい、お会計──で、レジ子。隣で寝ている、彼女の幼馴染が付けたあだ名である。



「ミヒロ、朝凄い顔してたもんな」

「私ねー。昨日の夜、準備するの忘れてたの」

「え……?」

「で、ミー君が朝やってくれた」

「そうか。……ミヒロ、安らかに眠れ」

 ミヒロというのはレジ子の横で寝ている黒髪の青年の事だ。名前は東雲(しののめ)海尋(みひろ)。レジ子の幼馴染。


「てか、そろそろ二人を起こしてくれね?」

「もう着くの? 東黒川村」

「んや、休憩する。まだ道のりはなげーぞー。東京から岐阜県だからな。朝早く出たのに、昼に到着出来るか怪しくなってきた」

 レジ子とミヒロは、一とも高校生からの付き合いである。同じ大学に入って、今は夏休みだ。


 そんな二人ともう一人を連れて、東京から岐阜のとある村を目指している理由。それは──



「楽しみだねー、ツチノコ」

 ──ツチノコである。



「起きてー、ミー君」

「……ぁ? 着いたか?」

「休憩だって」

「寝るわ」

「起きてー」

「ヒラケン、起きろー。ツチノコが逃げるぞ」

「──え!! ツチノコ!! どこ!!」

 ──ツチノコと言われて飛び起きる浅黒い肌の少年。一の隣で寝ていた中学生は、エンジンの止まっている車の窓に顔面を張り付けて外に視線を向けた。



「嘘。ちょっと休憩な」

「なんだよー、一兄ちゃんの嘘吐き」

「ヒラケン……大人は全員、嘘吐きなんだぜ」

「なんだそれ」

 口をとんがらせて、少年は抗議をする。


 ヒラケンと呼ばれた少年の名は、平良(ひら)健一(けんいち)。略してヒラケンだ。

 彼はレジ子の従兄弟であり、この旅行の立案者でもある。



ツチノコ村(・・・・・)着いたら起こしてー」

 ヒラケンはそう言うと、帽子をひっくり返して再び姿勢を崩した。



 ツチノコ村。

 一、ミヒロ、レジ子、ヒラケンの四人が乗る車が向かう東黒川村はツチノコと呼ばれる未確認生物──UMAが出る事で有名なツチノコ村と呼ばれている。


 その昔、ツチノコブームが起きた頃には村で百万円以上の懸賞金が掛けられてツチノコの大捜索が行われた事もある村だ。

 しかしそれはもう昔の話。当たり前だが、ツチノコは見付かっていないし、もうツチノコブームなんて誰も言っていない。



 ツチノコなんていない。それが一般社会的な普通の見解である。


 

 大学生になって初めての夏休み。

 千堂一は、取り立ての自動車免許で友人のミヒロとレジ子を何処かに連れて行こうと画策していた。

 

 そんなある日の事。

 レジ子の家に従兄弟のヒラケンが遊びに来ていた所で一が何処かに遊びに行こうと提案した所、ヒラケンから飛び出してきたのが『東黒川村』という場所だったのである。


 何処でツチノコの情報を手に入れたのか、中学生がカブトムシを捕まえにいくノリでヒラケンは「どっか行くならツチノコ村にしよー」と言い始めたのだ。



「なー、ミヒロ。助手席座ってくれよー。ヒラケン寝てるから寂しいんだけど」

「ケツから根っこが生えた。動けん」

「レンタカーに根っこ生やすの辞めてくれよ」

「ケツから根っこが生えた事にツッコメよ」

 レジ子の横で寝ていたミヒロは、窓の外に視線を向けながら一との会話を受け流す。


 東にあるこの国の都ではあまり見ない、山に囲まれた土地。

 ツチノコはともかく、カブトムシとか沢山いそうだとか、そんな感想がミヒロの頭に浮かんだ。



「くそー。でも、あんま休憩してても仕方ねーか!」

「じゃあね、しりとりしよ。しりとり。これで一君も運転中楽しいよ」

「レジ子……ありがとな。よし! それじゃ俺、レジ子、ミヒロの順番な!」

 少し休憩して、一だけパーキングエリアでトイレを済ませた後。


 結局助手席で寝てるヒラケンを横目に、一はレンタカーのエンジンを入れる。

 

 ゆっくりと動き出して、合流地点までに加速。

 この合流が高速道路の難しいところだが、特に他の車が走っていなかったが為に一の緊張は無駄に終わった。



 田舎だな、と。一の表情が緩む。




「よし! えーと、しりとりの『り』からな」

「マジでやんのか」

「り、り……お! 旅行!!」

「旅行。うだ〜。えーとね、う……う……うんち……!」

「汚ねぇ!!」

 女の子が口に出してはいけない言葉に一は絶句した。


「ち○こ」

「ミヒロ!?」

 なんだこの二人。そう思いながらも、一は『こ』から始まる言葉を探し始める。



「ん〜、コロッケパン」

「ヒラケン!?」

 そして突然しりとりを終わらせたのは、一の隣で寝ているヒラケンだった。


「ヒラケンの負け〜」

 静まり返る車内。ミヒロは欠伸をして再び寝て、レジ子もスマホをいじり出す。



「何見てんだ? レジ子」

MeTube(ミーチューブ)の配信。MeTuber(ミーチューバー)のね、河童侍」

「河童……」

「最近ね、面白いの。キュウリでお絵描きしたりするんだよ」

「意味分からんな」

「お前ら……自由過ぎるぜ。まぁ、いっか。よし、もうちょっと!」

 それでも明るく、一はアクセルを踏んだ。時速は丁度100キロ。目指すはツチノコ村(・・・・・)──東黒川村。

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