表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/38

10――竜?

「……キッド、あれ」


 リンが曇天の雲間を指す。


「お出まし、だな」


 その外見は二人がイメージしていたものとは少し異なった。


「もっと牙とかがびっしりと思ったが……」


「鳥みたいね。でもあんなに大きな鳥なんて聞いたこともない。身体の作りも明らかに違うし、それに外殻の色が市場に並んでいたものと同じだわ」


 小さい頭に蒼の鶏冠、鋭く長い曲線を描く嘴、灰色の羽毛に覆われた身体。だが首周りや腹部、頭部などには鶏冠同様蒼い外殻が張り付いていた。


 せわしなく首を動かしながら黒い瞳で風鈴を眺めている。


「仕掛けるぞ。リンは一発撃ってから風鈴を仕舞ってくれ」


「わかったわ」


 重機砲を構える。徹甲弾は既に装填済みだ。最初の一撃で片が付けば余計な手間もかからない。


 初撃。だが竜は気配を察知したのだろうか、頭部を狙った弾丸は振り向いた嘴に弾かれる。以前の重機砲とは比にならない銃声に完全に気づかれた。


「行くぜ!」


 キッドが岩陰から駆け出す。リンは重機砲を下ろし、風鈴の回収に回った。


 刀身にびっしり並んだ牙が竜に喰らいつく。しかし急所は捉えない。左翼の付け根を切り裂いた。


「……まだ動くのか!」


 毒は入っているはずだ。しかし竜はキッドに嘴を向ける。突きを避けたキッドにリンの声が届く。


「キッド! 左に避けて!」


 反射的に動いた。次いで爆音、重機砲の銃声だ。竜の左翼は完全にその付け根から千切れとんだ。


「……嘘でしょう」


 リンは驚愕する。それでも竜は暴れていた。リンの声にいったん距離を置いたキッドに向けて嘴を大きく開く。


 咄嗟に横に転がり避けると、キッドが直前までたっていた場所を液体が吹き抜ける。キッドの視界に、地面にいた蜥蜴が溶けていく様が入った。


「リン! 絶対当たるなよ!」


「わかってる!」


 片翼は落とした。それでもなお竜はその鋭い嘴と爪の生えた脚を繰り出す。


 リンは重機砲を開き、弾を込めなおす。装填したのは衝撃弾。徹甲弾とは反対に、その名の通り衝撃を与えることに特化した弾丸だ。


 狙う先は竜の脚。この弾丸では致命傷となりえるダメージは与えられないだろう。隙を作り、トドメはキッドだ。


 一射。右脚の関節に当たる。鈍い音を立て、その関節は本来曲がらないであろう方向に曲がった。


 倒れる竜の喉元目がけ、キッドは両手剣を振り上げる。外殻があったが、それごと叩き切った。


 首を落とされた竜はもう動かない。キッドが剣の先でつつく。


「……流石に死んだろ」


「ええ、死んだ……と思うわ」


 身体の中でも大きな部位にあたる翼を片翼失っても暴れ続けていた生命力には、驚くばかりだ。


「よし! 羽根有り、倒したな!」


「やったわね!」


 二人はハイタッチを交わす。


「外殻を持って帰って、業者に頼みましょう」




 大型の生物を仕留めた際、その毛皮などを利用するためにスチームに運搬する業者がいる。


 スチームの外に出るという危険の伴う仕事の為、確かに獲物を仕留めたという証明として獲物の一部を持ち帰るのだ。あとは依頼人とその業者との交渉で、どれだけの物が報酬として手に入るかが決まる。巨大な生物程輸送には時間がかかるため、肉食生物に食い荒らされたりして得る事のできる物は変動するが、市場に流れる物と依頼人、希望する場合は実際に討伐した者の取り分がそのようにして分けられるのだ。








「ちぇー。これっぽっちかよ」


「……しょうがないわ。もともと依頼主の工房が資材目当てだったっていうのもあるし」


 ガラガラと甲殻のぶつかる音のする革袋を担ぎ、汽車への階段を上る。


「これは扱いきれないって言ってたけどどうしようかしら」


 リンが持つ別の革袋に一つ、竜の臓器が入っている。


「あの口から飛ばした水みたいなのが入ってるって言ってたな。触ったら溶けちまうから気を付けろよ」


「ちょっと! そんなに恐ろしい物なの!」


「潰さないように気を付けてくれ」


 もう街中にランタンの灯が見える。だが寒冷期の為、時間はまだ早い。幸い仕事終わりの混みは避けられそうだ。








「戻ったぜダイアン。金はたっぷり入ったぞ。未知の資材も少しだけな」


 リンは小さな革袋を両手で抱えている。


「おお、その分だと特に怪我もなさそうだな。どうだった? 伝説の羽根有りは」


 ダイアンは特に心配はしていなかったようだ。


「なんつーか、拍子抜けだな。竜っていうよりも鳥に近い外見だった。大半は羽毛だったしよ。だが、大まかな形は確かに今まで見た羽根無しとは違うな」


「やっぱり普通の生き物ではないわ。生命力が強すぎるというか……、いくら攻撃しても倒れないんだもの」


「そうか……。一頭じゃないとは聞いている、西にも来るかもしれないから気を付けてくれよ。その革袋は?」


 キッドとリンは荷物を下ろす。リンは殊更慎重な動きだ。


「……ふぅ、今回の報酬よ。羽根有りの一部を分けてもらったわ。この小さい方には気を付けてね」


「おお、面白いな。何が入ってるんだ?」


「羽毛と外殻だ、小さい方はモノを溶かす液体入りの内蔵が入ってる」


 キッドが袋を開いた。灰色の羽毛が生えた革と特徴的だった蒼い外殻。そして液体を湛えた袋状の臓器。


「……これは、どう加工したものだろうな。キッド、剣を貸してくれ」


 キッドが作業台の上に置くと、ダイアンは牙を露出させる。生の肉を押し当てると、依然と同様に毒液がにじみ出した。


 次にダイアンは臓器を手に持つ。


「……気を付けてね、ダイアン」


 袋状のそれの端を切り、牙に向けてゆっくりと傾ける。牙は溶けることなく、乾いた砂のように液体を吸収していった。その作業を続ける。


「……足りないが、こっちの方が都合がいいかもしれん。片側の牙はこのモノを溶かす性質を手に入れたはずだ」


 肉を押し当てる。煙を上げ、綺麗に牙の形にくぼみができていた。


「斬る向きに気を付けろってことだな」


「ああ、そういうことだ。片面で斬れば溶かし、もう片面で斬れば毒を注入することができる」


「やったぜダイアン! いつもありがとうな」


「俺も好きでやっている事さ」


「じゃあ飯食いに行こうぜ! 祝勝会だ!」


 戸締りをし、三人で自動車に乗り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ