92話
パーティーの最中、リリーはメリアにふと気になったことを尋ねた。
「そういえば、メリア、カインさんは……?」
カインが無罪放免となったことをリリーはメリアから聞いていた。
無罪となった理由としては、決定的な証拠が見つからなかったためだ。
それは彼自身が召喚魔法を全く扱えないことが功を奏したといえる。
ただ、その後の行方については分からなかった。
今回のパーティにも呼んだつもりだったのだが見回してもいなかったため、都合が悪くて来れなかったのだと思っていた。
しかし、メリアの回答は意外なものだった。
「あぁ、彼ですわね……。いますわよ」
「え? どこに?」
「あそこの木の陰にいますわ」
視線を凝らせると、確かに人影のようなものが薄っすらと見えている。
「どうしてあんなところに?」
「私のボディガードとして働かせておりますの。その辺をのさばらせていたらまた、悪い輩に誘われかねないでしょう?」
「なるほど……でも、彼もあの日戦ってくれた一員なので、一緒にパーティを楽しむことは出来ない?」
「そうですわねぇ……。まあ……リリー・スカーレットが言うのなら、仕方がありませんわね……」
メリアがパチンと指を鳴らすと、一瞬でカインがメリアの前に跪いた。
「如何ようでしょうか。お嬢様」
「……ボディガードの任は一旦、解きます。存分にパーティを楽しみなさい」
「ありがたき幸せでございます……」
「ただし、これはリリー・スカーレットのご厚意であることをお忘れなきよう」
「ハッ……!」
メリアは自身の料理を取り分けて、カインに分け与えた。
「ありがとうございます。メリアお嬢様」
礼を述べるカインに、メリアはふと目を細める。
「今は主従関係は無いのですから、メリアと呼んでもらっても構わないわ」
「いや、でも、それはちょっとアレなので、メリアさんで……」
「じゃあ、メリアさんでいいですわ……。あと、これは没収」
取り分けられた料理が、すっと彼女の手に戻される。
「えー!? なんでー!?」
「自分で取ってくればいいでしょ!」
「確かに、仰るとおりで……」とカインが他のテーブルを歩いていると「おー少年、どうした! そんな辛気臭い顔してー!」とワイトに絡まれ隣に座り人生相談らしきものが始まった。
リリーは神妙な面持ちでその様子を眺めていた。
賑やかな空気の中に身を置くことが近頃、多くなってきたが、それは半年前には考えられなかったことだ。
「リリー・スカーレット……、お食事が進んでいないようですが、もしかして、体調が悪いんですの……?」
リリーが料理に手を付けることなく、周囲の様子を伺っているため、メリアが心配して隣から声をかける。
「いや、違うの……この瞬間が何だか幸せだなって思って――――」
その答えにメリアの顔が綻んだ。
「そうですわね……ですが――――」
「分かってるよ、メリア。これからだもんね」
「えぇ、その通りですわ。貴方は今も昔も決して一人なんかじゃなかったのですから」
「うん――――」
続けて、リリーは決意を胸に秘めて言った。
「――――待っててね、お父さん、今、助けに行くから」
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。
そして、打ち切りのような終わり方となってしまい、申し訳ございません。
本当はこの先の物語も綴っていきたかったのですが、今の自分の実力では描きたいものを描けないと判断して、物語として一区切りのつけられる、キリの良いところで筆を置くことを、前々から考えておりました。
私にとって、ここまでの長編は初めての挑戦であり、不慣れゆえに至らぬ点も多々あったかと存じます。
それでも、少しでも楽しんでいただけたのであれば、これ以上の喜びはございません。




