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第31話.今日の王宮(中編)

 シュゼットはなぜか肩で息をし、額にはうっすらと汗をかいている。

「チッ……」と舌打ちが聞こえた気がして振り向くと、アルフォンスが困ったような顔で笑っていた。小首をかしげれば、金の髪がさらりと揺れて光を反射する。

 

「すまなかったね。ぼくの侍従が、案内を誤ったようで」

 

(気のせいかしら)

 

 完璧な王子であるアルフォンスが舌打ちなどという行為をするわけがない。

 ルクレシアは考えを振り払うと立ちあがり、突進してきたシュゼットに向きあった。

 

「お姉様! 大丈夫ですか! 変なことされてませんか!?」

「なにを言っているの、シュゼット。それにこんなに遅れて。アルフォンス様に無礼ではないの」

「少し目を離した隙に案内役の侍従が消えたので、迷いまして。しかし愛の感知魔法によりお姉様の居場所はわかりますので、走ってまいりました。どうやら侍従さんはこの部屋と真逆の塔に案内してくださっていたようですけれど、勘違いか、さては誰かの差し金か……」

「何を言っているの? というかわたくし、腕輪はしていないけれど?」

「あっ、感知魔法じゃなくて、勘です! 完全なる勘! 腕輪なんかなくても感知できるけど腕輪って言っておけば警戒されないとかそういうわけではないですよ?」

「……」

「あうっ!」

 

 無言で手刀チョップを振りおろすルクレシアにシュゼットは小さな悲鳴をあげる。

 このくらいでは『悪役令嬢にイビられている聖女』の演出には足りないと思い、両頬もつまんでねじっておいた。

 

「お、おねえひゃま……」

 

 シュゼットは頬を真っ赤に染めて目を潤ませ、ルクレシアを見上げる。

 

(か、かわいい~~~~)

 

 その健気で可憐な表情は庇護欲を掻き立てるだろう。さすがは主人公。意味不明なことばかり言っていても、見た目はいい感じだ。思わず撫でくりまわしてやりたくなる。

 内心で拍手を送るルクレシアの肩越しに、シュゼットはアルフォンスへと笑顔を投げかけた。

 

「失礼しました、アルフォンス様。ところでわたしの席はどこですか? 椅子が二つしかないように見えるのですが」

「ああ、色々と手違いがあったようだ。いま持ってこさせよう」

 

 ルクレシアを挟んで、背後に座るアルフォンスと正面に立つシュゼットがやりとりを交わす。アルフォンスの声はいつもよりやさしく聞こえるし、シュゼットもよそいきの可愛らしい声だ。

 見つめあうふたりの眼差しには、なにやら熱い感情。

 

 ルクレシアにはぴんときた。シュゼットを迷子にした侍従は、本当はルクレシアを迷子にするように伝えられていたのだろう。アルフォンスはシュゼットと二人きりになりたかったのだ。しかしルクレシアが来てしまったから、演技をした。

 そうとなれば、話は早い。

 

「シュゼット、ここに座って、アルフォンス様のお相手を」

「そんな、ルクレシアは」

「えっ! お姉様は」

 

 二人の声が重なった。

 

(いえいえ、アルフォンス様。わたくしのことはお気になさらず)

 

 そんな内心の台詞を口には出さず、ルクレシアはつんと顎を反らした。

 

「わたくしは、別の部屋で休ませていただきます。レイがわかりますから案内は結構。そのジャムは包んでくださると嬉しいですわ」

 

 止める言葉が紡がれる前に、ルクレシアはさっさと応接間をあとにした。アルフォンスの表情が曇ったことには気づかずに。

 

 婚約者であり、しかも王太子であるアルフォンスを放置することは無礼にあたる。だがルクレシアに憤慨するアルフォンスを、シュゼットが慰めるはずだ。

 加えて、先ほどのシュゼットへの意地悪で、アルフォンスの気持ちはさらにシュゼットへ傾いたはず。

 

(わたくしは当て馬の悪役令嬢だものねっ)

 

 ルクレシアになついてしまったシュゼットも、アルフォンスの真摯な気持ちを知れば彼を選ぶはず。だってそれがメインルートなのだから。

 

 自分の予想のすべてが「予想はず」にすぎないと気づかぬまま、レイを連れ、ルクレシアは意気揚々と廊下を歩いて行った。

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