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第35話.みんな、おおおつちいて(前編)

(一度状況を整理しましょう)

 

 ゲームどおりのシナリオ進行であれば、アルフォンスルートはざっくりと、


① 六年前、メイフェア地区の火事でシュゼットの魔力が覚醒する。

② シュゼットは教会に引き取られ、聖女として活躍する――ここまでが本編開始前。

③ そしてゲーム本編が始まり、聖女の噂を聞いたアルフォンスとシュゼットが出会う。

 

 ここまでは、すでに終わっている。改変してしまったルクレシアがどうにかもとに戻そうとしていた部分だ。

 そして今後の流れとしては、

 

④ アルフォンスの婚約者であったルクレシアを、聖女暗殺未遂で断罪する。

⑤ オルピュール家の財産を手に入れたアルフォンスとシュゼットは政治改革を進める過程で、ザカリーの裏切りに気づく。

 

 ――と、なるはずだった。

 

 本来、ザカリーの裏切りはアルフォンスの暗殺ではない。教会と手を組んで強大な古代魔法を復活させ、魔導師団を巻き込んだクーデターを起こすことだ。

 シュゼットとアルフォンスは愛の力でこれを撃退し、エンディングを迎える。

 

 そこまで考えが至り、ルクレシアは「あ」と声をあげた。

 

(クーデターではなく、暗殺に計画が切り替わったのは、魔導師団の協力が得られなかったから?)

 

 魔導師団を味方につければ、騎士団に迫る戦力が手に入る。だからクーデターが起こせたのだ。

 だが、ゲームのアウグストがザカリーを通じて魔導師団へ接触できたのは、聖女シュゼットがいたから。

 

 そのシュゼットをオルピュール家が確保し、筆頭魔導師であるウィルフォードとも先にルクレシアが接触してしまった。

 

 つまり――、

 

(アルフォンス様暗殺計画は、わたくしのせいじゃないのよおおおお!!)

 

 組織の規模が小さくなったことで、先鋭化して過激になってしまうのは謀略あるあるだ。裏社会のドンの孫としては警戒しておくべき可能性だった。

 ここが自室だったら頭を抱えてベッドでのたうちまわりたいところである。

 

「ルクレシア」

 

 おまけに、問題はもう一つ。

 宰相の裏切りと死の恐怖という特大のストレスで正常な判断ができなくなったのか、アルフォンスはこともあろうに――、

 

「ルクレシア、ぼくの愛しのお姫様?」

 

 耳元で囁かれた声に、ルクレシアは椅子から飛びあがって転げ落ちた。

 

「現実逃避は終わった?」

「ア、アルフォンス様……」

「ここまで意識されると嬉しいような、これまでが情けないような」

 

 あいかわらずアルフォンスはよくわからないことを言っている。

 落ち着いているように見えて内心アルフォンスは混乱の極みなのであろう。

 

 だから一番現状を把握できているルクレシアが引っ張ってやらなければ――、

 

「みみみんな、おおおつちいて」

「慌てふためいているのはお姉様ですね」

 

 すっくと立ちあがり一同を睥睨したルクレシアに、シュゼットが冷静なツッコミを入れる。

 

 ちなみに先ほどの告白の瞬間にシュゼットが静かだったのは、ルクレシアが図書室にいたあいだにチェスで負けて「告白の邪魔をしない」という約束をさせられていたからだそうだ。

 

(アルフォンス様の気持ちを知っていたの!?)と聞きたいところだが聞けばドツボに嵌まってしまう気がするので聞けない。

 

「アルフォンス様を暗殺させるわけにはいきません。……そっ、そう、わたくしが王妃になって贅沢に暮らすためにはね! オーホッホッホ!」

 

 思わず深刻な顔で言ってから、はっと気づいて悪役ムーブをかましてみたがだめかもしれない、とルクレシアは思う。

 初対面ではあんなに嫌そうな顔をしていたアルフォンスは、椅子にお行儀よく座ってにこにことルクレシアを見つめている。視線があうと、鼓動がどきりと跳ねた。

 

「……」

 

 こういうときに、前世の記憶は困る。

 もうゲームシナリオを逸脱してしまった未来を知る手掛かりにはならないというのに、アルフォンスが推しであったことを思いださせる。

 

 正直、顔は好きだ。

 

 ルクレシアは視線を逸らした。鼓動が落ち着く。

 

「アルフォンス様のお命を守るためにはどうすればよいか、考えました。で、結論としては」

 

 アルフォンスとシュゼットが見つめる中、ルクレシアはきっぱりと言った。

 

「王宮にレイを置いていきます」

 

 途端に、アルフォンスはムッと唇を尖らせ、シュゼットは大きなため息をつく。

 

(なに?)

 

「……あのね、ルクレシア」

 

 近づいたアルフォンスが、ルクレシアの顔を上目遣いに覗き込む。

 これまでになかった低い声で名を呼ばれ、ルクレシアの胸がまたどきりと音を立てる。

 

「な、なんでしょうか?」

「それじゃあ君の護衛がいなくなるだろう。ダメだよ」

 

 それについては考えている。ザカリーに釘を刺されたアウグストはもう刺客を送り込んではこない。

 いま最も危険度が高いのはアルフォンス。危険度の高い者には優秀な護衛を優先してつけるべきだ。

 

「護衛に関してはレイの実力が一番信頼できるからです」

 

 なぜだろう、アルフォンスの表情がすうっと消えた。

 

「わたくしの護衛はシュゼットとネインに頼みます」

 

 なぜかアルフォンスの周囲の温度が下がった気がする。

 

「お姉様は本当に無自覚に振りまわすわよね……」

 

 もう一つ、シュゼットのため息が部屋に落ちた。

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