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第34話.図書室にて(後編)

「!!」

 

 レイに口をふさがれる前に、今度はルクレシアが自分の手で口を塞いだ。

 うっかり声をあげてしまうなんてありえない。絶対に自分たちの存在を悟られてはいけない。

 

(アルフォンス様の暗殺計画……?)

 

 こんなことを聞いてしまった以上、見つかればタダで帰してもらえるわけがないのだ。ゴルディだったら確実に最優先で()()する。

 

 案の定、チッと舌打ちの音が聞こえた。

 

「お前のその口の軽さはなんとかならないのか」

「誰もないだろう? ……誰もいないよな?」

 

 苛立つザカリーにアウグストも不安になったようで、あたりを見まわす気配がする。ルクレシアの心臓が騒ぎだす。

 

「もういい、行くぞ」

 

 ザカリーのひと言とともに、止まっていた足音が動きだした。

 二人の靴音と話し声が第七書庫へと消えていく。

 

(ザカリーは第七書庫へ入る護符を持っている……?)

 

 そのうえ、アウグストを伴い、書庫へ入っていった。

 

 そろりと隠れていた書庫から顔を出し、あたりを見まわす。第七書庫へ続く道の結界はまだ途切れていて、入ろうと思えば入れそうに見えるが。

 

「わたくしたちが入るわけには……」

「……出てこられなくなるでしょうね」

「そうよね……」

 

 結界に内外の区別はあるが、それはあくまで認められた者だけ――たとえば結界を張った本人だったり、ザカリーのように護符を持っている者に対してだけだ。

 書庫からの持ち出しを禁止する意味でも、出るときにも何かしらの制限がかかっていると考えたほうがいい。

 

 首を振り、ルクレシアは第七書庫を頭から振り払った。

 それよりもずっと重大な企みを、ルクレシアは聞いてしまった。

 

 

***

 

 

「なるほど、ザカリーがぼくの暗殺を企んでいると」

「もう少し慌てたらどうかしら!?」

 

 ルクレシアから話を聞いたアルフォンスは、あっさりと頷いた。あまりにも動揺のないアルフォンスにルクレシアのほうが動揺してしまうほどに。

 

 図書室から戻ったルクレシアは、悩んだすえにアルフォンスへ事態を打ち明けた。

 

 アルフォンスが亡き者になった場合、同時にルクレシアは王太子の婚約者という座を失い、ただの伯爵令嬢に転落する。王宮へ足を踏み入れることもなくなり、脅威は半減する。アウグストにとっても満足な結果だ。

 つまり、あのあと第七書庫でアウグストがザカリーに思いとどまるように言った可能性は、限りなく低い。

 

「慌てても仕方がないだろう。それよりも君がそんなに取り乱すのはめずらしいね、ルクレシア」

 

 事の重大さをわかっていないとしか思えない落ち着きぶりを見せながら、アルフォンスはルクレシアに歩みよった。のばされた手が、ルクレシアの紫の髪をさらりと撫で、すくいあげる。

 

「もしかして、ぼくのことを心配してくれているの?」

「あ、当たり前でしょう……!?」

  

 引きよせた毛先に口づけられて、ルクレシアは思わず怒鳴ってしまった。

 

 もともとザカリーはラスボスとして国家の乗っ取りを狙っている。

 だがゲームのザカリーは宰相の立場を利用して、王太子であるアルフォンスを洗脳し、自分の支配下に収めることで国を乗っ取るつもりだった。

 暗殺などという過激な手段を選んだのは、ルクレシアによるシナリオ改変の影響である可能性が高い。

 事態はルクレシアのゲーム知識外なのだ。

 

 自分やゴルディにふりかかる暗殺については一切の脅威を感じていなかったルクレシアだが、王宮内で、相手がアルフォンスだと思えば話は違う。

 命が危ないというのに、なにをキラキラ王子様しているのか。

 

 そんなルクレシアの憤りをわかっているのかいないのか、

 

「そう。ぼくは君の目的のための駒ってだけじゃないんだね」

 

 にっこりと笑われて、ルクレシアはそれ以上なにも言えなくなる。

 

「ねえルクレシア。ぼくは君のおかげで強くなったと思うよ。人の言葉ではなく行動を見る癖がついた」

「……アルフォンス様……」

「都合のいいことを言いながら何もしない者もいる。口では意地の悪いことを言いながら、他人を守るために行動している者も」

 

(何を語り始めたのこの王子様は)

 

 思いっきり怪訝な顔をしてしまったルクレシアに、アルフォンスはくすりと笑い声を立て、

 

「ぼくは君が好きってことだよ」

 

「――は?????」

 

 思いがけない告白に、淑女らしからぬ野太い声が出てしまったが、気にする余裕はなかった。

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