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72話

 二人の戦いを神妙な面持ちで見つめるティターニアが苦々しげに言った。


「……あいつでも勝ちの目ははっきり言って薄い。あの不意打ちで終わらせることが出来れば良かったんだけど……」


悔しさを抑えるように、歯を強く噛み締めると、メリアに正対する。


「メリアちゃん、一つ提案があるの……聞いてくれる?」


 ティターニアの表情は険しい。

それはきっと良い話ではないのだろうと思った。


「現状、リリーちゃんを元に戻す術が失われた今、撤退が先決だと思う。だから、あなたとカインくんだけでも逃がそうと思っているの」

「それは……」


 善意からの提案だというのは分かる。

しかし、自分たちだけ逃げ帰るというのは、どうしても気持ちが引けてしまう。


「後ろめたい気持ちはあると思うけど、ワイトもそれは承知の上よ。もしも、あの攻撃で倒せなかった場合はあなた達を逃がすって話をしていたの」


 自分たちがここで逃げたとしても、責める者はどこにもいない。

むしろ、ここで逃げたほうが良いのかもしれない

 ただ、気掛かりが一つあった。

震える声で最も気になることを問い返す。


「リリー・スカーレットはどうなりますの……?」

「そうね。現状、なんともいえないというところかしらね……」


 ティターニアは言葉を濁す。

それはリリー・スカーレットを連れ帰ることはおろか、元に戻すことさえ厳しいことを暗に示していた。


 リリー・スカーレットを連れ戻すために、ここまで来た。

それにもかかわらず、何もできずに逃げ帰る。

そんなことが出来るはずがない……!

そう断言したいのは山々だ。


 しかし、それ程の力をメリアは有していないのも事実。

自身の弱さを痛感していた。

やはり、足手纏いになっている。

先ほど、アスモデウスが真っ先に切り掛かってきていたのが何よりの証拠。

自分は()()()()しまっている。


 その時、背後から「う、あぁ、ここは……?」と声がした。

後ろを振り向くと、カインが目覚めている。

メリアは彼のそばに近寄った。


「体調はいかがでしょうか……?」

「あれ……傷が塞がってる……君がやってくれたのか……?」

「いえ、わたくしではなく、あちらのお方が」


 そう言って、ティターニアの方を指さす。

ティターニアは遠くで繰り広げられている二人の戦闘を見つめていた。

万が一にも、流れ弾が飛んできた際の対処をするためだろう。


「そっか。君の周りにはスゴイ人がいっぱいいるんだなぁ……」

「一つ、聞きたいことがありますの」

「何を……?」

「どうして、あなたはあの時、私を守ったのですか」


 カインがメリアの盾となったあの時のことだ。

遥かに強い敵を前にして、それでも、両手を広げて盾となれた理由。

メリアはそれを知りたかった。


「あの時は考えるよりも身体が先に動いていたから、こうだからっていう理由は分からないんだけど、ただ少なくとも、君に死んでほしくなかったんだと思う」

「わたくしに……?」

「うん、だって、目の前で人が死ぬのは嫌なことだろう……? こう見えても、昔はヒーローに憧れていたし、ずっと、誰かを守りたかったんだよ。でも、僕は弱くて臆病だった。その心をあの男に利用されてしまった。今更、許してもらおうなんて甘い考えはないよ。僕の犯した罪は大きいからね」

「それはつまり、守る対象はわたくしじゃなくても良かったということですわね?」

「い、いや、そういうことじゃなくて……」

「そんなに慌てなくても良いですわ、怒っていませんから。それにしても、何だかちょっと見ない間に随分と様変わりされましたね、貴方」

「……まあ、耳やら尻尾やら生えてるしねぇ……」

「そういうことではなくてですね……。でもまあ、THE・一般人の貴方が、あそこまで大それたことをやってのけたんですもの。わたくしだって、腹を括らねばならないというもの」


 そう言ってメリアは強い決意を宿した瞳のまま、ティターニアの方へおもむろに歩いていき、彼女の横に並んだ。

隣に来たメリアを一瞥し、簡潔に一言だけ発した。


「提案は呑んでくれる?」

「ワガママを言っていい立場ではないということは分かっております。その提案が善意によるものということも百も承知ですわ。ですが、わたくしも共に戦います」


その返答に驚いて、視線をメリアの方へ移す。


「……これは、ちょっと予想外だったかなぁ。貴方って、聡明で身の程を弁えるタイプでしょ? 提案に乗ってくれると思っていたんだけど」

「これは勝ち目のない戦いだから、私たちだけでも逃がそうとお思いになったのでしょうが、そうはなりませんわ」


 その言葉に迷いはない。

心の奥底から意思を固めた者が有する瞳をしている。

しかし、ティターニアからすれば、助けられる命は助けたいし、今ならそれが間に合う。

全滅という最悪のバッドエンドだけは避けたい。

そのため、現実を叩きつける。


「貴方の雪薔薇では、アスモデウスに傷一つ付けることは不可能よ」

「もう一つあると言ったらどうでしょう?」

「もう一つ……?」


 メリアの言っていることがよく分からない。

スノウローズ家に伝わる能力は雪薔薇のみ。

それ以外には聞いたことがない。

もう一つとは……何を指している……?

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