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55話

 気合を込めて渾身の一撃を繰り出したリリー。

拳から黒い炎が燃え移り、肉塊を包み込むが、破壊するまでに至らない。

それならば、もう一度ぶちかませばいいと言わんばかりに続けざまに左の拳を叩き込む。


 アレクは興味深そうに、目を凝らして眺めていた。


「やっぱり、この魔法陣、少し神性を帯びていますね。リリーさんが何故、赤い聖域と呼ばれていたのか。腑に落ちました」

「赤い聖域……か。リリーにそのような二つ名があるのは俺は知っていた。そう呼んでいるやつが多くいたからな。だけど、なんか……ずっと昔にも同じ二つ名を有した誰かがいたような気がするんだ」

「それは気のせいではないかもしれないですね」

「ん? それはどういう――――」


 ワイトがアレクに視線を移すと、「グオアアアアアアアアアアア!!!!」と、耳を劈く、幾重にも重なった悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。

 どうやら、その叫びはリリーの拳が遂に肉塊の芯を捉えた際の断末魔であり、程なくして目の前の肉塊は黒い塵となって消失した。


「意外と硬かったのが予想外でしたが、なんとか片付きました……。これで一件落着ですね……」

額を拭いながら、どことなくスッキリした表情でリリーは言った。

「お疲れ様です。助かりました!」

「おつかれー!」


 二人も口々に労いの言葉をかける。

 これ以降は新たにアンデッドが召喚されることはなく、残存しているものを消滅させれば万事解決する――――はずだった。


「いや、まさか――――」と突然、血相を変えて、外へと走り出したアレク。

「なんだ?」

「どうしたんですか!?」


 二人は何が起こったのか理解できないまま、アレクの後を追う。


 アレクは険しい表情で空を見上げていた。

「やられました……アレを見て下さい」


 王都上空。

 曇天の中、浮かび上がるのは禍々しいオーラを放つ5つの魔法陣。

それらの魔法陣から同時に、黒と灰色の体色をした何かがぬるりと出現した。


「あれは――――」

「バルログじゃねぇか!」

「破壊をフラグに起動する召喚式があります。間違いなくあのコアに仕掛けられていたのでしょうが、嫌な気分ですね……。それを仕掛けるということは、破壊されることは承知の上。まるで何者かの手の平の上で転がされているようです……」


 考えを巡らせているアレクにリリーは話し掛ける。

 確かめなければならないことがあったからだ。


「一つだけ確認させて下さい……アンデッドの出現はもう止まったのですか?」

「コアを破壊したので、その心配はありません。残っているアンデッドも大したものはいないでしょう。ただ――――」


 それを聞いてリリーは一安心した。

 日はもう夕暮れに差し掛かっていたが、もうアンデッドが王都内で出現することはない。

日の届かない夜まで戦闘が長引くという最悪の事態を免れることが出来たからだ。

ただし、新たな問題が浮上した。


「あの5体のバルログをどうするか……ということですよね?」

「そういうことになりますね……」

「だったら、やることは決まっているな」


 その矢先、王都上空に出現した5体が雄叫びを上げながら、各方面に散り散りに飛んで行った。

中央の王城に1体、西の居住区に2体、南の商業区に1体、そして――――

「あそこに1体が!」とリリーは叫んだ。


 肉眼でも姿を捉えられるところにバルログが急降下するのが見えた。


「あー……あそこって東の居住区だったよな……」


 ワイトはそう言って、真っ先に走り出した。

その後を、リリーとカインの二人も追う。



「ってもうこのバルログ倒されてんじゃん……? まだ見ぬ猛者がいるということか?」

「いくらなんでも早すぎませんか?」

「いや……これは母の仕業かと」


 そんなバカなという二人の視線がアレクに注がれる。


「アレクさん……わたしの聞き間違いだと思うのですが、今、母と言いましたか?」

「それとも、()()っていう名前の誰かか?」

「いえ、正真正銘の母です。マザーです」

「お前の母ちゃん……何者だよ……。俺もバルログとはつい最近、やりあったから分かるけど……簡単な倒されるようなやつじゃないよ、こいつ?」

「しかも、ワイトのは分身でしたからね……。これ、どう考えても実体がありますし……」

「ほら、母は強しって言うじゃないですか?」


 カインはにこやかな笑みでそう言うが、世間一般的な母はバルログは倒せないとリリーは思っていた。

おまけに、カインの母はエルピス国の妃に当たる人物だ。

そのような者がバルログを短時間で仕留めてしまう……。

以前から、気になってはいたが本当にどんな人物なのかが気になって仕方がない。


「カインの母親がとんでもない猛者というのは一旦置いておいてだな……。他にもバルログが散っているからここからは二手に分かれようと思う」

「具体的には?」とリリーが尋ねる。

「俺はとりあえず、王城に向かった奴を仕留めたい……まぁ、もしかするともう撃退済みかもしれないが……」

「用心に越したことはありませんから……ワイトさんにはそちらに行ってもらった方が得策でしょうね……では、私はリリーさんと一緒に南の商業区へ?」

「そんな感じで頼む! それじゃ!」


次の瞬間、ワイトの身体が浮いたかと思うと、そのまま王城目掛けて飛んで行った。


「では、我々も行きますか」

「そうですね……」

「どうしたのですか? どこか浮かない表情ですが……」

「いや、その……以前、バルログと対峙したのですが、私では相手にならなかったので……」


 リリーは廃坑での一見でバルログと一度戦っているわけだが、その時、敗北を喫してしまっている。

あの時、ワイトの使役する風の精霊の力で離脱出来たから良かったものの、一人ではおそらく死んでいただろう。

戦える力のある自分が行かなければいけないというのは分かるし、人を助けたいという気持ちもある。

だが、行ったところで足手まといになるだけなのではと葛藤していた。

そんなリリーをアレクは大きな声で笑い飛ばした。


「ハッハッハ! 大丈夫ですよ! なにもリリーさんだけでタイマンをしろと言っているわけではないんです! 王都には他の冒険者、騎士団もいますから。何ならもう片付いているかもしれません。母がもう既に一体、片付けているのを考えたら、僕たちの出番はもう無いかもしれないですね」


 アレクの話を聞いていると、不意にメリアの姿がチラついた。

 彼女も戦っている。

それなら、自分も頑張らないといけないし、怖気付いている時間は無い。

リリーは気合を入れ直すかのように両頬をバシっと叩いた。


「すいません、ありがとうございます。もう大丈夫です。行きましょう!」


その後、リリーはアレクと共に南の商業区に向けて走り出した。

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