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16――翼竜

 街の中を駆け抜け病院へ。


「ダイアン! 大丈夫なの!」


 リンが扉を激しく開く。蝶番から外れてしまったが今はそれは重要ではない。奇しくも、以前リンがキッドを殴り飛ばし破壊した扉だ。


「ああ、無事だ。俺も撃たれはしたが、二人が本命だったらしくてな……。運よく通行人に助けられたんだ」


 ダイアンは身体に包帯を巻かれている。


「……そう、無事で良かったわ。……本当に良かった。ごめんなさい、守るなんて言っておきながら何もできなかった。重傷を負わせてしまった」


 零れる涙は安堵のものだ。


「……泣かないでくれ、見ての通り元気だ。リンとキッドこそ大丈夫なのか? あの様子じゃあ待ち伏せをくらったんだろう?」


「俺達も大丈夫だ。なんやかんやあったがロナルドも死んだぜ」


「……そうか、これで暫くすれば闇市にも活気が戻るだろう」


 リンはまだ泣いている。


「……つ、次にポストに着くヤツが理解のある人間だったらいいのだけれどね……」


 そこはクラズ達の腕次第といったところだろう。闇に生きる彼らにとって、リン達にとってのそれ以上に重要なポイントだ。








 寒冷期もすっかり終わり、温暖期との間の過ごしやすい気候が続く。


「へへ、久しぶりだなオッサン」


「おう、また会えてよかったぜ。二人とも、大変だったんだろ? おかげで、うちを含む他の店も再開できたわけだ。みんな感謝してるよ」


 落ち着きのある笑顔の二人にチャーシューを上乗せしてくれた。


「俺から出来るのはこの程度だけどな! ゆっくりしていってくれよ!」


 追加で注文し、飲む。店主も一緒に飲んでいた。


「今更かもしれねぇが祝勝会だ! どんどん飲んでいいぜ!」


「オッサンも太っ腹だねぇ。貰えるもんは貰うぜ! なあリン!」


「ええ、今日は長く居座るわよ」


 どんどんお代わりをする。店主もいい具合に酔い、長くて短い夜が始まった。








 すっかりかつての活気を取り戻した闇市を進む。目的地はフォグの元。薬について詳しく聞かなければならない。


「ようフォグじいさん。お互い無事で何よりだな。今日は薬の事を聞きに来た」


「ほお、使ってみたのかね? そんな恐ろしい顔をして」


「……ヒトがな。あれはいったい何なんだ? レイン……、そいつもドラゴニュートなんだが、随分と意味深なことを教えてくれたぜ」


「何故、ドラゴニュートなら使えるのか。貴方に聞けばわかると言っていたわ」


 フォグは少し考え、ゆっくりと話し始めた。


「レイン、レインか……、私も彼女は知っておる。実はレインはここの出身ではない。彼女が店に来たときは驚いたよ。私が暮らしていたドラゴニュートの里と同じ出身での。だが純血のドラゴニュートはそこでは信仰の対象。ヒトよりも翼竜に近い存在とされているんじゃ。暮らしにくかったんじゃろうな。いつの間にか集落を去っていたよ」


 フォグは一息つくと続けた。


「薬じゃったな。あれは竜の力を活性化させるモノ。おぬしたちの言う羽根有り、私達は“翼竜”と呼んでおる。その生命力はおぬし達も知っている事だと思うが、そこを刺激させ治癒力を上げる。薬草なんかとは根本的に異なるモノじゃ。ドラゴニュートとは文字通り“竜人”。何故生まれたのかは私も知らんが竜とヒトのあいのこ、じゃな」


「……つまり、竜ではないヒトが使うと竜の力に呑まれる。といったところかしら?」


「ああ、そうじゃ。飲みこみが早いのお。誰が使ったか私は知らないが、凄惨なことになったじゃろう」


 その通りだ。ロナルドは件の薬を使用し、身体の一部は竜と化した。しかしその竜は二人とも見たことがない、鳥や寄生とも異なる、それこそ御伽噺の様な炎を吐く竜だった。


「ただ見覚えのない竜だった……。フォグ、貴方はどれくらい竜の事を知っているの?」


「うむ……、おぬし達が知っている以上、とだけ言っておこうか。何度でも言うが、そもそも私はこのスチームの為に動く気はさらさら無い。この自然のかけらも残っていない場所もいつか発つつもりじゃ」


「そう、残念だわ。……そうだ、あの傷薬を一つ売ってもらえない? レインに上げるって約束なの」


「商売は誠実にさせてもらうよ」


 傷薬は思いのほか高かったが、それでも効果は凄まじいのだろう。








 季節も変わり、温暖期がやって来た。雨の季節にはまだ早いが気温は一気に上がる。ダイアンの傷も癒え、ようやく退院となった。


「いきなりだが、リン、キッド。スチームを出てみるのはどうだ? フォグもいずれここを去るのだろう?」


 リンは目を丸くする。


「本当にいきなりね。どうして?」


「今まで話を聞いた中で、やはりドラゴニュートには二人の知らない要素が多いように感じる。フォルと共にドラゴニュートの里を訪れるのもいいんじゃあないか?」


「そうなぁ。だが、驕りかもしれねぇがスチームの守り手がいなくなるぜ? 警備団もロナルドが死んでいまだにごたついてる見てぇだし、正直心配だな」


「警備団が何とかするだろう、としか言えないな。だが、鳥相手に軌道車までだしたんだろう? 寄生竜も姿を見せないし、大丈夫なんじゃあないか?」


 ダイアンの言う通りだ。それに軌道車の砲撃ならば仮に寄生竜が現れても攻撃は通るだろう。


「……行ってみるか、リン」


「そうね……、フォグに案内してもらえるか聞いてみましょう」


 早朝。まだフォグの薬屋に行列は出来ていない。


「……ほう、ドラゴニュートの里に行きたいと言うか」


「ええ、私達はもっとドラゴニュートについて知るべきだと思うの」


「うむ、その姿勢は悪くない。それに二人ともドラゴニュートじゃし、連れて行ってもいいとは思うんじゃがのう」


「じゃあ決まりだな、フォグじいさん」


「うむむ……。まあ、よかろう。夜にスチームを去るとしようかの。それまで挨拶でも済ませておくんじゃな」


 荷物はまとめた。とはいっても、水と食料以外は殆どリンの五合瓶ほどもある弾丸だが。


 日が沈む。フォグの指定した時刻までまだ時間はあるため、いつもの屋台で食事を取っていた。


「おじさん、私達スチームを出ようと思うの」


「どうした急に。新天地でも見つけたのか?」


「もちろんここに帰って来るわ。ただ私達ドラゴニュートについて、もっと知るべきだと思ってね」


「そうか……寂しくなるな」


「俺達が帰ってくるまで店潰すんじゃねぇぞ」


「うるせぇやいキッド! まあ、待ってるぜ」


 リンは笑顔を向ける。


「じゃあ、また暫くしたら来るわ。それまで、ちょっとお別れね」





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