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65話

「大分端折ったけど、流れはざっとこんな感じよ」

「歴史の裏側でそんな戦いがあったとは……」

「記憶にないから実感が沸かないが、とりあえず俺、スゴかったんだな」

「だけど、一番気になるのは……赤い聖域の女神ツムギのことですわね……。こちらの殿方はかつての英雄ゼロであり、その殿方が赤い聖域の二つ名を有するリリー・スカーレットと行動を共にしている。……これはただの偶然でしょうか?」

「ええ、流石ね、偶然ではないわ。ツムギは、ゼロを封印して暫くした後、私の前から姿を消したわ。その時、彼女はこう言っていた。『もしも、私と同じ力を有する少女が現れた時、ゼロの封印は解除されるからその時はその子と引き合わせてほしい……』と」

「そんで、その言葉に従い、引き合わされたというわけか……ところで、エルピス国での一件は?」


 どことなく低い声でワイトが尋ねるとすぐさまアレクが回答した。


「リリーさんに依頼したのは一つは実力を測定したかったためですね。断片的ではありますが、赤い聖域と思しき力の発現も確認出来ましたし……。母からの要望でマナ頼みで危機感の薄いエルピス国の輩にお灸を据えるという目的も達成しましたしね。最近、マナタンクなるものが完成したらしく……あ、これ、国家機密なのでご内密に」

「リリーの話から察するに、結構な危機だったみたいだけどな……アレクさんや……お前、サイコパスって言われない?」

「サイコパスってそんな……愛ゆえに民には強くあってほしいのですよ」

「……王族がサイコパスって国民は大変だな」


 そう言ってワイトは試されるエルピス国民のことを憂いつつ、もう一つの疑問をぶつける。


「嘆きの森って結構広いから出会わない確率もかなり高いと思うんだけど、事前に話を通しておくとか出来なかったのか?」

「そこはまあ……普通に引き合わせるだけじゃ、何かつまらなくない? こう偶然によるドラマティックな展開が……ね?」

「よし、分かった。とりあえず、お前らは一回リリーに怒られろ。仕方のないこととはいえ、自分の人生が誰かの手のひらの上でころがされているってのはあまり良い気分じゃねーぞ?」

「……私も同感ですわ。ドン引きです」

「それに、リリーは父親の件もあるんだ。まさか、エルピス国での一件が片付いた後に上空に見えたっていう屍竜もてめぇらがやったのか? やってねぇよな?」

鉄兜を被っている関係上、表情は分からない。

しかし、かつて見せたことのない剣幕で、二人を問い詰める。


「それはやっていません。リリーさんは、確かに父親を見たのだと思います。そして、こちらの目的を果たした以上、彼女の願いには寄り添うつもりです」

「ワイトの言う通りだと思う。そうよね、人の人生をあれこれいじられていい気持ちにはならないわよね……ごめんなさい、反省します。リリーちゃんにもしっかり謝ります。でも、今のあなたちょっとだけ、ゼロみたいだった」

「ゼロみたいとは……?」

「ゼロはね、ツムギに対して過保護な一面があったの。どうしてかは結局、最後まで教えてくれなかったけど、多分、特別な存在だったのだと思う」

「なるほどな、ウェルタースオリジナルってことか」

「うん、それはちょっとよく分からないけど、そういうこと」


 ワイトの相変わらず理解不能な返しを軽く受け流し、アレクに転移ポータルの状況を尋ねる。


「ポータルの生成は?」

「準備は完了してますよ、いつでも繋げます」

「そう。それじゃあ、行きますか」


目の前の両者を交互に見て言った。


「おう!」

「はい!」


 ワイトはともかくとして、メリアからも威勢の良い返事が聞こえた。

無二の友を助けに行く。

その意志に一切の揺らぎは無さそうに思える。


 今から殴り込みを仕掛けるのは紛うことなき敵地であり、何が起こるのか想像が付かない。

それにもかかわらず、怖気を見せず、気丈にいられるのは強さの証だ。

何があっても守ってやらないと……とティターニアは心の中に留めておいた。


「僕は非戦闘員なので、殴り込みのサポートで。爺やは念の為に見張りをしてもらえるかい?」

「この老体で役に立つのであれば、何なりとお使いください」

「それじゃ、繋ぎますよ」

アレクがそう言うと、星型になるように壁に貼り付けられた複数の紙の中心に半透明の膜のようなものが浮かび上がり、程なくすると、その膜は水色に変わり渦を巻いている。


いつでも突入できる準備が整った。

突入前の最後のブリーフィングを話す。


「……中に入ったら、いきなり戦闘になる可能性が高い。先に言っておくけど、私達の目的はリリーちゃんの救出よ。勝てるという保証がない以上、この優先事項だけは死守してね」

「ええ、分かりましたわ」

「了解したぜ」


3人は互いに頷き合った。

そんな彼らを見てアレクが言った。


「ゲートはキープしておくので、やばいと思ったら離脱を」

「皆様方がお勤めを果たせるよう、私は警戒しております」


 どこからか持ち出してきた剣を地面に突き刺すと、水面に落ちた雫のように波紋が広がっていく。

「これは……?」と首を傾げるメリア。

アレクはメリアの疑問に答える。


「爺やの探知領域だよ。悪意に反応するから、危害を加えようとしたものがこの領域に足を踏み入れたら、剣霊が自動で攻撃を加える。守りは万全なので、こっちの心配はしなくて大丈夫です。リリーさんのこと、頼みましたよ」


「というわけで……いくわよ」

「はい」

「あぁ」


ワイト、ティターニア、メリアの3人は同時に転移ポータルに足を踏み入れた。

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