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71話

 あることに気付いてしまったからだ。


「この空間は収納空間だったはず……だったら、その主が倒されたのであれば、元の空間に戻られなければおかしいですわ!」

「その通り――――」


 その声はもう二度と聞くことはないと思われた男の声だった。

頭上から黒い斬撃がメリアに襲いかかる。

標的にされたことにも気付かず、このまま、致命的な一撃を食らってしまうものかと思われた。

だが、間一髪、ワイトが細身の剣で受け止める。

黒の長剣と白の細剣で鍔迫り合いが繰り広げられる中、アスモデウスが重々しげに口を開く。


「いやぁ、久しぶりですねぇ……英雄ゼロ……」


 それは今までの口ぶりとは少し異なっていた。

長年の間、暗所で誰の目にも触れられることなく醸造された憎しみのようなものが籠められているようだった。


 しかし、それはワイトからすればいわれの無い憎しみだ。

軽く一言交わした即座に、次の攻撃に転じる。


「悪いが、今の俺にお前のような知り合いはいないんだよなぁ――――烈風!!」


ワイトの後方より、凄まじい旋風が巻き起こり、アスモデウスは後方へ吹き飛ばされてしまう。


「まさか、当たるとは思わなかったが……! 今のうちに畳み掛ける! ティターニア、メリアのこと頼んだぞ――――」


 今が絶好の機会だと捉え、ティターニアの返事も聞かずに、追撃を加えようとする。

だが、アスモデウスは風によって前方に向かってしまった。

走って追いつける距離ではないが、この状態をどうにか出来る術を知っている。

正確には思い出していた。

それは、エルピス鉱山でのバルログとの戦闘後、眠ってしまったリリーに触れた時のこと。

簡略的に精霊を行使する術。

その術の名を口走る。


「雷脚!!」


 その途端、足が光ったかと思うとワイトの姿が消えて、次の瞬間には飛ばされていったアスモデウスがすぐ前にいた。

距離にして3メートル。

近接武器では距離が足りないが、この射程距離(レンジ)で良いのだ。

そこで空かさず、次の術を言い放つ。


「爆炎!!」


 ワイトの周囲に複数の炎の玉が浮かび上がる。

それらは一斉に、アスモデウス目掛けて飛んでいき、着弾。

複数の爆発音が鳴り響き、それは一つの大きな爆発となった。

その爆発によって浮き上がった身体に狙いを定めて、トドメの一撃を言い放つ。


「水刃!」


 刃物のような形状になった水が、無防備な状態のアスモデウスの身体を真っ二つにしようと迫る。

そして、ものの見事に命中。

当初の予定では、真っ二つとまではいかないものの、かなりのダメージは入っているはずだった。

だが、重なる波状攻撃をモロに受けていたにもかかわらず、彼は何事もなくその場に着地した。

その異様な動きにワイトも様子を伺うために、距離を置いて着地。


 確かに術は当たっている。

だが、その手応えを全く感じていなかった。

食らったところで何も問題はないからあえて受けているという状態。

ワイトはそのような予感がしてならなかった。


アスモデウスは両手を上げて何かに呆れたかのような態度を見せる。


「いやぁ、以前の貴方はここまで弱くはなかった。それとも、私が強くなりすぎましたかな?」


 ワイトの予測は当たっていた。

アスモデウスには、大したダメージは入っていなかったのだ。

しかし、ここであからさまに動じてしまっては相手の思うツボだ。

自らの動揺を押し隠すように、あっけらかんとした口調で返す。


「なるほど、ここまで効いてないとなるとさすがに心折れちゃうねー」

「今のその姿では折れるものならたくさんあると思いますが」

「今のその姿って? 俺、お前に昔の姿、晒したことあったっけ?」

「ありますとも。ざっと100年前の話ですが――――まあ、貴方がそのような姿になってしまった原因は私にあるのですが、あの時は生きながらにして肉が腐っていくというなんとも醜悪な姿をしておられましたから……肉の無くなった今の方が幾分、マシかと思われますよ?」


 そういえば……とワイトはこの空間に突入する前、ティターニアが話していたことを思い出した。

自身が骨のような身体になってしまった原因……その男の名はアスモデウス。

つまり、目の前の男だ。


「……なるほどね。今、思い出したけど……顔までは思い出せないな」

「そうですか。ならば、見せて上げますよ。……序列第一位アスモデウスの顔を!!!!」


 ローブの男はそう言うと、フードを拭い去った。

柔和な顔付きの純朴そうな青年の姿があった。

髪は黒く、肌は色白であり、甘いルックスを持ち合わせたその容貌。

だが、唇の端からは人格の歪さが滲み出している。


しかし、やはり、記憶には無い。


「すまん、まったく覚えがない、以上」

「あなたぐらいなものですよ。私をここまでイラつかせるのは」

「たかがそれぐらいでイラつくなんてな……カルシウム足りてねぇんじゃないのか?」

「……その口、黙らせてあげましょうか」

「いいぜ、黙らせられるものならな」


 言葉の応酬はそれっきりに、アスモデウスは空間の裂け目から黒い大剣を取り出すと、尋常ではない殺気を振り撒きながらワイトに急襲を仕掛ける。

ワイトは腰に刺している細身の剣を構えた。

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