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ファン一号と底辺配信者

作者: つつのかみ

運命の人としか思えなかった。

顔も声も話し方や内容も全てが私のツボだった。


どんな芸能人やアイドルより、

多くても同接5人の彼のゲーム配信に魅かれた。


このレベルの男性配信者であれば簡単に出会ってくれると思いDMを送ってみた。

結果は、結婚を前提に付き合っている彼女がいるから会わないとのことだった。

言葉は悪いが底辺ゲーム配信者なんて暇で人との繋がりが欲しいから

配信している人ばかりだと思っていたから意外だった。

それと同時に私以外にも彼の魅力に気づいている女がいることに少し誇らしくなった。

今まで気づいていなかったが私は同担拒否ではないらしい。


そうは言っても私も簡単に諦めなかった。

なぜなら私はかわいいし彼と話も合うだろうし

会えば確実に好きになってもらえる自信があるからだ。

彼のSNSや配信上で言っていたことも絡めて

何度もDMを送ってみたが取り付く島もないといった感じだ。

涙が出るほど悲しい時もあったが安心している自分もいた。


そんなこんなで彼に半年ほどアプローチを続け、彼からこんなDMが返ってきた。

「会うことはやっぱりできないけど、こんな底辺配信者を好いてくれる人がいるなんて本当に嬉しいです!配信を始めたてよかったとあなたのおかげで思えてます。厄介な人とは思ってますが、あなたがいなかったら半年も続けられなかったと思います。」

拒否のメッセージ以外が返ってくるのは初めてだった。

嬉しさと同時に、私の欲求は彼の一番のファンになって配信活動を支えることだと定義づけられた。

「今まで厄介なファンですみませんでした。今後も末永く配信を続けてくれると嬉しいです」

素直にそう思った。配信を始めたての彼が、私のような厄介に絡まれても配信をやめなかったのは運がよかっただけだと猛省した。

「ありがとうございます!僕の配信にファンがつくなんて感動です。あなたは僕のファン一号ですね」

さっきまでの猛省はどこへやら、突如強烈な欲求が湧いてきた。

「もしあなたが人気配信者になったら、私をファン一号として紹介してもらえませんか?」

「いいですよ。半年続けて未だに同接5人の僕が人気になるのは難しいかもしれませんが(泣)」

彼とまともな会話ができている高揚感からか、変なスイッチが入った。

「私が人気配信者にしてみせます!人気配信者の定義ってどんなものでしょうか?同接1000人は人気配信者ですよね?同接1000人いったら配信で私の名前を出してファン一号として紹介してください!」

また厄介と思われただろうか。でも彼の一番のファンになりたい欲求は止められなかった。

「いいですよ!同接1000人なんて遠い夢ですけどね。」

私の目標が決まった瞬間だった。


しかし、一視聴者である私がどうやって彼の活動を支えようか。

まずは彼が伸びない原因を洗い出してみよう。

一番は、固定視聴者層もいないのに配信向けではないゲームをしていることだと思う。

彼のトーク力は本物で、見てさえもらえれば一定数ファンになる人もいると思うが、いかんせん選ぶゲームが絶望的に悪い。

「Civilization」「stellaris」「Hearts of Iron」

伸びるか!このゲームチョイスで!

動画なら面白い部分を切り取れば勝算はあるが、配信でストラテジー系は難しいって。

めちゃくちゃ上手いとかならまだしも、ほぼ初見プレイという謎の配信をしている。

私は底辺配信者探しが趣味で、配信を開いた瞬間に顔と声が好みだったから視聴できたが、話の内容まで聞こうとはまずならない。


とはいえ、ゲームチョイスに対して文句を言うのは厄介すぎるので、まずは彼の今までの配信で面白かったシーンを切り抜いて動画にしてみよう。

ゲームをやってる以外の雑談は面白い部分もあるし、何とかなるかもしれない。


一か月毎日切り抜きを上げてみたが全く伸びない。

そして面白い部分も枯渇してきて新たな切り抜きも作れなくなってきた。

詰んだ。

そう思っていたとき、彼からDMが届いた。

「すごい数の切り抜き動画作ってくれてありがとうございます。全然伸びてなくて申し訳ないです・・・」

勝算は低いと思っていたので私は平気だが、もしかしたら彼を傷つけてしまったかなと少し申し訳ない気持ちになった。

「今まではただ楽しければいいと思ってましたが、あなたからファンといわれて、僕も配信者として成功したいと思い始めました。あなたから見て何か変えた方がよいことってありますかね?」

悶絶するほど嬉しかった。私と彼が同じ方向を向いていて、しかも私を頼ってくれている。

人生で感じたことのない高揚感が私を包む。

「まずゲームチョイスは変えた方が良いと思います。ストラテジーではなく、リアクションが取りやすい流行りのゲームをやるとか、もし上手い対人ゲームがあるならそれを極めてみるとか。あとは話が抜群に上手いので雑談やラジオ配信したら今より伸びると思います」

「一番のファンのあなたがいうなら変えた方がよさそうですね。明日から期待しといてください!」

それから彼のゲームチョイスは格段に変わった。流行りのホラーゲーム、リアクションが取りやすい横スクロールアクション、耐久系のゲームなど、多くの配信者がやっているゲームを選ぶようになった。

中でも一番人気なのは雑談配信だ。今までのゲーム配信が嘘のように切り抜きに使える部分が多い。

実際、同接も20人程度まで伸びてきている。

それでも人気に火が付いたという感じではなく、同接1000人には程遠い。


何か打開策はないかと考えながらボーっと彼の配信を見ているとき、私に一筋の光が差し込んだ。

最近他の視聴者がよくコメントしている「声キム〇クに似てますね」だ。

しかもネタではなく、本気で似ていると思っている人が多い印象だ。

私からしたらキム〇クなんかより彼の声の方が素敵だが、確かに声の系統は似ている。

これを前面に押し出した切り抜き動画を量産してみよう。

「ほぼキム〇クな配信者が語る死生観」

「ジェネリックキム〇クの幸福度とお金の相関関係」

「キム〇ク激似配信者が本家キムタクが絶対に言わないことを言った瞬間5選」

彼の声が本当にキム〇クに似ているらしく、思ったより伸びた。

中でも「キム〇クがTVのドッキリ企画で配信をやっている体で配信をする一般異常男性」は伸びた。

SNSでバズりなんと10万再生もされた。

最近キム〇クはドッキリの番組に出ることが多いようで、

彼の断定しない話し方が何かを隠しながら配信しているように感じるらしく、

TVの企画で配信をしているキムタクにしか見えないようだ。

キムタクを隠すような発言に聞こえる部分を切り抜いて動画にしたところバズった。


一度バズってしまえばとんとん拍子だった。彼の実力は本物で、このバズをきっかけに大きく視聴者を伸ばした。目標であった同接1000人も通過点だった。

私はわずかな満足感と彼が遠くに行ってしまった喪失感を味わっていた。

それでも切り抜き動画は毎日投稿して彼の最大手切り抜きチャンネルになった。

もうキム〇クの名前は借りずともかなりの再生数が回る。

切り抜きチャンネルだけで十分稼げるようになったので仕事もやめた。

いつしか目標もなく、惰性で切り抜き動画を作る日々になった。


ある日、彼の配信で切り抜きチャンネルの話題が上がり彼は私の名前を出した。

「実は最大手切り抜きチャンネルの運営の方は僕のファン一号の〇〇さんという方です。皆さんご存じの通り、僕が今配信を続けられ、多くの視聴者に見てもらえてるのは彼女の力がかなり大きいです。」

私の目標が達成された瞬間だった。

彼は私との約束を覚えていてくれた。

ガチ恋が離れるリスクを負ってまで私の名前を出してくれた。

彼の視聴者からも絶賛され確実に彼の配信に貢献できた。

私はこれで彼に使った2年間が報われたことにした。

実際に金銭的にも感情的にも報われているはずだ。

不満は全くないが満足感や高揚感は得られなかった。

ただ彼の輝きだけは常に新鮮で私を魅了し続けた。

一番近くても遠い

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