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82話

「何かお変わりになりましたの……?」


 あまりの変化のなさにメリアが呟く。


「メリアの言う通りだ。このままではあんまり変わってないけど……」


 ワイトはそう言いつつ、鉄兜を外す。

そこには人の顔があった。

黒い短髪と黒い瞳のどこにでもいるような普通の男だった。


「この通り、どうだ? イケメンだろ?」

「いえ、そんなに……。わたくしのお兄様の方が五千倍イケメンかと」


 メリアは真顔で答える。


「あー……とりあえず、ブラコンなのはよく分かった」

「ちょっと、ふざけてる暇があったら! さっさとリリーちゃんの援護しなさいよ!」

「へぇへぇ……人づかいが荒いこって……だけどまあ、その辺は安心してくれ」


 ワイトはすぐさま細身の剣に手をかけると、剣が淡く発光する。


「さて、反撃開始と行きますか――――<雷脚>」


 ワイトの足元から雷光が迸ると、姿が瞬く間に消失。

次に姿を現したのはアスモデウスの背後であった。

そのまま何の躊躇もなく斬りかかる。


「なっ……!」


 だが、殺気を感じ取ったアスモデウスによって、すんでのところで気付かれる。

急に出現したワイトに驚きを隠せない様子だったが、急接近に対応するため、リリーのシールドを破壊すべく放出していた球体を解除。

続け様に手元の空間から黒い剣を出現させ、急襲に対応した。


「いきなりはさすがに焦りましたがね……! お前は大した存在じゃない!」


 ワイトの両側面の空間にぽっかりとした穴が出現したかと思うとそこから二本の大鎌が放出された。

三方向による攻撃。

左右には大鎌、前には剣。


 ワイトを痛め付けることだけを考えていたアスモデウスだったが、ここに来て初めて致命傷を追わせる一撃を見舞いしようとしていた。


「生憎、今の俺の力はちょっと特殊でね……この空間の特異性は俺には通用しないんだ――――<爆炎>」


 両側から迫りくる大鎌の前に、手の平サイズの炎の球が現出し、迫り来る大鎌を溶解させた。


「なん……だと……!」

「さっきの俺とは全く違うわけよ。形勢逆転だな?」



 リリーの展開するシールドの中からワイトとアスモデウスの戦いを見守る中、メリアが率直に言った。


「完全にこちらが優勢ですわね……。」


 その意見には皆が賛同している。

現にワイトはアスモデウスを押している。

だが、リリーには疑問があった。


「でも、ワイトは力を取り戻して間もないはずです……。それが、ここまで優勢になるのは……」

「それは多分、彼は本来、異世界の人間だからでしょうね……。この空間における能力制限の対象はこの世界に準拠している者。アンデッドと化していたワイトは、この世界に準拠する者としてカウントされていたけれど、力を取り戻したワイトは異世界の人間としてカウントされているということかしら……」

「なるほど……確かにそれは一理ありますわ……」

「それを言うならティターニアさん、わたしも力の制限を感じないのですが……」

「赤い聖域の力はこの世界に準拠しない。故に能力制限の対象にはなり得ない。それだけ、強力ってことよ」

「良かった……」

「何が?」

「それはつまり、皆を守れる力だと思ったからです」


「そうね、その通りよ」とリリーの思いに賛同した時、メリアが声を荒げる。


「あの禍々しい気……! あいつ、何かしかける気ですわ!」



「この私がお前らごときに本気を出さないといけないとはなァ……!」


 その途端、アスモデウスの背中から、骨格のみで形成された四つの翼が出現した。


「ワイトは!? ワイトはどこに!?」


 リリーはワイトの姿を探そうとする。


「安心しろ、俺はここだ」


 頭上から声がしたかと思うと、スタッと着地する。

 ワイトは異変に気付いて、一足早く、その場を退いていたのだ。


「深追いはヤバいと思ったから退いてきた。あの野郎、ここでようやく本気になったようだぜ。今までのは前座のようだ」

「ナイス判断よ。せっかく、ここまで来たんだから、犠牲者0でしっかり勝たないとね」

「そこで、だ。あまり長話も出来ないから、単刀直入に言うが、やっぱり俺だけではあいつに致命的な一撃を与えるのは無理だ! だから、皆の協力が必要だ」

「それは今更って感じですわね」

「すまないが、今の俺は寝起きみたいなもので実際のところフルパワーでは戦えていない気がする。ただ、相手の動きが止まっているのなら、弱点に俺の全力をぶつけられる」

「ワイト、死ぬつもりじゃないですよね……?」

「安心しろ、自滅特攻なんてするつもりはさらさらないさ。皆で勝つためだからな。そこでなんだが……あいつの動きを止められる奴はいるか?」


 ワイトが呼びかけたその時、影のように黒い矢が雨のように降りかかり始める。

矢の輪郭は陽炎のようにぼやけており、実体がないように思える。

ドーム状のシールドに刺さった矢が全体を覆い尽くするのも時間の問題だった。


「リリー……このシールドはあとどれぐらい保ちそうだ?」

「一つ一つの矢は大したことないけど……量があまりにも多すぎて長くは保たないと思う……。それにわたし自身、こういう防御系の技はあまり使いこなせないみたいで……」

「話してる時間もあまりないというわけか」


 その時、ひとり挙手する者が。


「……出来ると思いますわ。今のわたくしには対象物と空間を縫い止める特別な投擲槍がある、しかし、魔力の消費量がとんでもなく多いため、二発目は無理ですわね……」

「その槍の拘束時間は?」

「短くて5秒、長くて10秒ってところですわね……」

「それだけあれば十分だ。合図を出すから、その時のために力を温存しといてくれ!」


 続け様にティターニアとリリーに視線を移す。


「お前ら二人はメリアの援護を頼む。俺のことは気にしなくて良い! 」

「了解!」

「分かりました……!」


 二人の返答後、ワイトはアスモデウスの元へと単騎向かった直後、シールドにヒビが入る。


「……シールドが割れます!」


 リリーの声に応じて、空かさずティターニアが叫ぶ。


「<ヘミスフィアマナナンズシールド>ーーー」


 水の大盾ではなく、水のドームが展開される。


「リリースカーレットと同じドーム型のシールド……?」

「今の状態でこれをやっちゃうとめちゃくちゃ疲れるから、本当はやめときたいんだけどね? でも、温存しといて欲しいからさ。メリアちゃんしかり、リリーちゃんしかり」

「わたしも……ですか?」

「ワイトはあんなこと言ってたけど、この中で一番、爆発力があるのはリリーちゃんよ。でも、やっぱり、貴方を危険な目に合わせたくなかったんだと思う」

「それは……」

「アイツには妹がいた。貴方はその子によく似ているの。たったそれだけの話よ」

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