58話
大通りから少し外れたこぢんまりとした小さな酒場<ブルーオーシャン>の店内。
リリー、ワイト、メリアの三人がテーブルを囲み、アレクとティターニアの二人は少し外れた席に腰掛けていた。
当初は冒険者協会2階の酒場に行こうという話もあり冒険者協会の前まで行ったが、外にまで響く豪快な笑い声やら怒号やらドタバタした騒音と鼻につく酒の匂い。
察するに、冒険者協会でも祝勝会を開いているようだった。
さすがに、メリアとリリーをここに連れて行くのは色々とマズいという雰囲気が一同の中に生まれて、アレクが「他のところにしますか……母の行きつけの酒場が、ちょうど、この辺りだったはずなので」と別の酒場を案内したのだった。
◯
「しかし、今回の襲撃を企てた者の目的は一体、何だったのでしょうか……?」とリリーが口走る。
「一連のアンデッド騒動とバルログの召喚……。王都の戦力が向こうの想像を上回っていたのか。それとも、別の理由があったのか……それはまあ、再び、あの男をとっ捕まえて吐かせれば分かることでしょう」
「カインのことだな? どこに転移したかさっぱりだから、調べようがない気がするが、ま、鍵は握っているわな」
三人はテーブルに並べられた色とりどりの料理を頬張りながら、この事件の考察を行なっていた。
その最中、リリーはふと、アレクとティターニアを見やる。
俯いたままコクンコクンと頭を揺らすティターニアとそんな彼女に向かって何かを話すアレクが見えた。
料理の類は何も置かれていない。
何の話をしているか分からないが、少なくとも、楽しい話ではないのだろう。
せっかく、酒場に来たのだから、おいしいものを食べた方が良い。
そうに決まっている。
リリーは意を決して、席を立った。
「どうしましたの。リリー・スカーレット?」
「ちょっと、席を離れますね」
そう言うと、リリーはティターニアとアレクの座るテーブルに向かった。
アレクの視界の端で、誰かがこちらに来ているのが見えたため、そちらに視線を移す。
「リリーさん? どうされました?」
「あら、リリーちゃん、どうしたの?」
アレクはともかく、ケロッとしたティターニアの様子に言わんとしていたことが頭から抜けてしまった。
リリーの脳内では、アレクがティターニアの失敗を咎め、説教をしているように見えていたのだが、この様子から察するにそうではなかったらしい。
「あ、いや、何でも……」と言い淀むリリーを見かねて、少し離れた席からワイトが言う。
「リリーはな。こう言いたいんだよ。飲み屋に来て飯も酒も頼まずに何をずっと辛気臭い顔してくっちゃべってるんだ。べらぼうめってな」
「そうは言っていません!」
自分を気にかけてくれたのね……とリリーの優しさに触れつつ、アレクに対して一転攻勢を仕掛ける。
「あぁ、なるほど、そういうことね……。アレクくんさぁ。説教臭いってよく人から言われない?」
「僕の記憶の中ではそう言われたことはないですね。まあ、話が長いと言われることはよくありますが」
「それ、直した方が良いと思うなあ。お姉さんは」
あるワードに対して、強烈な違和感を覚えたワイトは思っていることがそのまま口に出てしまった。
「お前、お姉さんとかいう年か。どちらかというと、おば」
「それ以上言ったら、どうなるか分かるわよ、ね?」
「命の危機を感じた。いや、もう死んでるか(笑)」
「死んでる……とは何かの冗談ですの?」
「あ、やべ」
これ以上ないぐらいに、ギャグが上手く決まったと心のなかで自画自賛していたワイトだったが、それは同時に、メリアの疑問を産んでしまった。
もちろん、誤魔化すことも出来るが――――
何を思い立ったか、ワイトは突然、リリーに視線を移す。
(どうして、こちらを見るのでしょうか!?)
鉄兜を被っているため、表情は分からないというか取ったところで表情は分からないのだが、おそらくワイトは自身の正体がバレることをそこまで深く考えていないとリリーは察した。
それよりも、このまま秘密にしておくのはなんだかモヤモヤとした感じがある。
さっきから暴露の連続であるため、この流れに乗じてワイトの正体を明かしても良いのではないか。
メリアは良い人間であるし、幸いここは、小さな酒場であり、他にお客さんはいない。
だったらーーーー
そう思って、ワイトに耳打ちをする。
「ワイト……メリアさんに正体を明かそうと考えているのですが……」
「うん、お前ならそう言うと思ってた。ってなわけでぇー皆さん、重大発表がありまぁす!」
ワイトが勢いよく立ち上がると、その勢いのまま、鉄兜を取り去ろうとする。
「ちょ、いきなり!?」とリリーは慌てるが、その正体が明らかになる。
そこにあるのは人間の頭部ではなく、白骨の頭蓋骨。
「実は俺、アンデッドでしたァァ!!!!!!!!!!」と声高々に発表する。
「ええええええええええ」という驚嘆の声を期待していたワイトであったが、実際にはその姿に対して驚く声はどこからも聞こえないどころか、あまりの静けさに声を張り上げた自分の声が脳内に反響する始末。
その静けさの中で、メリアは冷静な口ぶりで言った。




