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第5話.王太子アルフォンス・グレインガード(前編)

 裏社会の顔役である祖父ゴルディに、「王妃になりとうございます♡」とかわいくおねだりしてから、数か月。

 

 ルクレシア・オルピュールと、ハイラム国王太子アルフォンス・グレインガードの婚約は、つつがなく結ばれた。

 

(……いや、つつがなく結ばれたらだめじゃない!?)

 

 穏やかなほほえみを顔に貼りつけながら、ルクレシアは内心で盛大に叫んでいた。

 

 現在ルクレシアがいるのは、王都の中心にあるレオン城の孔雀の間。王族に関わるごく一部の儀式に使われる広間である。

 

 そこで、クロスビー伯爵および伯爵夫人と並び、王太子アルフォンスの謁見を待っている。

 赤毛のクロスビー伯爵と茶毛の夫人という落ち着いた色彩の夫妻のあいだで、紫の髪をしたルクレシアはものすごく浮いているだろう。

 

(おじい様、本当に王家をしのぐ権力を持ってたのねえ……)

 

 出てしまいそうになるため息を押し殺し、ルクレシアは思い返した。

 

 王妃になりたい、と願ったルクレシアに、ゴルディ翁は泣いてよろこんだ。目標が難題であればあるほど嬉しくなってしまう性質タチらしい。

 

 それからすぐ、近ごろは大人しく暮らしていたせいで余りまくっていた資金を注ぎ込み、貴族への賄賂攻勢をかけ始めた。

 オルピュール家の広間に純金製の象だの孔雀だのが運び込まれたと思ったらすぐに運びだされていった。協力を約束した貴族に贈られたのだろう。

 道端で後頭部をどつかれ、驚いて振り向いたら金の延べ棒が落ちていた、という賄賂とも脅しともいえない事件もあったそうだ。

 

 金で言うことを聞かない貴族は罠に嵌められた。

 ゴルディは一見オルピュール家とは関係のない新事業を設立し、腹心の部下を頭取に据えた。部下は各地での商談を通して土地を買いあげ、または役人や土地管理人を賭博に誘い込んで土地を賭けさせた。

 貴族は領地の広大な土地を元手に、領地からの収益や不動産業で生計を立てている。土地こそが貴族の生命線と言ってよい。

 その土地が、知らぬ間にオルピュール家のものとなる。

 

 だからどうというわけではない。税を収めるのがオルピュール家になるだけである。

 王都にいる領主が気づいたときには、生命線を握られていた――ただそれだけ。だが、その圧力を無視できるだけの肝の据わった領主は、なかなかいない。

 

(三十年前もこうやって叩きあげたのね……)

 

 倫理的には一発アウトだが、証文を交わしている以上、この世界の法に照らして罪にはならない。

 

 そのように掌握した貴族たちから、ルクレシアを王太子殿下の妃に、という声をあげさせた。

 王家は突っぱねたかっただろうが、ゴルディはオルピュール家の財産の半分を持参金として持たせると言ったらしい。どうせオルピュール家がなくなれば王家に財産を渡す気でいるのだからゴルディは飄々としたものだ。

 

 だが王家のほうは青天の霹靂だった。なにせオルピュール家の財産の半分があれば、十年は財政に困らない。

 側近内でも議論が紛糾したすえ、国庫のためにやむを得ない……といった論調が優勢となり、王太子殿下が売られることになった。可哀想に、と他人事のようにルクレシアは思う。

 

 もちろん一介の商家の娘を王太子妃にできるわけがないから、ルクレシアは伯爵家の養女となった。現在の書類上の親が、両脇に立つクロスビー伯爵夫妻である。

 伯爵も夫人も沈痛な面持ちをしているのは、彼らがごく善良で、不本意ながらやむにやまれぬ理由でルクレシアを養女としたからだ。

 

 こうしたオルピュール家の動きに、正義感の強い貴族たちは猛反発し、ゴルディ暗殺の計画を練っているとかいう物騒な噂も聞こえてくる。

 

(たしかにおじい様を()()のが一番てっとり早いのよね)

 

 これまでも、ルクレシアの知らないところで暗殺未遂事件は多々起きているのだろう。

 万が一ゴルディ暗殺などということになれば、次に狙われるのはルクレシアだ。

 

 ルクレシアの両親はいない。伯爵家に籍を得たとはいえ、オルピュール家の実質的な跡取りはルクレシアである。


(そう思うとやっぱり、国外追放がちょうどいいわね)

 

 財産没収に外国の領地は含まれない。これまでオルピュール家がいた位置へ聖女シュゼットを置き、ホーデンブルクかキングラントで一貴族としてのんびり引退生活を送る。それが最良の未来だ。

 

(おじい様がそれまで元気で殺されませんように)

 

 ぼんやりと薄情なことを考えていたら、衛兵がカツンと踵を打ち鳴らした。

 

「王太子殿下、ご到着ッ!!」

 

 クロスビー伯爵夫妻とともに、ルクレシアは頭をさげる。

 

 高くなった壇上を足音が近づいてきた。ルクレシアの正面で足音がやむのと同時に、凛とした声が届く。

 

「面をあげよ」

 

 一度さらに深く頭をさげ、従順を示してから、ルクレシアは顔をあげた。

 壇上には、形のよい眉を寄せ、険しい顔でルクレシアをひたと見据える少年。金色の髪に青い瞳を持つ彼は、まさに絵に描いたような王子様で、そしてまた成長した姿を前世の記憶として知るルクレシアには、とても見覚えのある人物だった。

 

(アルフォンス様だわ)

 

 目の前を『シュゼ永遠』スチルが走馬灯のように駆け抜けてゆく。そのまま魂を飛ばしそうになって、ルクレシアは足に力を込めた。

 

 ハイラム国第一王子にして王太子、アルフォンス・グレインガード。

 王道ドストレートな見た目の彼はパッケージのセンターに位置し、当然ファンからの人気も高く、グッズは飛ぶように売れていた。

 

 これまで、前世の記憶は知識部分だけだった。

 けれどもたったいま、感情の一部が戻ってきた。

 

(わ、わたくしの最推し……!!!!)

 

 記憶のアルフォンス像と目の前のアルフォンスを重ねながら、ルクレシアは内心で悶えた。

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