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51話

 某所にてカインは目を覚ます。


  カインはメリアの追及から逃れようと、ローブの男からいざという時に使用するようにと言付けられていた虎の子の転移の術符(スクロール)を使用した結果、気分の悪さを覚えて気を失っていた。


 次に目を覚ました時には、薄暗い部屋にいた。

 時間がどれほど経過しているのかは分からないが、どうやら、転移には成功したらしい。


 照明の類は天井にランタンが吊り下げられているのみだが、いささか光量が少なく部屋全体が薄暗い。

目の前には二つの椅子と簡素な木製テーブルがあった。


 ここがどこなのかは皆目見当も付かない。

それに、外の音が異様なほど聞こえない。

余程、静かなところか、それとも自身のいる場所が地下なのか?

 とりあえず、周囲を伺おうとするが、それよりも早く、背後から男の声がした。


「おー。目覚めましたか」


ギョッとして振り向くとそこにいたのはローブの男だった。

カインは目の前の男に声を荒げる。


「……王都中がアンデッドだらけになっていて……一体、これはどういうことなんだ!」

「そりゃあ、アンデッド召喚の経路(パス)を繋いだのですから当然ですよ」


 鬼気迫る剣幕のカインとは対照的に、男は今更、何をと言わんばかりに冷めた口調で答えた。

その反応にカインから怒りの熱が下がっていく。


「当然って……いつそんなことを?」

「なるほど、貴方はお気付きになられていないようですから、教えて差し上げますが、経路(パス)を繋いだのは貴方なのですよ?」

「何を言っているのですか。僕にはそんなことは出来ませんよ……」


 善悪の問題ではなく、カインは魔術的な知識を有していないため、不可能なのだ。

 戸惑いを隠せない様子のカインに、男はにっこりと微笑みかけるが、ランタンの灯りに照らされたその顔はどこか恐ろしく見えた。


「そういえば、貴方にお渡しした剣がありましたよね。あれには元々転移術式が刻まれていましてね、それに付随してあちらとこちらを繋ぐパスを生成する術式も刻みました。転移の方はバレても仕方がないと思っていましたが、幸い、経路(パス)の方はバレなかったようですねぇ……」

「それが何だと言うんですか……?」

「察しが悪いのか、現実を認めたくないのか分かりませんが、簡単に説明すると、わたしが召喚したアンデッドをその剣で送り返すたびに経路が作成されていったわけです。つまり、アンデッドの通り道が出来ているというわけですね。それから、私達がいるこの部屋の二つ隣にアンデッドの召喚を受け持ったコアがあります。平時はこれが管理を行っておりますが、ただ、あまりにもパスを作成しすぎた影響で、ここ最近、システムで制御出来ないものが溢れてしまいましてねぇ……。まあ、今となってはもはやどうでもいい話ですが」

「最近、予定外のアンデッドが湧きだしていたのは……」

「間違いなく、それが原因ですよ。あなた、働き過ぎましたね。作成した経路から、いつ本番用のアンデッドを送り込もうかと考えておりましたが、貴方が計画をゲロってしまいましたので、ちょうど良い機会と思い、大放出させていただきました。おかげさまで王都は大混乱。いやぁ、実に楽しい」


 ローブの男は両手を広げながら、楽しげにクルクルと回り始めた。

明らかに常軌を逸しているその言動に、男の本性を垣間見たカインは問い詰める。


「そんなことをして何が楽しいんだ!」

「貴方がそれを言うんですか? 実行犯の貴方が?」

「それは――――」


 カインは言い淀む。

 否定したかったが、現に経路(パス)を繋いでしまったのは紛れもない事実だからだ。

俯いた哀れな青年を尻目に、ローブの男は満足した様子で言った。


「それじゃ、私はこれにてお暇するので」

「お暇って……。僕のことを見捨てるのか!?」

「そうは言われましても、私はアナタの身の安全まで保障した覚えはありませんので……」


 そう言ってカインに背を向けて、転移術式によりその場から消え去ろうとしたローブの男だったが、ふと、何かを思い出したようで、カインの方を振り返る。


「置き土産に貴方の来ている鎧の話でもしましょうか」

「鎧……? この鎧が何だと……」

「……その鎧はですね。私の試作品のひとつでしてね。()()()を養分にして強度が増していく鎧なのですよ。貴方でちょうど100人目です。おめでたいですね」

「な――――」


 男の言うことは質の悪い冗談だと思いたかったが、そうだと思える節がいくつもあった。

頭がボーっとしたり、1日中無気力で、何もしたくないと思うことが多くなったり――――

ただの疲れだと思っていたが、男に言うことは理に適っていた。


 カインは急いで、その鎧を脱ぎ去ろうとするが、なかなか脱げない。

 昨日は普通に脱げたはずなのに、不思議なことに脱げないのだ。

そんなカインの姿を滑稽なものを見るかのような眼差しを向けて男は言った。


「今から、脱ごうとしても無駄ですよ。たった今、着脱不可の状態に切り替えましたので。でもまあ、良いじゃないですか。このまま生きていてもこれほどの騒動を引き起こしているのですから、斬首刑……いや、首吊りでしたかな? まあ、とにかく、死は免れないでしょう。鎧に命を吸い尽くされるか、死刑に処されるか。遅くなるか早くなるかというだけです――――」


 その時、ドゴーンという爆発音が扉の外から鳴り響いた。


「……この爆発音は?」

「おやおや、思いの外早かったですねぇ」

「何を……?」

「コアの存在に気付いた者たちが侵入してきたということですな」

「爆発音がしたということは……ここは地下ではない?」

「あぁ、静かでしたから、そのように思っていたのかもしれないですね。ですが、それは間違い。遮音魔術を使っていたから静かだっただけで、ここは地上であり、それも王都内ですよ。イスラフィルのね」

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