真緑になった水
お兄ちゃんは僕に言った。
「早くお前も立派になれよー」
立派ってなんなんだ。ってその時は思った。
そんなこと言ったらさ。
自分は自分のことを偉いなんて、僕は毎日思ってる。生きてるだけでぶっちゃけ偉いと思う。皿洗いするだけでも偉いと思うよ。だから僕の思う立派ってラインには、お兄ちゃんのラインとの高低差があったんだ。
僕はそれに気づいてしんどくなったりして、でも時々楽になったりもした。だって自分はもう偉いんだ。立派なんだよ。そう思える自分が自分でいるだけで素晴らしいと思う。
ニートになったら花を育てて自分を偉いって言うし、死にたいと思ったら1秒でも長く生きて偉いって言う。
そんでもって、社会人になれたとしたら、行きの電車に乗った時点で、拍手喝采を自分1人で自分に向けて起こしてやろう。偉い、偉いえらい。
偉い偉い偉い偉い偉い偉い偉い偉い
立派だ。僕らは立派なんだ。
お兄ちゃんは大学に行って、しかも専門的な技術を学んでて、すっげえ立派だしかっこいい。多分有望だし、これからも有望であり続けて、有望としての未来を有望たらしめる有望さを待ち合わせてる有望なんだよ。
友達の玉山は最近漢検受かったらしいし、そのために必死に勉強してたのも、スマホを見る時間を1日なんと脅威の1時間にしてたってのも立派。
もう立派すぎるくらいの立派でしょう?
でもこれだけじゃない。学級委員長の新田さんだって、放課後には必ず残って、委員会に色んな提案を出して学校を良くしようとしてくれてるし、後々の生徒会長筆頭候補の彼女は立派すぎる、偉すぎる。
本当に偉い、偉い。偉いんだよ偉い。
でも、、なんでそんなに立派なんだ?
偉いよ、立派だよ。でもじゃあなんで、みんなはそんなに立派でいられるの?
好きなゲームを夜通しやって、気付いたら朝の8時で、あっという間に遅刻して、学校に着いた頃には1時間目の授業が始まってた僕は、多分偉くない。立派じゃなかった。
生きてるだけで偉いなんて、玉山の前でも、新田さんの前でも言えるわけなんてない。
もっともっと近い距離のお兄ちゃんにだって、僕はそんなこと言えたことではない。言えるわけなんてない。
だって、僕は今日学校を休んだし、全部が嫌にもなったし、勉強も、あと先生のことも正直大嫌いだ。運動も、50メートルを走っても意味がないと思える僕の心は、偉くないでしょ。
なんでみんな立派なんだ。
みんなは、どうしてあんなにできるの?
僕なんかは、玄関のドアの前で立ちすくんでしまうくらいに偉くないのにさ。
それなのに僕の同じクラスの人たちは、みんな塾行ったり、いい成績とって親喜ばせたりさ、大会で活躍なんかもしちゃったりなんだりして、超絶立派じゃん。偉いじゃん。
なんでなの?なんでできるんだよそんなに。
もっと頑張りなさいとか、やりなさいとか、もっと早く相談すればよかったのにとか、なんで続けられないのとか、そんなの、自分が一番疑問なんだよ。
なんであの時こうしなかった?
なんで今日学校を休んでしまった?
なんで今日逃げたんだ?
なんで努力しなかったんだ?
辛いのにどうして誰にも言えなかったの?
僕は僕が大嫌いで、一番大嫌いなのは僕だ。
立派じゃない、てことは偉くない。
偉くなろうとしてないってことは、立派じゃない。
本当はみんなみたいにどこかで輝きたいし、偉くなりたいし立派になってみたい。
なのにどうして頑張れないのだろう。
今日もまた、学校を休んだ。
明日はどうだろう。もう少しマシかな?いや、マシにするのも自分担当か。なら頑張んないとね。
もう少しだけ、偉くならないとね。