表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

エピローグ


    ***



 それから――。


 以前にいた騎士団支部は徹底的に調べられ、杜撰(ずさん)な状況が明らかになった。

 見張りの交代時間や警備、その他いろいろな面での不備が分かり、彼らは厳重処分となった。


 ミナの給金も無事に戻り、補填として金貨一枚が上乗せされた。


 ソフィアは今までついていた嘘が明らかになり、結婚も破談となった。ミナにしていた仕打ちが明るみに出た事で、ずいぶん顰蹙(ひんしゅく)を買ったようだ。

 騎士団の仕事もクビになり、周囲から噂される毎日。お姫様扱いだったソフィアには耐えられない屈辱だろう。実際、かなり荒れているらしい。


 ちなみに、あれだけ男達に囲まれていた割に、他に立候補者は現れなかったようだ。

 泣き落としも通用せず、ぶりっこも効かない。かといって、他に働く場所はない。ソフィアにとっては辛い日々だろう。


 騎士団の面々も、ミナに関しての悪質な噂を流していた事が理由で、全員減給処分となった。ろくな調査もせず、脅すような真似をしたのも効いたらしい。

 謝罪がしたいという申し入れは、迷ったが断わった。

 今さら会いたくはないし、何を言われても複雑だ。


 団長からといって長い長い手紙を預かったものの、未だに暖炉の横に置いてある。そのうち火にくべてしまいそうで心配だ。ちなみに、彼は相当反省したらしく、見るのも気の毒なほどしょぼくれていたそうだ。


 ハンスは相当怖かったのか、あれから姿を見せる事もない。


 ミナの毎日は変わらず、彼らと楽しく過ごしている。

 いや、ひとつ変わった事がある。

 それは――。






「そうです、そのままそっとぶつけて、両手でパカッと割ってください」

「……こうか」


 グシャッと卵の殻がつぶれる。

 あああ……と思いつつ、ミナは素早く皿で受けた。


「大丈夫、ケーキにしましょう。卵はたっぷりあってもいいですから」

「……すまない」


 しょんぼりとしたアーサーが、なぜ潰れたのか分からないという顔をしている。力が強すぎるのが原因だが、不器用なせいもある気がする。


「相変わらずへったくそですね、団長」

「センスがないにもほどがあります、団長」

「もうあきらめた方がいいんじゃないですか、団長」

「ていうかエプロン似合わないっすね、団長」

「……黙れお前ら」


 じろり、とアーサーがひとにらみする。彼らがひゅっと口をつぐんだ。


(もう……)


 笑いを噛み殺しつつ、ミナが卵の殻を取り除く。

 料理を覚えたい、とアーサーに頼まれたのをきっかけに、現在は料理教室を開催している。今のところ勝率は五割弱、初心者ばかりな事を考えると、かなり優秀だと言っていい。


 みんなで献立を決めて、オムレツやパイやケーキを作る。

 意外と器用な団員が多く、みんな楽しそうに調理している。

 そんな中、意外にも最下位の成績を誇るのがアーサーだった。


 目玉焼きが作れない。

 卵を割る手つきから怪しく、おっかなびっくり握りつぶす。かと思えば、慎重にしすぎて殻が割れない。その都度卵の中身は回収し、別の料理にアレンジしているが、未だにさしたる成長はない。


「なんででしょうね。料理だけ壊滅的って」

 首をかしげるミナに、彼らが微妙な顔になる。


「剣の腕はピカ一なんだけどね、うちの団長」

「料理の腕はどっかに落としてきたみたいなんだよね」

「落とすも何も、最初からないだろ」

「いやー、あれは料理が苦手っていうより、隣の人を意識して……」


 グシャッ。


 次の卵も握りつぶされ、ミナが慌てて皿で受けた。


「ダメですよ、そんなに力を入れたら」

「……すまない」

「こうやって、コンコンってやさしく叩いて……ほらね?」


 彼の手を取って実演してみせると、アーサーはなぜだか固まっていた。


「あーあ、無自覚な魔性発動」

「まるで意識してないところが切ない」

「家事仕込んでる時のミナはスイッチ切り替わってるからな……。まったく気づいてないぞ、絶対」


 団員が好き勝手な事を言っている。だが、ミナの意識は卵の殻に釘づけだ。これだけ卵があるのだから、今日はケーキに加え、スフレオムレツも作ってみようか。


(バターはあったわよね……。あとはお塩と、コショウと……そうだ、新しいソースも試してみよう)


 生クリームをたっぷり使ったソースは受けがよかった。それとは逆に、ピリ辛でさっぱりした味も人気がある。トマトベースも悪くないし、いっその事、甘くしてデザート風味もありかもしれない。

 何にしようとワクワクしているミナの顔を、アーサーがじっと見つめている。


「? なんですか?」

「いや、なんでもない」


 首を振り、アーサーが視線を和らげる。

 今日の昼食は、思ったより豪華になりそうだった。


お読みいただきありがとうございます。スフレオムレツはみんなに大好評でした。


*いいね・ブクマ・評価など、どうもありがとうございます。またどこかでお会いできたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ