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85話

 落下を続けるワイトの視線の先で、上空で閃光とともに爆発が轟く。

閃光が空を切り裂き、衝撃波が大気を震わせる。

まるで天空に灯された巨大な炬火(かがりび)が、燃え尽きるような壮絶な光景だった。



その光景を見て、ワイトはリリーがアスモデウスを討ったことを確信した。


「そうか、やったか! やったんだな!」と歓喜の声を上げるやいなや、何かがヒュンと高速で落下していくのが見えた。


 それはあまりの速さで落下するものだから、何なのかを見極めることは出来なかった。

ただ、それは黒く、何かの燃えカスのような――――


 それが何か考えていると、不意に上から声が聞こえてきた。

そこには、燃えるような赤い髪を(なび)かせながら、赤い光を両手から放出させて高速で接近するリリーの姿があった。


「ワイトォォォォォォ!!!!」


 リリーはそう叫びながら、加速していく。

程なくして、自由落下を続けるワイトの腕を掴んだ。


開口一番、ワイトが冗談めかしながらぼやく。

「あー……、マジで死ぬかと思った……ってもう死んでるか……(笑)」

そう言って、一瞬考えるとポンと手を打った。

「――――いや、よく考えれば、もうこの渾身のギャグは使えないのか……」


 一人で勝手に納得しているワイトを見て、今はそれどころじゃないという感情を必死に押し殺しながら口を開いた。

「……あの腐れ外道を足止めしてくれていたのは本当に助かりました。そこは感謝しています!! だけど、今は冗談言ってないで!! 早く、風の精霊を出して下さいよ!!」

「はい?」


 全身から嫌な汗が噴出する。

ワイトは死ぬ覚悟はあった。

だが、たった今、リリーが駆けつけてくれたことにより、てっきり助かったも同然だと思っていたのだ。

それが何故か、当の本人からは鬼気迫る勢いであのようなことを言われてしまう。


 風の精霊の力は、アスモデウスを風の檻に閉じ込めるために全てのリソースを注いだため、今はもう使えない。

つまり、落下死の可能性を払拭できていないことになる。


「いや、あいつの逃走を防ぐために力の大半を使っちゃったから、シルフはしばらく動けないんだが……」

「え……」

「え……じゃないが……」

「どうするんですか!? 本当にどうするんですか!?」


 縋るような視線を向けつつも、少女とは思えないほどの力で肩を揺する。

激しく揺さぶられるたび、胃の中のものが逆流するかのような感覚に襲われる。


「うぷっ……吐く!! 吐くからやめろ!!」


 呻くように叫びながら、ワイトは必死に少女の手を振り払おうとする。

そして、荒い息を整えつつ、思いついた案を口にした。


「とりあえず……あの赤い光を逆噴射して、いい感じに着地できたりしないか?」

「なるほど、地面に向かって……ということですね……!」


 リリーの瞳が揺らめき、決意の色が宿る。


「やったことないけど、やってみます!!」と、力強く言い切った。


 ワイトはそんな彼女の両肩をがっしりと掴んだかと思うと、まるで応援団のように拳を振り上げた。


「フレーフレー!!」と精一杯の激励を送るが……。


「ちょっと、うるさいから! 黙っててください!」


 リリーが鋭く制し、ワイトはしゅんと肩を落とした。


「へい……」


 意気消沈した彼をよそに、リリーは再び意識を集中させる。

今度は両手を前に出して、赤い光を放出しようとした。


 だが、出ない。


「あ、あれ……?」


思いっきり力んでも出てこない。

焦りを感じながらも、諦めずに手の平から放出するイメージをする。

だが、その思いとは裏腹に次の瞬間、彼女の身を包んでいた赤いドレスは消え去り、代わりに見慣れたシスター服が現れていた。


「あぁ……これは、多分、あれだな」


ワイトが呟く。


「魔力切れみたいなもんだ……。あいつも最初はよくこういうことがあった」

「……あいつって誰ですか?」

「ツムギだよ……」


ワイトは遠い記憶を辿るように答えた。


「力のさじ加減が苦手でな……無理をすると、よく元の状態に戻っていた」

「ツムギさんにもそんなことが……!」


 リリーは一瞬、意外そうに呟くが、すぐにハッと我に返る。


「――って、違う!! そんな思い出話をしてる場合じゃない!!」


 だが、すぐに慌てて手を振り、何故か必死に付け加える。


「あ、でも! ツムギさんとの思い出が悪いというわけでは決してないので!! はい!!」

「……何のフォローなのか、よく分からんが……」


 ワイトは肩をすくめつつも、考え込むように額に手を当てた。


「何かこう……助かるようなアドバイス的なものが、脳内に直接聞こえてきたりはしないか?」

「無いですね!」


 即答するリリーに、ワイトは小さく息をつく。


「あー……なら、大丈夫ってことだ……。本当にヤバイ時は、向こうから手を貸してくるはず……。あいつは、そういう奴だからな」


 そう言った後、少し間を置いて苦笑を浮かべた。


「……ただ、ここまで焦っといて恥ずかしいな。一人、明らかに飛べそうなお嬢さんがいたというのに」


「あ――――」


 リリーがワイトの言葉に気付いた瞬間。

突如、二人の身体が優しく抱きかかえられる。


「リリースカーレット、ワイトさんのお二方。よくやってくれましたわ……戦い抜いた戦士は労わらないといけませんわね……」


 その声は、凛とした気高さの中に優しさと暖かさを滲ませている。

リリーはその声を聞いて、上を見上げた。


「ありがとね……。メリア――――」

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