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62話

「――――カイン!?」


 その目はひどく虚ろであり、焦点が定まっていない。

面識はあるはずなのだが、その様子は皆無だった。


「何をどうやったのかは不明ですが、私のとっておきの鎧をダメにしちゃいましてねぇ……。仕方がないから再度拘束して、魔術の実験に使ってみました。死んでも問題はなかったのですが、まさか、成功するとはね。まあ、彼は力を欲していましたからね。今の現状に心底、満足していることでしょう」


 淡々と話す男にリリーは強い嫌悪感を抱く。

要はこのように言っているのだ。

死んでもおかしくない人体実験を行ったのだと。


「自分のしたことが分かっているのですか?」

「勿論、承知ですとも。そもそも、コレは遅かれ早かれ、王都を混乱に陥れた罪で死罪になるでしょうから、歴とした有効活用ですよ。使えるものは使っておく。何が悪いのでしょう?」

「世の中にはいろんな人がいると思うのですが、あなたのような下劣な人は初めてです」

「はっはっは、それは些か、心外ですなぁ。わたしなんてまだまだ可愛いと思いますよ。実の父親に手をかけるような非道な人間も世の中には、いるようですからねぇ。ましてや、その罪を許されようなどと思い上がる大間抜けが……ね?」

「何故、それを――――」

「三人で三流の見せ物をしていたではありませんか? いやぁ、見ていて非常につまらなかった。さっさとあなたをこちらに転送すればよかったと後悔しているところです」

「……人の神経を逆撫でにするのがお得意なようですが、わたしはそう甘くはないですよ」

「そうですか。では、少し昔話でもいかがでしょうか。それは昔、ある幸せな一家がありました。父と母と、歳の近い姉妹の四人家族だったのですが、ある夜、外から差し込んだ強い光を不可思議に思った父親が外に出ると、まあ、大変、父親の姿はみるみると変貌していき、終いには屍竜へと姿を変えてしまいました――――」

「お前……!!!!!!」


 その言葉に明確な殺意が込められる。

ある事に気付いたからだ。


 リリーは父の行方を探すために、冒険者になった初めの頃、屍竜の情報を集めていた。

ある冒険者が言った。

『どうして、いきなり屍竜を?』

彼女は答えた。

『父が屍竜へと変わってしまって――――』

その話をすると、皆が皆、まるで可愛そうなものを見るかのような視線を向けてきた。

その視線が嫌で、ある日から、その話をするのをやめた。


 目の前のローブの男は、リリーの父親が屍竜へと変貌したのを知っている。

それは、偶々、その場に居合わせたのか。

それとも、つい先程、メリアに話していた内容を聞いてからなのか。


――――否、そのどちらでもない。


 この男は素より知っていたのだ。

だからこそ、リリーしか知り得ない情報を持っていた。


一度も話していない事実。

時折、悪夢となって今でも彼女に襲いかかる、()()()によって屍竜と化した事実を目の前の男は知っていた。


それはつまり、あの時、あの場にいたからという証左に他ならない。


「随分、いい顔になってきたじゃないですか。ちなみになのですが、アレを仕組んだのが私だとしたらどうします?」

「黙れ……!!!!!!」

「さらに補足しますとね。あの光は神化の光と言いましてね、下等な人間を神に匹敵する存在へと昇華させる光だったのです。貴方の母親は半覚醒で、妹は逸材でしたが、だが貴方の父親は……ははっ。てんでダメでしてね。まさにゴミクズといったところでしょうか。まあ、だから、あんな無様な屍竜なんぞに――――」


 リリーの怒りはとうに臨界点を超えていた。

ラーヴァテインを身に纏って、剥き出しの殺意のまま、ローブの男へと飛びかかる。


「キサマあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「はっはっは、愉快愉快!!!!!!!!!」


 カインを盾にし、何処かへと消え失せる男。

うめき声を上げながら、その場にうずくまるカイン。


「あらあらあら、罪のないものが犠牲に……ひどいことをしますねぇ……」

「お前が言うなぁああああああああああああああああああ!!!!」

「そうやって、貴方は自身の欲求のために罪のない人間を傷つけて行くのでしょうね。これからも」

「……お前だけは殺す」

「それは殺せるだけの力がある者が言うセリフですよ?」


 途端、背後から声が聞こえた。

いつの間にか背後に回られていた。

慌てて体を反転させる。


そして、見てしまった――――


あの日の光を――――


全ての日常を終わらせてしまったあの光を――――


正面からもろに浴びてしまったのだ。


「あ、ぐ……うあぁぁ……」


 リリーの身体が強烈に熱を帯び始める。

自身の身体で何か異変が起こりつつあるのを感じた。


「全く、あの程度の煽りで簡単に乗っかるとは聞いて呆れる……。少しは警戒していたというのに……。所詮はあの女神の力が漏れ出していただけに過ぎなかった……ということですかねぇ……」


 嘆くローブの男の視線の先には顔を手で抑えて、覚束ない足取りでフラフラと彷徨うリリーの姿が。


「アアアアアアア!!!!!!!!!!」


 突如、悲痛な叫びを上げる少女の背中から服を引き裂き竜の翼が姿を現し、頭部からは双角が露出した。

肉体は肥大化し、人ではない何かへと変異しようとしていた。


 その過程でアゲハ蝶の髪留めが外れてしまい、地面に落ちてカランと音を立てる。

リリーは人間の形を留めているが、一切微動だにしなかった。

その佇まいからは生きているかどうかも判断ができなかった。

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