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09――羽有り

 噂は噂。だが、日常の中に確かな変化は起きていた。今日は仕事も見つからず、工房の二つあるソファーでだらだらと過ごしている。市場巡りが習慣となったダイアンが帰ってきた。


「キッド、リン、聞いてくれ。最近市場に見覚えのないモノが出回っている」


「……どこからだ」


「東側らしい。おそらくだが、以前言っていた羽根有りかもしれない」


「あっち側に現れて、誰かが退治した……?」


「そうだろうな、リン」


 キッドはため息をつく。


「先にやられちまったかぁ。俺達が一番乗りしたかったんだけどなぁ」


「……私達も東に行ってみましょう」


 時間は昼間、気温もちょうどいい。二人は暇していたところだ。


 この時間、空いている汽車に乗って東側を目指す。


「……レインがやったのかな」


「まあ、他にドラゴニュートがいる可能性よりもそっちのほうがありそうね」


 つり革にぶら下がるキッドは天井を仰いだ。


「カーッ、一人で羽根有りやっちまうとはすげぇ女だな」


 キッドとリンを乗せた汽車は東に到着した。


「試しに市場も見て回らない?」


「そうだな、どんな感じなんだろうな」


 東側は以前スラムを周っただけで、市場に入るのは初めてだ。とは言ったものの、顔ぶれが違うだけで環境は大差ない。経営者向けに肉からなにから資源を卸している店、通称“資源屋”を見に行く。


「らっしゃい! 今日は獲りたての素材があるぜ! お兄さんら、加工屋かい?」


「いや違うんだが、最近のこの辺の事情が知りたくてよ」


「ほう! じゃあ、噂のドラゴニュートか!」


「いやー、まあ、そんなところか」


 並んでいる商品に目をやる。料理用の猪肉や、装飾品なんかになるウィカニスタの牙、代り映えのない物だったが、一つ蒼い革のようなものが目に留まった。


「おじさん、これは何なの?」


 店主は小声で応じる。


「おお、こいつか。これはイマイチはっきりしないんだが、裏のルートから流れてきたんだ。見たところお兄さん達は戦うのが仕事みたいだが、えらく頑丈で色々使えるそうだぜ」


 キッドは唸る。


「俺達もこれくらいの仕事したいもんだな。ちょっと行ってくる。おっさんありがとな!」


「おう! うちにもいい資源流してくれよ!」


 資源屋を後にする。


「キッド、イーストのところへ向かいましょう。一応顔出しといた方がいいでしょ?」


「……それもそうだな。闇市に入ってその辺の店に聞けば場所もわかるだろ」








 東のクラズと同様、不釣り合いな屋敷があった。情報によるとここがそうらしい。


「貴様ら、何者だ」


「西のドラゴニュートだ。悪いがイーストに顔通したいんだが、大丈夫か?」


「ちょっと待っていろ」


 男は屋敷に消える。暫くすると戻ってきた。


「あまり時間は無いが、話を聞くくらいならできるそうだ。入ってくれ」


「ありがとな」


 屋敷の中を進む。特にこれと言った特徴のない、ただランプに火が灯っている廊下だ。


「よお、キダニス、リンちゃん。東に来るとは珍しいな」


「久しぶりねイースト、忙しいようだし単刀直入に言うわ。羽根有りが出たっていうのは本当?」


「その話か。……その通りだ、羽根有りと思われる竜が出現した。デカいぜ。それも一体や二体じゃあない。うちが抱えてるのはレイン一人だからあいつに動いてもらっているよ」


「俺達も動いていいか? それも聞きたい」


「勿論構わない。ウエストには自由にさせるように言われているしな。同様にレインも西に出ることがあるはずだ」


 二人はドラゴニュートの店でレインを見かけたことを思いだす。


「……ありがとう。じゃあ行ってくるわ」


「死なない程度にしとけよ?」






 依頼書を見て回る。その多くは西と変わり映えしないが、赤い印の押されているものがある。竜と思われるものの討伐だ。形式上一般人は受けることができないが、ドラゴニュートがリン達しかいない以上、事実上の二人かレインの名指しの依頼となる。もっともここは裏の世界。報酬目当てに無理やり受ける者もいるとかいないとか。




 場所は東の郊外、スラムよりも外の沼地だ。錆びた液体が流れ着くそこに寄り付く生き物はいない。


「さて……、着いたはいいが獲物探しだな。東の地形は詳しくないし、草食動物のいる場所を探そう」


「草食動物ってムスムスとか? スチーム周りにはもういないと思うけれど……」


 温暖な気候で暮らす草食動物ムスムス。環境や気候を踏まえるとここにはいないだろう。


「そいつよりは若干狂暴だがラムスっていうヤツがいてな。アレはだいたいどんな所にもいるもんだ。俺達には狂暴だが、それでも竜なんかからしたら餌にすぎないんじゃねぇかな」


 枯れ木が立ち並ぶ中を歩きで進んでいく。


「……いたぞ、ラムスだ。リン、ヤツは頭以外を狙ってくれ。血の臭いで竜釣りだ」


 四本の脚で歩くラムス。防御の為か攻撃の為か、頭部は硬く進化した甲殻と角で覆われている。どちらであれ武器を手に入れた草食竜バージョンの猪と言っても差支え無いだろう。


 幸い二頭しかいない。しかもこちらに背を向けている絶好のチャンスだ。


「この重機砲にも慣れてきたわ。キッドも仕掛けてちょうだい、私とキッド一頭ずつね」


 リンは徹甲弾の装弾された重機砲を構える。以前の物と違いバイポッドは付いていないが、重心がシリンダーのある中央に寄っている為、取り回しはしやすい。


 走るキッドが両手剣の持ち手に手を掛けると、いくつもの竜の牙が刀身から飛び出す。走る勢いのまま叩き付ける。毒の滲むその牙は、頭部を避け胴に深々と食い込んだ。体内に直接放出される毒にラムスは昏倒し、間もなく息絶える。


 リンの放つ徹甲弾も的確に胴を捉えた。撃鉄を引くとシリンダーが回転し次弾が装填される。二撃目を放つと、後頭部から頭蓋に侵入した弾丸はラムスの脳をかき回し、易々とその命を奪った。


 キッドが周囲を見渡すが、他に目立った生き物の気配は無い。後は血の臭いで噂の竜が来るのを待つのみだ。


「……本当にこんな単純な手で来るかしら。今まで羽根無しをやった時には羽根有りなんて来なかったわよ?」


「まあ、他に打つ手もねぇだろ。暴れてる真っ最中に依頼が来るわけでもねぇし」


 岩陰でしばらく待つと、カニデロの群れがやって来た。ラムスの肉に喰らいついている。


 そろそろ日が暮れそうだ。ラムスは食い荒らされ無残な様子だが、羽根有りの現れる様子はない。


既に虫がたかり始めていた。


「……しょうがねぇ。暗くなるし帰るか?」


 粘土の様な保存食を齧る。栄養と空腹を満たす為の物で美味しいものではないが。


「……そうね」


 いい具合の宿はすぐに見つかった。部屋は一つだが二人はそれを気にする間柄ではない。


「明日はどう動くよ?」


 キッドは市場で買ったジャーキーを咥える。


「……そうね、羽根有りの生態が分かっていれば手は打てるのだけれど」


「肉食か草食か、案外昆虫食だったりしてな」


「今回の竜って大きいんでしょ? 虫程度で腹が収まるのかしら」


「何とかなるかと思ったが、明日依頼人に詳しく聞いてみるか」




 翌日、依頼書に書いてある依頼人の場所を尋ねる。


 スチームの東の闇市、金属加工が主の工房だ。高架下にひっそりとあるダイアンの物とは違い、巨大な機械が稼働し、多くの人が流れ出る汗と戦いながら働いている。寒冷期の寒さとは無縁だ。噴き出す蒸気と歯車の稼働する騒音の中、小柄な中年男性に依頼の詳細を聞く。


「なんだぁ! 聞こえねーぞ!」


「だからなオッサン! この依頼の羽有りについて何か知らねぇか!」


「なんだってえ!」


「外で話せばいいじゃないの!」


「それもそうだな!」


「お嬢ちゃんの言う通りだな! 出よう!」


 寒空の下、雪がちらついているが機械に埋まるスチームに積もることはほとんどない。


「なんだあんた等もドラゴニュートかい。いつもの仮面の娘じゃないんだな」


「ええ、西側から来たの。なんでも伝説の羽根有りが本当に出たらしいじゃない」


「それで、そいつをおびき出す手段でもないかねって聞きに来たんだ」


「ああ、それならこいつを持っていきな。仮面の娘曰く、光物に寄って来ることがあるんだとよ」


 渡されたものは金属板が幾つも吊るされた大量の風鈴だ。


「これをその辺の木にでも吊るすんだと。ただ気を付けねえと何頭も集まっちまうらしい。獲物が見えたらすぐに外すんだな」


「何頭もいるとは聞いていたけど……」


「ああ、裏のルートではあるが、それなりに出回る程にはいるらしいぜ。うちが依頼出したのも資源欲しさだ」


「わかったわ。風鈴、ありがとう」


「おう、気を付けてな」








 再び昨日と同じポイントへ。ラムスの遺骸は跡形もなく消えていた。


「虫がバラしたにしちゃあ早すぎる。羽根有りと入れ違いにでもなったか?」


「ここにいるらしいことが分かれば充分だわ。風鈴を吊るしましょう」


 周囲の枯れ木に引っ掛けていく。曇り空の中、似つかわしくない涼し気な音色が響き渡る。


「天気が良くねぇ。真ん中にランタンでも吊るしとくか」


 これで光源としては足りているだろう。後は岩陰で待つのみだ。


「初めての羽根有りね……、緊張してきたわ」


 リンは落ち着きなく、重機砲に込められた弾頭をチェックする。


「……伝説とは言え相手だって生き物だ。殺せないわけじゃない。まあ、用心していこうぜ」



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