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13――警備団

 気合を入れたものの、めぼしい仕事は入ってこない。以前の金属竜も一頭きりで姿を見せる様子もなかった。


 しかし、変化はあった。西の闇市にも蒼い外殻、つまり鳥飛竜の素材が出回り始めている。それは東側に飛竜が出続けているということを示していた。


 リンは訝しむ。


「ねえキッド、最近警備団の動きが怪しくないかしら」


「そうか? いや、確かに見かける機会が無くなった気がするな」


「そう、元々この辺りでは見かけないけど、それにしても少なすぎるわ。東側と関係ある気がするの」


「重い腰を上げたってか?」


「ええ、ドラゴニュートではないヒトでもあの羽根無しならきっと倒せるでしょう? 私は実際に戦ってそう感じたわ」


「……確かに、犠牲は出るだろうがあの鳥くらいなら倒せるかもしれないな」


「いくら何でもレイン一人でこれだけの鳥を仕留めることなんて出来るわけない。……私達も様子を見に行ってみない?」


「警備団に見つかりたくはねぇ。コッソリ行こう」








 武器は持たずに汽車に乗り東を目指す。しかし、東端の駅に辿り着く前に汽車は止まった。ノイズ交じりの車内放送が響き渡る。


「現在、警備団が東駅で戦闘しております。お手数をおかけしますが……」


 その後は乗り継ぎの路面汽車などの案内だった。


「リン、見たいものが見れるかもしれねぇな」


 頷く。


「そうね、急ぎましょう」


 ホームからでも既に砲声が聞こえる。おそらくリンの予想していたことは当たっていたのだろう。線路下、剥き出しの鉄骨の中の整備用通路を走る。


「マジか! あんなものまで持ち出してんのか!」


 真上を通る線路の延長線上、蒸気を上げる其れは大型の装甲軌道車だった。搭載された砲塔はスチームの外を狙っている。


 真下まで来た。それは既に何度も砲声を上げている。


「やっぱり鳥ね。あそこ」


「ああ、見える」


 スラムの中、以前討ち取った鳥と同種。それを囲むように車両が並んでいた。絶えることなく銃声が響き渡っている。


 鳥は溶解液を放つが、それでも警備団の数に完全に押されていた。何台もの溶かされた車両、又はヒトだったもの。しかし車両の荷台の機銃から放たれる弾丸が襲い続ける。装甲軌道車から放たれた砲弾が直撃した。鳥だったモノは周囲の建物ごと飛び散り、周囲に肉片と体液をまき散らす。


 リンは眉を顰めた。


「まあ、効率はいいのかもしれないけど……惨いわね」


「俺達もやってることは同じなんだが、フォグじいさんの言ってた自然の驚異どうこうの対策もこんな形でいいのかねぇ。まあスチームを守るって意味では最善手なんじゃねぇかな」


 去っていった警備団が向かうのは次の獲物だろうか。スラムの人間は鳥の肉片や弾丸の薬莢を拾って回っている。


「帰ろうぜリン。警備団が竜討伐に動き出したっていうのが分かれば充分だろ?」


「……そうね」




 工房に帰り着き、一息つく。丁度ダイアンも休憩していたようだ。


「……そうか、だがスチームが自然を排斥してきたのは今に始まったことではない。それこそ俺達が生まれる前からそうだったんじゃあないか?」


「そうしてできたのは、この死んだ土地だわ。ヒト以外の生き物は寄り付きもしない」


 ああ、その通りだ。ダイアンは続ける。


「だが、ヒトは寄り付く。ここはヒトの暮らす場所だ。貧富の差は計り知れないがな。……リンはこのスチームを変えたいのか?」


 ダイアンは警備団の行動に肯定的だ。しかし、リンは何処か納得がいかない。


「……そこまでは言わないけど」


「それほど気になるのならフォグに話を聞いてみればいいんじゃないか? 彼もそこを気にしていると聞いたが。……客だ」


 開いたままのシャッターの前に立つ男。


「……クラズウエスト様から、お手紙をお持ちしました」


「クラズから? ありがとう」


 封筒と巨大な革袋を受け取ると、男は一礼し去っていった。


 内容は金属竜についてだった。忘れかけていたが、頭を吹き飛ばしてなお動くその生態についてだ。


 一言で言えば、あの時吹き飛ばしたのは確かに頭であり、頭脳であった。ただ、リン達には少し予想外な状態だった。


 吹き飛ばした金属質の頭部、それは竜に寄生する竜だったそうだ。寄生先の眼となり身体を操る。金属状の体表は寄生先を守るためにそうなったのではないかとのこと。つまり吹き飛ばしたものは寄生竜の頭、その後動き出したのが寄生されていた竜ということになる。


「……そんなこともあるのね」


「なんつー生き物だ。袋の方は何だ?」


 ずっしりと重い革袋を開くと、中には大量の青い金属が入っていた。


「あの竜の一部だな。ダイアン、なんかに使えるか?」


「そうだな……。カニデロの毒と例の鳥の溶解液を取ってきてくれないか? 試したい事があるんだ」


「おっ! つまり俺の剣の番だな!」


「鳥ならたぶん市場に出回っているでしょうね。警備団があれだけ倒してるんだもの」


「ちゃちゃっとカニデロの毒集めだな」






 西の郊外。


 以前は見かけなかったカニデロも、最近では当然のように姿を現す。喉の瘤を破らないように倒せばそれでいい。礫弾で脳を揺らし、キッドが首を刈り取る。


「……よし、これだけあれば充分だろ」


 荷台に並ぶカニデロの首。ひどい絵面だが仕方がない。帰り道に闇市に寄り、溶解液も無事手に入った。








「戻ったぜぇダイアン。おぉ、あったけぇ。外は冷えるぜ、寒冷期もいよいよだな」


 既に日も落ち、工房の上は労働者を詰め込んだ汽車が走っている。


「本当、そうよね。これからどうするの? ダイアン」


「まあ、待ってくれ。今剣の本体を作っているところだ」


 作業台に乗っているのは白熱した金属の板。リンはもちろんキッドの身長よりも遥かに長い。


「おぉ、楽しみだな! 見てていいか?」


「まあ、構わないぞ」


「私はもう寝るわ」


 リンはシャワーに向かう。


「なあダイアン、例の竜の金属みたいなのも正確には金属ではないんだろ? どうやって使うんだ?」


「……探り探りだな。未知の物質であることには間違いない。今回は量もあるから何とかなるだろう」


 熱で軟化するか、叩いて形状は変化するか。様々な手を青い外殻に試していく。


「……よし、見えてきたぞ」


 青い塊を炉に押し込む。かなりの時間がかかるが、熱で柔らかくなるというのがダイアンの見立てだ。金属の本体に合わせて叩いていく。工房内は寒冷期など関係ない。汗が滝のように流れる。


 一息。コーヒーを飲む。この時点で時計の針は天を過ぎていた。リンは既に床に就き、結局キッドも寝息を立てている。


 何時間もかけダイアンは基礎となる形を作り上げる。そして工房の隅に置いていた、謎の羽根有りの翼の骨を手に取った。ここからはまた試行錯誤だ。長さを調整し硬化薬を塗った後、刃のように研磨し、壺に満たされた毒液に端を浸す。


 ダイアンの読み通り、翼は毒液を吸収し始めた。原理は分からないが、この特性を使わない手はない。もう一翼も毒液に沈める。続いて牙だ。キッドの両手剣を解体し、取り外す。こちらは全て溶解液に浸した。牙は溶けることもなく、ただ液体を吸収し続ける。後は液体の吸収を待つばかりだ。本体の形はおおよそ出来ている。


 そろそろ頃合いかと、ダイアンは慎重に翼と牙を取り出す。そして、青く輝く本体に牙を並べてはめ込んでいく。それに被せるように翼を置き、仕上げに青い甲殻を表面に打ち付ける。


 完成だ。日は上り、汽車が工房を揺らしている。


 以前のように刃の向きを変えることなく、全て片面で可能な武器だ。並んだ牙が食い込んで装甲を溶かし、そこに刃と化した翼が切りこまれ毒を放つ。寄生竜の金属質な甲殻を使うことで、重量から得られる破壊力も増しただろう。問題を上げるならばその刀身の巨大さ故、持ち運びに苦労することくらいか。


 ダイアンは肩を鳴らし、ソファーに横になる。間もなく、キッドの歓声で起こされることになるのだが。



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