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57話

 突如、「トーウッ!!」と掛け声が聞こえたかと思うと、目の前のいたワイトが高速で接近した何者かのドロップキックにより二人の視界から消え失せた。


「はい、たった今、乙女の秘密をバラした愚か者に天誅を下しました。二人とも、この事は他言無用で★」


 ティターニアはにっこりと注意を促した。

リリーとメリアの二人は目を合わせ、次に飛ばされていった哀れな骨太郎を思い返し、絶対に漏らしてはいけないと強く心に銘じた。


 だが、一つ気になったことがある。

何故、二人なのか。

この場にはアレクもいるため、”三人”でないとおかしいのだが。


「どうして、二人なのでしょう。アレクさんを含めれば、三人のはずなのですが……」

「それはまあ……アレク()()は、私の正体知っているからね。パイプ繋がっているし」

「えええええええええええええええええええええええええ」


リリーが本日二回目の絶叫をする中、メリアは戸惑いを隠せずにいた。


「わたくしの聞き間違いでしょうか。今、そちらの殿方、王子? 今、王子って言いましたわよね? 一体、どちらの?」

「ティターニアさん……」


 アレクからの恨めしさと抗議の視線をもろに受けるティターニア。

どのようにしてこの窮地を凌ぎ切るか頭をフル回転させたところ突破口を見つけたのか。

ティターニアは捲し立てるように弁解する。


「なんっの問題もないわ! だって、この場で知らないのはメリアちゃんだけでしょ? それは可哀そうだと思わない? 仲良しグループで自分だけ知らないことがあるのってなんだかとっても悲しい気持ちになると思うの? 思うでしょ? でしょ?」

「すごく言い訳がましいですが、一理あります。リリーさんのご友人であるのなら、まあ問題ないでしょう……」


 そう言ってアレクはメリアに向かって自己紹介を始めた。

「僕はエルピス国の第一王子、アレク=パンドラーズ=エルピスと申します。この国にはお忍びで留学しておりまして……」

「失礼を承知でお伺いしますが、留学というのは表向きの事情なのでは?」


 直前までの和やかな雰囲気が一変し、空気が張り詰めるのが分かる。

常に微笑を崩さないアレクから笑みが消えていた。

それは偏に、目の前にいる金髪の少女の指摘が鋭かったためだ。


「成程、何故、そのようにお思いになるのでしょう?」

「ただの留学で、精霊の女王と繋がるラインが見つかるとは思えません。おそらく、精霊の女王と繋がったからこそ、この国に潜り込む必要があったのではないかとわたくしは思うのです」

「聡明ですね。ですが、それに対する回答はノーコメントとさせていただきます」

「分かりました。では、この質問にだけは答えてください」

「どうぞ」

「貴方の目的はこの国の平穏を脅かすものでしょうか?」

「それに関しては答えましょう。答えはノーです。むしろ、平穏を護るためとも言えましょうか」


 メリアが見つめるのはアレクの瞳。そこに嘘らしきものは見えない。

あれは本心を話している人の目だ。


「その答えを聞いて、安心しました。良い関係が築けそうです」

「僕の言葉を信じていただけたようでありがとうございます」


 カインは友好の証と言わんばかりに、右手をメリアに差し出した。

その手を一切の戸惑いなく掴んだ。

その時、「いってぇなぁ……」とボヤきながら腰をさする男が。

ややあって吹っ飛ばされたワイトが戻って来たのだ。


ワイトは握手している二人を見て、率直に尋ねた。


「何これ、どういう状況?」


「それはですねーーーー」

そう言って、リリーは事の経緯を掻い摘んで話す。



「あぁ、友情が芽生えたってことね。おけおけ、ってか、王子かよ! お前!」

「黙ってて申し訳ないですが、そういうことですね……」


 両手を合わせて、軽く頭を下げたかと思うと、人差し指を口に当てて「くれぐれもご内密にお願いします」と付け加える。


「ああ、そりゃあ、そうだよな。一国の王子が別の国に来てると分かったら何が起こるか分からないしな」


そこで、ティターニアが口を挟んだ。


「だけど、大丈夫かしら。ポロっと秘密をバラしちゃうような奴にそんな話をして」

「確かに、それはそうですがーーーー果たして貴方がそれを言いますか……?」


 抗議の視線を再び受けるティターニア。

アレクの口調は穏やかではあるが、そこに隠れた棘の存在に気付かないほどティターニアは愚かではない。

どうにかして、この場を取り繕う手段はないものかと再び頭を回転させたところ、今回も妙案を思い付いた。


「……あ、そうだ! 良いこと考えたわ! 今から、祝勝会にしましょう! バルログ撃退おめでとう祝勝会! 積もる話もいっぱいあるでしょうから! ほら、早く行きましょ! 行きましょ!」

「えっ」

「ちょっと」


 呆気に取られる少女二人の手を握って酒場目掛けて繰り出していった。

こうなってしまっては、付いて行かないわけにはいかない。

ワイトとアレクの二人も、仕方なく三人の跡を追った。

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