54話
リリーが破壊した民家の壁の先は、板張りの廊下に繋がっていた。
どれだけの年数が経過しているのかは散乱した瓦礫のため、よく分からない。
そんな中、家の中へと先行しようとするアレクとワイト。
リリーは思わず呼び止める。
「そうやって不用心に入って大丈夫なんですか!?」
「大丈夫大丈夫、妨害があるならもうされてるはずだし、その辺、アレクはどう思うよ?」
「僕も同意見ですね。すんなりと中に入れたというのがちょっとだけ、引っかかりますが、おそらく問題はないかと」
「そういう油断が命取りになるのですよ! 分かってますか!」
リリーの言うことは至極真っ当であったが、ワイトは後ろを振り返るといかにもニヤついていそうな声色で答えた。
「それを言うんだったら、壁を壊す時にもうちょっと躊躇しても良かったんじゃないかなーとワイトさんは思います」
「ぐぬぬ……それは確かに……軽率だったかもしれません……」
「まあ……穴をぶちあける判断をしたのは僕ですからね、外壁にトラップの類が無いことは調査済みでしたから。ただ――――」
アレクは民家に足を踏み入れる一歩前で立ち止まったため、つられて二人も足を止めた。
「中まではしっかり精査出来ていません。不用心に入るなというリリーさんの意見が正しいかもしれませんね」
「ですよ、ね!!」と小さくガッツポーズを取るリリーに対して、ワイトは落胆したかのように肩を落とす。
「何……だと……アレクは俺の味方ではなかったのか!?」
「アハハ、ほんの少し前に、僕は言ったはずですよ。土壇場で裏切るかもしれませんよ……と」
「カッカッカ、なるほど、こいつは一本取られたな。けど、土壇場ってのはおかしくないか?」
「それは言葉の綾というものですよ」
そう言って、笑い合いながら、不用心にも廊下へと足を踏み入れるだけに留まらず、迷うことなく左の廊下へと進んでいった二人。
そんな二人をリリーはその場に立ち尽くしながら、遥か遠くにあるものを見るような目付きで眺めていたが、程なくして我を取り戻し、後に付いていった。
◯
廊下を進んでいった先にある部屋の前で三人は立ち止まっている。
そこには何の変哲もないドアがあるが、その先から負のエネルギーに等しい力が漏れているのをワイトは感じ取っていた。
「おそらく、この部屋が当たりだな」
「僕も同意見ですね」
「お二人がそう言うのであれば……。まあ、わたしはさっぱりなので――――」
「満場一致ってことでいいかね」とワイトが締めると、カインがおもむろに片手を扉に当てた。
(何をしているのだろう……?)
そう、リリーが不思議そうな目で見ていると、ワイトも同じことを思っていたようで聞いてくれた。
「何しているんだ……?」
「これは扉にトラップが無いか精査しています。扉を開けたら即爆発なんて事態は避けたいですからね」
「ということは、この家の外壁を調べた時と同じように?」
「そういうことになりますね。――――そして、今回もどうやら、トラップは仕掛けられていないようです」
アレクは手を離すと、そのままドアノブに手をかけて扉を開けると一足先に中に入ったかと思うと、「これは……」と絶句した声が漏れてきた。
ワイトとリリーは互いに見合わせるとすぐさま中に入り、そして、口々に言い放つ。
「なかなかにグロい」
「これはまた冒涜的な肉団子……」
そこにあったのは、赤黒く発光する肉塊が部屋一杯に存在していた。
直径は約2メートルほどだろうか。
ドクンドクンと鼓動しており、何かの心臓のようにも見える。
アレクは二人の方を向きながら、肉塊を指さす。
「僕の見立てでは、おそらく、これが王都を混乱に落とし入れている元凶であり、アンデッド召喚コアだと思うのですが……なんだかあっさりしすぎているような……罠なんじゃなかなってちょっと勘繰ってしまいますね……」
「俺も同感だ。これがアンデッド騒動の元凶という点も罠の可能性もな」
目の前の召喚コアを破壊すればアンデッドの召喚は止まるという二人の認識は一致している。
ただ、ひとつだけ腑に落ちない点は、やはり、あまりにも妨害がなさすぎるという点だ。
確かに、これは入り口の無い家に隠されていた。
だが、その家の壁は簡単に砕くことが出来、番人のような存在もいない。
あまりにも怪しすぎるのだ。
そこにはまるで、わざと破壊させようという何者かの意図があるかのように……。
「何かしらの罠の可能性は懸念点です。ですが、これを破壊しない限り、王都内のアンデッドを消滅することは難しいでしょうし、日没を迎えれば想定出来る最悪の状況となります」
「なら、破壊するしかないんだよなぁ……」
そう言って、ワイトは出番ですよと言わんばかりにリリーに視線を向ける。
リリーはその意図を知ってか知らずか、軽く頷くと口を開いた。
「確かに、今回は適材適所だと思います……。これはどう見たってアンデッドですしね……」
そう呟き、気持ちを入れ替える。
「我が拳……我が躰……業火と化せ……『ラーヴァテイン』」
胸から噴き出した黒い炎はリリーの右腕に集約した。
アレクはその姿を見て、鼻息を荒げる。
「おお! これがあの黒い炎ですねー!! 実物を見るのは初めてです! ちょっと、触れても――――」
「え、えぇ!? たぶん、問題はないと思いますが、触れないに越したことはないと思います。何かが起こっても保証は出来ないので……」
「あ……すいません、冗談です。年端もいかない女性に軽々しく触れようものなら母から何をされてしまうか、ハハハ……」
乾いた笑いを浮かべるアレク。
ワイトはそんな彼に同情気味に言葉を投げかける。
「どこの家庭もおかんが一番強いってことか。あんたも色々、大変なんだな……」
「そうですね……。大変といえば大変ですかねぇ……」
「あの、そろそろやってもいいですか?」
「「あ、どうぞどうぞ」」
二人がハモったのをスタートの合図と捉え、リリーは目の前の肉塊に正対して、拳を引いた。
直後、足元に展開されるのは赤い輝きの大魔法陣。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」




