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83話

 ワイトとアスモデウスの間で壮絶な空中戦が展開される。

白の細剣と黒の大剣がぶつかり合い、稲妻のような火花が散るたびに周囲の空間を震わせる。

互いに一歩も引かず、瞬きする間に何十もの斬撃が交わされた。


 足場などないはずの空中を縦横無尽に駆け、剣撃と回避をひたすらに繰り返す二人。

永遠に続くかとも思われたこの果たし合いにも綻びが生まれた。


「クッ……!」


 嵐のような斬撃を捌ききれずに仰け反るようにして遂に体勢を崩す。


 その一瞬の隙を逃さず、ワイトが叫ぶ。


「メリアッッッ! 今だあああああああ!!!!」


 その合図を神経を研ぎ澄まして待っていたメリア。

その呼び掛けに即座に反応する。


「大神の槍……<グングニル>……!」


 その言葉を発すると、メリアの手元に身の丈をゆうに超える綺羅びやかな装飾を纏った黄金の投擲槍が現出していた。


 アスモデウスに向けて構える。

その眼光は狩人が頭上を飛び交う鳥を狙い打つかのようだった。


「いっけぇぇぇぇ!!!!!!!!」


 大気が身震いするほどの気合で槍を投擲する。

空を引き裂いて、唯の一点を目指して槍は飛んでいく。

グングニルはアスモデウスの胸部に見事に命中。


 だが、貫くには至っていない。


「これがお前たちの秘密兵器のようですが、見ての通り、私を貫くには至っていない……ハハハ、無駄でしたねぇ?」


 余裕の表情を見せるアスモデウス。

 ワイトは不適な笑みを浮かべる。


「あぁ、その槍でお前を倒せないことは承知の上だ」

「何……?」

「それはお前を縫い止めることが目的だからな」


 アスモデウスはその場から離れようとするが、身動きが取れない。

それは、まるで鋲で留められた標本のように。


「正真正銘――――」


 ワイトの持つ細見の剣が強い輝きに包まれたかと思うと、次の瞬間には、大剣へと変貌していた。

陽光のように眩い光を纏った三メートルを超える光の大剣。

それを高く振り上げ、目の前のアスモデウスに振り下ろした。


「――――全力全開だ」


それで全ては決着する……はずだった。


戦いの終わりを否定する甲高い金属音が両者の間で鳴り響く。


「そう簡単にやられると思いましたか?」


 アスモデウスは相反する漆黒の大剣で光の大剣を受け止めていた。


「ヒヤッとしましたよ。身体はこの通り、動けないし、逃げ道もない。それで、あの<クラウ・ソラス>を受けようものなら私の身は保たなかったでしょう。ですが――――」

「クソ!! これでもダメなのか!?」

「ええ、そうです。やはり、いくら力を取り戻したとはいえ、それがついさっきとなれば出力も落ちるというものです。見てください、この槍だって……」


――――ピシッ

投擲槍の柄に亀裂が入る。


「この槍の拘束ももうすぐ解ける。そして、お前も」


 ワイトは、千載一遇の好機を掴み取るために、力を使いすぎていた。

そこまでしなければならない相手だったが、<クラウ・ソラス>の一撃を以てすれば葬れると思っていたのだ。


「ガハッ……」と喀血するワイト。

「その分だと、もう長くはありませんねぇ?」

「う、うるせぇ!」


 だが、威勢の良さに反して、黒い光が圧している。

状況は再び一変した。


 アスモデウスは確信した。

やはり、勝利の女神は自身に微笑む。

どんな苦境を用意しようともこの結末だけは決して変わらない。

そう考えると、自然と笑いが込み上げてきて、肩を震わせながら空のない空間を見上げて高らかに笑った。


そして、その時、見てしまった。


「は?」


 遥か上空から真っ直ぐに飛来するもう一人の姿に。


「あれは赤い聖域!? バカな!! 赤い聖域に飛翔能力はないはずだ……!」


 何かを思い当たったアスモデウスが背後を振り返ると、そこには、小さな足場のようなものが、遥か高くまで続いている。


 簡単で単純な話だった。

 ティターニアは能力の制限を受けているとはいえ、全く魔術を使えないというわけではない。

足場程度のものは今の彼女であっても容易に作れるのだ。

それこそ、天へと繋がる螺旋階段のように。


そして、リリーはそれらを踏みしめて上り、そこから飛び降りた。


「赤い聖域多重展開……! <フレアサーキット>!」


 リリーの落下軌道上に七つの赤い魔法陣が急速展開される。

魔法陣を潜るたび、全身に力が漲ってくるのが分かった。

全ての魔法陣を潜り抜けたその時が、リリーから日常を奪い去ったあの男――――アスモデウスに報いが下る瞬間である。


「ま、マズイ……! アレはマズイ!! アレだけはマズイ!!」


 この瞬間、幸いなことにメリアの槍が砕け散った。

アスモデウスにとって、この好機を活かさない手はなく、その場を急いで離脱しようとする。

だが、ワイトはその腕を強い意志で掴んだ。

リリーの到来はワイトにとっても同様に好機であったのだ。


「逃がさねぇよ……!! 逃がすわけがねぇだろ!!」


 続けて、口から血を垂れ流しながら、決死の詠唱を行う。


「大いなる、風の……精霊よ、この者に風の牢獄を……! <ストームケージ>……!」


 周囲に凄まじい風の気流が発生し、移動を制限され、その場に立ち止まることを余儀なくされる。


「こ、この程度の風……! 大したものでは……ない……! <マキシマムテンペスト>……!」


 アスモデウスが片手を出すと、<ストームケージ>と同等もしくはそれを上回る反対の気流を発生させ風を中和させて突破しようと試みる。

 刹那、吹き荒ぶ風の中に一本の道が生まれてしまった。


 リリーにとって最大の敵が逃げ出そうとしている。

自分が不甲斐ないばかりに逃げられてしまう。

それはワイトにとって何よりも耐え難いことだった。

 

「頼むぜ、リリー……俺はお前に賭けるよ……」


 ワイトは空から迫るリリーに全てを託すことを誓った。

たとえ、自分を犠牲にしてでも……。

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