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90話

「やっぱり、わたしは残るべきだった……!」


 リリーは絞り出すように声を漏らした。

肩で息をしながら、ポータルがあった場所の前で立ち尽くす。

ワイトとライゼンが戻ってこない中、魔力の残滓を散らしながらポータルは静かに崩れ、消えていったからである。


「それを言うなら、私にも責任があるわ……。まさか、まだ残っていたなんてね……だけど、きっと大丈夫よ」


 ティターニアはそう言って、リリーを安心させようと微笑んだ。

その場に集う他の者たちも彼女の心配は痛いほど分かるため、「きっと帰って来る」と口々に言った。


 リリー自身、彼らの強さはよく理解しているため、この心配は杞憂なのだと分かっている。

しかし、ほんのわずか、数パーセントの「もしも」が脳裏をよぎった瞬間、胸の奥がきりきりと軋み、言い知れぬ不安が怒涛のように押し寄せてくる。


 その時、静かにティーカップを片づけていたウェイターが、穏やかな口調で言った。


「そう、心配しなくともきっとあの御方らは戻ってきますよ、今にも、ね」


言葉が終わるか終わらないかのうちに――――


ギィィ……


 重々しい音を立てて、入口の扉が開かれる。

そこに立っていたのは、ワイトだった。


「悪ぃ! ちょっとだけ遅れちまった!」


その姿を見た瞬間、リリーの頬に一滴の涙が伝って声が裏返る。


「ワイトーっ! 帰って来るのが遅いですよ! バカ!」

「なんてこった……遂に口まで暴力シスターに……」


 ワイトの軽口に、リリーが臨戦態勢に入ろうとするのはメリアが止めた。


「落ち着きますのよ……! リリースカーレット! ここはお店の敷地内ですのよ!?」

「メリアの言う通りですね……っ……ふぅ、すぅ……はぁ……」


 リリーは目を閉じ、深呼吸をひとつすると、ある違和感が胸に引っかかる。

 それは()の姿が無いことであった。


「あの、ワイト……師匠は……どこに?」


 その問いは、どこか希望を乞うような響きだった。

目を伏せたまま、ワイトはわずかに沈黙し、苦笑にも似た顔で口を開く。


「あぁ……あいつか、あいつは――――」


 その言葉の続きを待つまでもなく、リリーの心臓が小さく跳ねる。

背筋に冷たいものが走る。

脳裏に、最悪の光景がよぎった。


「嘘……でしょ……?」


 絞り出すように紡がれた言葉は、店内の空気を一変させた。

笑顔の余韻が、音もなく消えていく。


「……おいおいおい、俺は、まだ何も言っていないんだが?」


 ワイトは両手を軽く上げて、飄々とした笑みを浮かべた。


「生きてるよ。というか、あいつが空間をぶち開けてトンネルを作ってくれたから崩壊寸前の空間から脱出することが出来たんだよなぁ……。 ハハハ、びっくりした?」


「心臓に悪いですよ!! もうっ!!」と叫ぶや否や、リリーは感情のままにワイトの胸をポカポカと叩き始めた。


「分かった分かった! 謝るって! ごめんって!」


 笑いながら屈もうとするワイトの声は、どこか嬉しそうであった。

その微笑ましいやり取りを、少し離れた席から眺めていたアレクがぽつりと呟く。


「まあ、大団円ってところでしょうか」


 その一言に、場の空気がふわりとほどけた。

あちこちから小さな笑い声がこぼれ、一同の顔に安堵と幸福の色が広がっていった。


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