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第6話.王太子アルフォンス・グレインガード(後編)

 本編開始時には芯のある青年となっているアルフォンスだが、ルクレシアの二つ上で、まだ十四歳。中性的な顔立ちには儚さも含まれている。

 ファンブックの特典にも、少年時代のイラストというのはなかった。

 

 つまり、これは――。

 

(わたくしへのご褒美!!!!!!!!!)

 

 ある意味不遜ともいえる叫びが脳裏をよぎって、ルクレシアは顔を伏せた。

 顔見せであるから、一度は視線を交わしてよいが、長く王太子の顔を見つめ続けるのは無礼とされる。また、ルクレシアから話しかけることも許されていない。

 

「……アルフォンスだ」

 

 不本意なのがわかる不機嫌そうな声で、それだけ告げられた。

 声変わりは終わったはずだがまだ少しだけ少年らしさの残る声。おまけに不機嫌。

 

 王子様らしい王子様であったアルフォンスは、主人公である聖女シュゼットに不快感をあらわにすることなどなかった。

 つまりあれはルクレシアにしか見せない顔、これはルクレシアにしか聞かせない声。

 やはりご褒美である――はずなのだが。

 

「お初にお目にかかります、ルクレシア・クロスビーと申します。お目通りが叶いましたこと、光栄の至りでございます」

 

 腹に力を込め、平静を装う。視線は伏せたまま、ルクレシアはスカートをつまんで膝を折り、最敬礼を表した。

 アルフォンスが眉を寄せる。

 

 金に飽かせてゴルディが最上級の家庭教師をつけてくれていたおかげで、ルクレシアのマナーは貴族としてまったく問題のないものだ。

 

 アルフォンスにとってルクレシアは、金の力で王妃の座を奪いにきた下賤の娘。明らかに平民とわかるふるまいをされれば婚約解消の理由にもなろうが、ルクレシアにその隙はない。挨拶を返したあとも口をつぐみ、ひたすらに従順な令嬢を装っている。

 

「お前を、婚約者とは認めない」

 

 冷たい拒絶の声が降った。

 

(はい、ご褒美いただきました――ッ!! ご褒美……ん……あれ?)

 

 胸の奥になんだかもやもやとしたものが湧いて、ルクレシアは思わず顔をあげた。

 

「……ッ」

 

 ぱちりと目があった瞬間、アルフォンスは怯えたように息を呑んだ。

 すぐにその表情は消えたものの、悔しげに顔を歪ませると、無言で扉へ向かう。退室の意を汲みとり、ルクレシアは頭をさげた。

 ちなみにクロスビー伯爵夫妻はアルフォンス入室時からずっと頭をさげ続けている。首や腰が痛いだろう。貴族社会のしきたりとはなかなか厄介なものだと思う。

 

 足音が遠ざかり、「王太子殿下、ご退室ッ!!」という衛兵の声が聞こえる。

 扉が閉まるまで伏せていた顔をあげ、ルクレシアは額に手を当ててため息をついた。

 

 アルフォンスの態度は予想どおり。ルクレシアは当て馬なのだ、こんなものだろう。

 

(ただ、問題が一つ――)

 

 そもそもルクレシアが王太子アルフォンスの婚約者という立場を手に入れたのは、現在の王家が困窮寸前であるからだ。

 聖女シュゼットが現れるのを待つまでもなく、王家に金があれば突っぱねることができた要求だった。逆にいえば、一度頼っておきながらオルピュール家と対立してしまっては、国が傾く可能性もあるのだ。

 

 アルフォンスにとって、ルクレシアはスポンサーの愛孫。本来、絶対に気分を害してはいけない相手、心を尽くして接待すべき相手だ。

 そのルクレシアに対するアルフォンスの発言は、彼が王家の置かれた立場を理解していないことを露呈している。

 

 前世の自分は、アルフォンスが最推しだったらしい。

 高潔な精神を持つ彼は、聖女シュゼットを慈しみ、ルクレシアを嫌った。それは当然だ。

 

 しかし『鳴かぬなら 金塊で殴れ ホトトギス』を家訓にする家で育った〝ルクレシア〟は――人に物を命じるときは金貨を投げろと教わったルクレシアは。

 

 

 金がないのに偉そうな態度をとる男が大嫌いであった。

 

 

 相反する二つの感情がせめぎあい、なんともいえない気持ちになる。

 

(――それに、思いだしたのはもう一つ)

 

 いや、二つだろうか。

 

 ほとんどわからなくなっていた、前世の自分の記憶。今でも外見やどんな生活を送っていたのかは思いだせない。でも一つだけ、よみがえったのは。

 

『お金と、家族が欲しい……ッ』

 

 泣きじゃくりながらそんなことを願う、幼い声だった。

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