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第28話.もう一人の司祭(後編)

***

***


 不機嫌そうな顔を苛立ちにますます歪め、アウグストは夜の路地裏を歩いていた。

 

 ニコルデアは領土のほとんどを砂漠に覆われた国だ。わずかな水源を見つけては争いを繰り返していたおかげで、貴族性を布いているといってもほとんどは軍事貴族であり、領土からの収益というよりは他領・他国への略奪を糧にする。

 ニコルデア出身の者たちは気性が荒い。

 だからこそ、オルピュール家の孫娘だと聞いたところで、恐れもせずに頷いた。

 

 ひと月以内に依頼は完了すると暗殺者たちは自信たっぷりに請けあった。今日がその期限だ。

 昼日中にはあまり立ちよらないようにしている聖廟へ足を向けたのは、虫が騒いだのかもしれない。

 

(なぜ、あいつは生きている!?)

 

 ルクレシア・オルピュール。

 アウグストが死を願った相手。

 

 そのルクレシアが、隠し通路の上に座り込んでいるのを見たときには、心臓が冷たくなる思いだった。ルクレシアが教会を去ったあと、アウグストはベルナティオを怒鳴りつけた。

 不服そうな表情を浮かべていたベルナティオも、アウグストの剣幕にまずいと思ったようだ。

「聖廟の鍵を返せ」と言ったときも、素直に従った。

 

(金づるでさえなければ、もっと早く始末したものを……!)

 

 聖廟の地下にあるもの。ザカリーへの献金を行いながらそれを完成させるためには、ルクレシアのもたらす金が必要だった。完成した今、ルクレシアはもう必要ない。

 

 だから殺そうと思ったのに。

 

 ゆらりと眼前に現れた人影に、アウグストは足を止めた。街灯のない路地裏の、さらに月明かりも差さぬ物陰に、マントをかぶった男が立っている。輪郭すらおぼろげにしかわからない男が誰だか知れたのは、男が三つ目を持つドラゴンのコインを掲げたからだ。

 

「お前……失敗したな!? なんの用だ、この役立たずが……」

 

 思わずつかみかかろうとしたアウグストの手を難なく避け、男はさらに暗がりへと身を引いた。

 

「……我々の仲間も失われた」

 

 凍りつくように冷たい声が罅割れた道へ落ちて、アウグストは動きを止めた。

 

「そんなに強いのか?」

「読み誤ったな」

 

 答えになっていないような一言が答えだった。

 ざあっとアウグストが青ざめる。

 

 フードを目深にかぶった男の顔はわからない。それはこちらも同じはずだったのに、男は依頼の主がアウグストであることを突き止めた。

 裏社会というものは、想像以上に発達した情報網を持っている。

 

 教会とオルピュール家は交わらぬ組織のはずだった。ルクレシアが寄進を言いだし、教会に金が必要な理由がなければ。

 奇妙だとは思った。なぜオルピュール家が教会にすり寄ったのか、「王太子妃の座を狙うのだから、教会にも媚びを売っているのでしょう」というベルナティオの言葉をアウグストも信じてしまった。

 

 だが――、

 

「まさか……地下の()()を狙って?」

 

 こぼれた呟きにはっと口をつぐみ顔をあげると、男の気配はすでに消えていた。

 

 

***

***

 

 

 アウグストがそそくさと立ち去ったのとは別の路地裏、ひっそりと静まり返った夜の闇の中に、先ほどの男が現れた。

 あたりを見まわすとマントに手をかける。

 

 フードから現れたのは月の光を弾く銀髪。アウグストがひと目でも顔を見れば、ニコルデアの暗殺者などではないとわかっただろう。

 

 レイは、手の中からコインを取りだした。

 先ほどアウグストに掲げて見せた、三つ目のドラゴンが刻まれたコインだ。六年前ルクレシアを攫おうとしたバイロの腕にも同じ刺青があった。

 

「女神よ、感謝いたします」

 

 囁き、口づけを落とすと、コインは淡い光を放って溶けるように消えた。

 

(魔力でできたコインか……)

 

 コインの消失した空間を睨むように見据え、レイは独り言ちる。

 賊の一人がこのコインを持っていた。自分たちを表すためのものだろうと当たりをつけたのが正解だったようで、アウグストは彼が依頼者だと自白してくれたわけだが。

 

 ルクレシアが首を突っ込もうとしているのは、少々厄介な事件かもしれない。

思いがけず教会ターンが長引いてしまった…次回からはまたオルピュール家のわちゃわちゃに戻ります!

アルフォンス君の近況もあるよ!

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