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67話

 両手から溢れんばかりの水が噴出し、頭上を覆い尽くしていく。

間一髪、急速落下していた悍ましい球体と水が衝突し、水飛沫が飛ぶが、その音と共に漏れ聞こえるものがある

苦悶、嘆き、怨嗟の声だ。

それに臆することなく、続けざまに二つ目の魔法を唱える。


「ライトニングセイバー……!


 球体の上の空間を縦に切り裂くようにして突如出現したソレは、雷を迸らせる大ぶりの長剣であった。

その剣は独りでに振り上げられたかと思うと歪な球体を漏れ聞こえる苦悶ごと断ち切る。

一刀両断にされた球体はパックリと二つに割れて消滅し、頭上一杯に満ちていた大水も潮が引くように消え失せた。

その後、不気味なほどの静寂が再び訪れるが、一つだけ違う点があるとすれば、リリーの隣に、ローブを着た男がいた。


 男は片手を前に出して敬々しく挨拶をする。


「これはこれはお久しぶりですねぇ……。ティターニアよ……」

「随分と物騒なお出迎えどうもありがとう、アスモデウス」


 その名を聞いて、メリアは目の前にいる存在が何者なのかを理解した。

 つい先ほど、ティターニアから聞かされた100年前の戦いにおいて、かの英雄ゼロを出し抜いた存在。

女神アンヴィー率いる12人の転生者。

その中でも、序列第一位<アスモデウス>であると。


「しかし、予想外でしたよ」

「何が?」

「てっきり、この娘一直線に来るかと思っていたのですが、彼の方に行ってしまうとは……おかげで余興が台無しに……」

「余興……? ああ、やっぱりね――――」


 ティターニアの中にあった最悪の仮定が成り立ってしまう。


 仮に自分たちが真っ直ぐにリリーの元に来ていたら、どうなっていたのか。

カインは見ての通り、動ける状態ではなかった。

そんな彼の上に急速落下する球体。


 真下にいたから対処が間に合ったものの、最初にリリーの元に来ていた場合はどうなるか。

おそらく、魔術の展開が間に合っていない。

間に合ったとしても、押し切られていた可能性が高い。


 防御魔法は術者から直接放出する方が効果が高いが、距離が離れるとその効果は減衰していく。


 ただ、そうであったとしても、本来のティターニアの実力であれば、あの程度の攻撃は容易に防げるはずのだ。

だが、この空間の特殊性がそれを邪魔していた。


そもそも、この空間に入った時から、少し違和感があった。

その違和感の正体が何なのか分からなかったが、上空から飛来したあの歪な球体から二人を守るために魔術を行使したあの時、分かった。


この空間はどうにもマナの通りが悪い。

通常よりも多くのマナを使用する。


「一応、聞いておくわ……。私たちがリリーちゃんの方にきた場合、彼をどうするつもりだった?」

「それは勿論、潰すに決まっているじゃないですか。何せ彼は王都を混乱に陥れた張本人ですからねぇ……。指定したポイントに出現したアンデッドを魔法剣で送り返すだけの簡単なお仕事をやらせていましたが……その実、作っていたのはアンデッドの軍勢を送り込むためのポータル作成……彼は立派なテロリストだと思いますよ、えぇ……」


男の発言にメリアが目を見開いて反応する。


「あなたが妄言者でなければ、その事実を知っているのは一人だけのはず――――あなたが黒幕ですのね」

「ええ、そうですよ? それがどうかしましたか?」


 王都内で起こっていた一連の事件の首謀者であることをローブの男は認めた。

だが、その口ぶりには反省の色が全く見えないどころか、微塵の焦りもない。

むしろ、ごく自然で、当たり前のことを話しているようにも見える。


 メリアは言葉でこそ平静を保っている。

だが、表情からは静かな怒りが滲み出していた。


それは火薬のそばで火の粉が散るようであり、何かのきっかけがあれば爆発しかねない。

その心情をティターニアは汲み取った。

メリアを一瞥し、再び、ローブの男に視線を移す。


「今すぐ、アンタをぶちのめしたい気持ちは山々なんだけどー……、もう一つだけ聞いておかないといけないことがあるのよ。 これ、協定違反でしょ?」

「これとはどれのことですかな?」

「……アンタの隣にいる赤髪の女の子のことなんだけどさ? なんかやった?」

「あぁ……彼女のことですか。そうですね、彼女からは”赤い聖域“に近しい気配を感じておりました。何かのきっかけで力が覚醒してしまうと、色々と不都合が生じます故、力の上書きをさせていただきました。本来だったら、もう少し早く対処する予定だったのですが、とんだ邪魔が入りましてねぇ……『家族』というやつですか? まったく、くだらない。ま、これも世界の平和のため……尊い犠牲ということでしょうな。ハハハハハ」

男の下卑た笑い声が響き渡り、やがて、静まり返る。


一瞬の静寂の後、「そー……。一つだけ分かったことがあるわ」とティターニアは拳を強く握りしめる。

改めて理解したからだ。

目の前にいるのは、不倶戴天の敵であると。



「相変わらずお前は吐き気がするほどの最低下劣のクソ野郎だということがねぇ!!」


その瞬間、ティターニアの周辺に無数の水球が生成されたかと思いきや、水球は凍りつき、人を容易に串刺しにする氷柱へと変貌した。


「凍て付き穿て、サウザンドアイシクルランス」


冷たい号令と共に氷柱が発射される。

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