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第3話.〝成金〟オルピュール家(前編)

 ゴルディへの面通し後、魂を飛ばしかけて退出してきた新入りたちに、レイは苦笑いを浮かべた。

 ルクレシアも肩をすくめて苦笑する。

 

「まあ上出来じゃないかしら。過去には気絶したのや失禁したのもいたからね」

「まさか、オルピュール閣下のお孫様でしたとは……」

 

 屋敷へ連れてこられるまでに、バイロも薄々勘づいていた。

 王都郊外といいながら、オルピュール屋敷へと続くコリエ通りには、宝飾品やドレス、香辛料から珍味まで、様々な大店が競うように軒を連ねていた。

 都市の様相を呈し始めた屋敷周辺は、おそらく王宮周辺の大通りよりも栄えている。

 

 そうした光景が示すのは、王宮に住む王家の面々や、王都の貴族たちよりもなお、オルピュール家の財力がまさっているということ。

 

 この国で王家以上の権勢を誇る家は一つしかない。

 

〝成金〟オルピュール家だ。

 

 オルピュール家は表向き商家であり、当主ゴルディは複数の商会の長ということになっているが、実態は王都の裏社会に君臨する顔役。

 前世で言えば、マフィアの親分ドンや、香具師の元締めといったところだろうか、とルクレシアは思った。

 

 三十年前に起きた隣国との戦の混乱に乗じて阿漕あこぎな方法で金をかき集め、今では王家顔負けの資産を誇る。

 これだけの規模になると王都の治安維持にも貢献しているし、バイロたちのような王都外からやってくるならず者への抑止力になるので、おいそれとは排除できない。

 

 もとから王都で暮らしていた者であれば、ルクレシアに手を出そうとは考えなかったはずだ。

 そしてまた、兵士崩れという微妙によい立場にいたからこそ、オルピュール家のことは噂話程度にしか聞いたことがなかった。

 

 いわく、オルピュール家を取り潰そうとした宰相が罠に嵌められ、逆に爵位と領地を失ったとか。

 ゴルディ翁の命を狙った刺客が翌朝、首謀者の名前を添えてコリエ通りに吊るされていたとか。

 一方で、圧政に苦しんでいた村を法外な大金で領主から買いあげ、村民を救ったという話もある。ちなみにその直後、領主は賭博に入れあげ、せっかく手に入れた大金を失ったらしい。

 

 地方から出てきた者にとっては都市伝説に近いオルピュール家。知らずにその愛孫を誘拐しようとしてしまったのは不運としか言いようがない。

 

 肩を落とすバイロにルクレシアはくすりと笑って、その肩を励ますように叩いてやった。

 

「わが家に仕えていれば王都で侮られることはないわ。給金はきちんと出るし、教育だって受けられる。明日のこともわからずに美少女を誘拐するよりはずっとマシなはずよ」

 

 先ほどのやりとりからもわかるとおり、ゴルディは敵には厳しいが、身内にはやさしい。身内とさえ認められれば恩恵を受けられる。身内とさえ認められれば。

 

「バイロ」

 

 小さな背でバイロの顔を覗き込み、ゴルディにしたように両手を組み、小首をかしげる。

 

「がんばってね♡」

「は、はい、お嬢様……!!!!」

 

 さんざんな目に遭ったとはいえ、ルクレシアは正真正銘の美少女である。しかも裏社会の顔役の孫娘で、バイロたちの雇い主にもなったのだ。

 そんな雲の上の人物からやさしい言葉をかけられて、ルクレシアの言うとおり明日をもわからぬ日々を送っていたバイロ一団は、胸をきゅんとさせながら忠誠を誓った。

 

(やっぱり〝ルクレシア〟は美少女なのよね)

 

 ゴルディだけでなく、オルピュール家の使用人も皆ルクレシアの愛らしさにメロメロだ。小首をかしげておねだりすれば、たいていのことは通る。

 

 唯一効かないのは、ルクレシアと同等の顔面の良さを誇るレイだけだ。

 

「彼らの教育、よろしくね、レイ♡」

「承知いたしました、お嬢様」

 

 上目遣いに甘え声を投げてみたものの、レイは真顔で頭をさげただけだった。

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