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第18話.聖女シュゼット(中編)

 両側から声をかける少年たちに、少女はぼんやりとした視線を向ける。髪も服も肌も土埃に汚れてはいるが、色合いは見覚えのあるもので、ルクレシアを見上げた顔立ちにもシュゼットの面影がある。

 シュゼットは己のぼろぼろの身なりに気づいていないかのように、にこりと笑った。

 

「ありがと」

「おう」

 

 耐えきれずといったようにアルフォンスが駆け込んできたのと、そのアルフォンスが少年たちに殴りかかろうとするのをルクレシアが止めたのとは、ほとんど同時だった。

 

「なぜ止める!? やはり君は……!」

「それはこちらの台詞です。なぜいきなり暴力に訴えるのですか」

「この状況がわからないのか!? 罪のない少女を閉じ込めて! 食事もほとんど与えずに……っ」

「状況がわかっていないのはあなたです。言ったでしょう、彼女はヨソモノです。つい数日前にこの地区へ流れてきたそうです」

 

 先ほどは堪えたため息が、ついうっかり盛大に漏れた。

 

「もしなんの前触れもなく隣国から貴族が訪問してきたら、アルフォンス様はどうしますか」

「どうって……意図が不明だ。確認がとれるまでは()()()()で王宮にいていただく」

 

 答えたアルフォンスがはっと気づいた顔になった。

 

「そうです。なにが目的かわかりませんから、彼らもしばらくは閉じ込めて、この地区を執り仕切る人間が検分にくるのを待っていたわけです」

 

 すなわち建前上の管理者である教会の誰かか、実質の支配者であるオルピュール家の執事レイか。

 そこへルクレシアの命を受けたレイがやってきた。メイフェア地区へ一番に訪れたのは、ここが王都で最も地位の高い大聖堂の裏手であり、規模も大きく、手先となって捜索の役に立つ者――キャンディを求めてわらわらと集まってきた子どもたち――がいるからだ。

 彼らを動員して捜索するまでもなく、レイは〝ヨソモノ〟の存在を知らされた。

 

「そうだ、お前もキャンディもらえよ、ヨソモノ」

「レイ様、こいつにもキャンディ!」

 

 言われたレイがシュゼットにキャンディを渡す。シュゼットは「ありがと」とまた片言の礼を言った。

 

「それから、食事もほとんど与えずに、という点についてですが」

「いい。ぼくが悪かった」

 

 ようやく悟ったらしいアルフォンスが首を振る。

 シュゼットが食事をほとんど与えられていなかったのは当然だ。だって、彼女を閉じ込めていた少年たちだって毎日たっぷりの食事にありつけるわけじゃない。

 むしろ、身寄りのない少女をほかの者の目につかないよう匿い、わずかなりとも自分たちの食事を削って食べものを与えていたことは、賞賛に値するだろう。

 

 捕まえにきたとか持っていっていいとかいう乱雑な言葉遣いがアルフォンスの怒りに触れたのだろうが、彼らはレイという信頼できる人間に引き渡そうとした。

 だからシュゼットも礼を言ったのだ。

 

 ルクレシアとアルフォンスのやりとりを、少年たちは首をかしげて見つめている。

 アルフォンスがなにに申し訳なく思い、なぜ謝ったのか、彼らにはわからない。そのこと自体が、王都に横たわる身分の格差を示している。

 

(ゲームの裏設定とはいえ、なかなかの過去エピソードね)

 

 たしかにシュゼットは貧民街で聖なる力を覚醒させ、教会の保護下に入ったという説明はあった。しかしここまでのものだとは知らなかった。

 シュゼットはどんなときでも明るさを失わない前向きな主人公だが、過去がこれではたいていのことには怯えないだろう。

 

 なんにしろ、教会はまだシュゼットの存在に気づいていない。

 ルクレシアは内心で頷いた――頷きながら、ものすごく重要な『シュゼ永遠』のエピソードを思いだして、顔をしかめた。

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