59話
「リリー・スカーレットの舎弟たるもの……常人には務まらないと思っておりましたが、なるほどそう来ましたか」
実は驚いていたという風でもなく、妙に腑に落ちた様子のメリア。
そして、アレクの方はというと。
「見た目は本当にスケルトンなんですけどねぇ……。よく負のエネルギーに意識を飲まれませんね?」
どことなく感心している様子であった。
それはあたかも最初から知っているかのような反応である。
この反応にティターニアの補足が入る。
「あー……実はアレクはワイトの正体については既に知ってたのよ。私が事前に話していたからね」
「何だ、知ってたのかよ。もっと大きなリアクションが欲しかったんだけどなぁ……。ま、正体晒していきなり殴ってくるどこぞの暴力シスターよりかは、マ・シ・か」
なんだかニヤニヤしていそうな視線でリリーを見下ろすワイト。
「あれは仕方ないでしょう! 正当防衛です!」
そう言って両手をぶんぶんと上下させているリリーの傍らで、メリアが口を開いた。
「アレクさんの言うとおり、見た感じは確かにスケルトンに代表される骨系のアンデッドですが……その中身はそうではないというのはわかりますわ。そうじゃないと、わたくしの聖域の糧になっているはずですもの」
「確かにその通りよ、メリアちゃん。スノウローズ家の“雪薔薇”は範囲内に存在する負のエネルギーを無条件に浄化する能力だから、この骨太郎だってその対象になってもおかしくはない」
ティターニアの声を受けて、メリアが続ける。
「けれども、対象にならないということは、負のエネルギーそのものが抜け切っており今見えているそれはガワのみだということになりますわね? となると、この殿方は……何者かによって不幸にもアンデッドにされてしまいましたが、負のエネルギーの浄化はすでに済んでいるということになるのでしょうか?」
「8割方正解よ。やるわね」
そう言って、拍手を送る中、一人の人間が近づく。
「ご歓談の最中、失礼いたします。こちら、キングコカトリスの丸焼きでございます」
黒いタキシードに身を包んだ初老のウエイターが黄金に輝く大きな鳥の丸焼きを豪勢なお盆に乗せて一同の前に現れた。
「デカすぎんだろ!! 何人分あるんだこれ!? 十人分ぐらいあるんじゃねぇか!?」
「そうですわね……わたくし達だけで食べ切れるでしょうか……」
ワイトとメリアはそのサイズにただただ驚いている。
「メリアちゃん、その辺は心配しなくても良いのよ。残った分はお姉さんが全部食べるから」
「残った分はわたしも食べますので!」
「あら、リリーちゃんも結構食べれるのね」
「大丈夫です! それに、こんなに大きな鶏肉はそうそう食べれないですからね!」
「これは、アレだね。……余る心配は無さそうだ」と言って、アレクは微笑んでいる。
一同が話をしている最中もウエイターは丁寧な仕草で、その肉を切り分けていくと小皿に移して各人の前に置いていった。
「では、ごゆるりとお寛ぎくださいませ」
「あぁ、爺や、ありがとう」
「この老体めには勿体無きお言葉でございます… …」
アレクから爺やと呼ばれたウエイターは深々とお辞儀をして、カウンターへと戻っていった。
「アレクさん……爺やって……」
「あぁ、でも、血縁関係は無いんですよ」
「どういうことだ?」
「母が冒険者をやっていた時のパーティーメンバーでして……何を思ったか幼い僕は彼に"爺や"というあだ名を付けましてね。それが今でも続いているわけです。彼は凄腕の冒険者だったのですが、引退した今ではこのように小さな酒場を切り盛りしているんですよ」
「良い人生送っているじゃない」
「そう、言われると爺やも浮かばれると思います。その時のメンバーには、母と爺やと……あともう一人、いたのですが――――」
アレクはリリーを一瞥すると思うと、話を続けた。
「んー、ちょっと、名前が思い出せませんね。お酒が入ってしまったからでしょうか」
「お酒飲んでねぇけどな?」
「ハハハ!! そうでしたね!! というか、早く食べましょうよ! 出来立てが一番おいしいんですから!」
アレクはそういうと、切り分けられた肉の一片を上品な仕草で口元にまで運び頬張った。
王族の生まれなため、テーブルマナーを心得ていることが見て取れる。
「うん! やっぱり、うまい!」
それが引き金になったのか。
他の面々も次から次へと肉を口の中へと放り込んでいく。
「うまい!」
「焼き加減がパーフェクトですわ……。こんな逸材がいたなんて……只者じゃありませんわね……」
「元冒険者らしいですから、もしかすると料理の腕も磨いていたのではないかと」
「やっぱり、お酒がないと寂しいですね! ちょっと、爺やに頼んできます! あ、未成年の皆さんはジュースで」




