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50話

 明るいとは思うが爽やかさはなくどちらかと言えばパッとしない感じの男の声。

これはワイトの声だとリリーは確信した。


「リリー、目的地が絞り込めたぜ。見た感じ何の変哲もない一軒家に偽装してやがった――――って、あら、そちらのお方は?」


 ワイトの視線が隣にいる好青年に向いた。


「あ、アレクさんです……」とリリーは簡潔に説明する。

 ワイトは信頼の出来る人間であるが、さすがに、本人の許可を取ることなく正体を明かしてしまうのは憚られたためだ。


「おけおけ、アレクさんね。何か考え事をしているみたいだけど、これは一体、どういう状況?」


 リリーは内心、ここまで簡潔で良いのかと心配になっていたが、幸いなことにワイトは特に気にすることもなく話を進めてきた。

ワイトに対して、未だ思考に耽るアレクの代わりに、彼から聞いた言葉をそのまま伝えた。


「どうも、このアンデッド騒動の召喚コアらしきものを見つけたとかで――――」

「ああ、なるほどな。カチコミに行くってことか?」

「かちこみ……?」


 その言葉の意味が分からず、首を傾げていると、いつの間にか考え事が終わっていたのか。

アレクが爽やかな笑みで答える。


「カチコミというのは殴り込みという意味ですよ、母がよく使ってました。それから、ワイトさんですか?」


 そういう意味だったのかと頷くリリーの傍ら、ワイトはアレクに視線を合わせる。


「ああ、そうだ。リリーの用心棒――――」


そう言い終わろうとしたが、こちらに向かって人差し指を向けるメリアの姿が一瞬、チラついた。


「いや、用心棒兼舎弟だ。よろしくな」

「ええ、よろしくお願いします。それから、私のことはアレクと呼び捨てで構いません」


 その奇妙な肩書きに対して一切、アレクは突っ込むことなく、笑顔で手を差しのべてきた。

ワイトは何の疑念も抱くことなく硬い握手を交わす。


「すまないな。コレは外してやるべきなんだろうけどな……」

そう言いながら、ガントレットをまじまじと見つめている。


「いやいや、良いんですよ! 何か事情があるのでしょうから! というより、そんな細かいことはどうでも良いのです! 手を差し出してきたからには握手を以て返す……その行為の方が大事でしょう?」

「……さてはあんた……いい奴だな……?」

「どうでしょう? もしかすると、土壇場で裏切るかもしれませんよ?」

「カッカッカ、冗談もうまいんだなぁ」

「ハハハ、そうですか? 母からはつまらないとよく言われるんですけどね……」


 男二人の間で和やかなムードが流れる中、目的を忘れてはいけないとリリーは呼び戻そうとする。


「あの、仲睦まじい会話は良いと思うのですが、早く行きませんか?」


 ムスッとした表情のリリーを見て、二人はそうだそうだと慌てて本題に入る。


「アレク、一つ、確認したいんだがお前が今から行こうとしていたのは……?」

「……ここからすぐですよ」


 そう言って、アレクが先陣を切って歩き出した。

二人はその後ろを付いていく。

それから程なくして、アレクが立ち止まり指をさした。


「あの家です」


 そこには、ワイトが言っていたような何の変哲もない民家が他の家に挟まれる形で存在していた。


「やっぱりか、そうだよなぁ。マナの流れ的に俺もこの家が怪しいと思っていたんだ」

わざとらしい口ぶりのワイトを見て、リリーの口から思わず言葉が飛び出る。


「ホントですかー?」

「いやいや、ここで、ウソ吐いてどうすんだ……」

「それもそうですね……」

「だろ?」


 取り留めもないことを言い合いながら、家の近くまで来ると、リリーがおかしな点に気付いた。


「あれ……この家、窓どころか入り口すらないような……?」


その家は白い壁に黒い屋根をしたそれ以外にこれといった特徴のない民家だが、リリーの言う通り、中に通じる入り口らしきものが見当たらない。


「それは俺も思っていたんだが、どこかに隠し扉でもあるのか……?」


 民家の白い壁を熱心に触りながらワイトは入口を探ろうとする。

 しかし、アレクから「魔術的な入口がないか調査したのですが、どうやらそういった入口は無いみたいで……」との返答が。


「あぁー……骨折り損のなんとやらってやつだな」とボヤきながら後ろを振り返ると、何故か険しい表情のリリーが言った。

「それもお得意のジョークですか?」


 目の前の少女が言わんとしていることが、分からず、はてなマークが浮かび上がるが、自身がつい数秒前に吐いた言葉を思い返すと、答えが自ずと分かった。


「いや、これは違うんだ。素で言っちまった。ほら、意図せずにダジャレを言うことってあるだろ!? そういうことだよ!」


 決して、冷たいギャグを言ったわけじゃないと必死に弁明する骨太郎をリリーはジトッとした目付きのままで一言で答えた。


「そうですか」


 そして、すぐさま、アレクへと視線を移し、話を元に戻す。


「――――ところで、どうやって、どうやってこの家の中に入るのですか?」と当然の疑問を投げかける。


 その問いに、にこやかに微笑みながら答えるアレク。


「入り口がなければ作ればいい……そう思いませんか?」

「まさか――――」

「ご想像の通りです。だから、母の助けが必要だったのですが――――では、お願いします」


 アレクは丁寧に頭を下げてから一歩下がった。

 二人のやりとりを見ていたワイトは、「リリー、頼んだ」とだけ言って、いやに丁寧なお辞儀をして、アレクの隣に並ぶ。


「なんでわたしなんですか!? まあいいですけど……。壁ぐらいは壊せるでしょ……」


 黒い炎を身に纏うリリー。

スゥーと一呼吸置くと、渾身の一撃をぶっ放した。


「ハァ!!!!!」


 ドゴーンと爆発音にも似た轟音が鳴り響いたかと思うと、そこにはぽっかりと大きな穴が空いていた。

パラパラと瓦礫のこぼれ落ちていく音が聞こえる。

平常時であれば、すぐさま憲兵が駆け付けるところだが、今はそれどころではない非常時であるためその心配はない。


「そんじゃ、お邪魔しますかねー」

「いやぁ! やはり豪快! 母が見たら喜びそうです!」

「それは誉め言葉として捉えて良いんですよ……ね?」

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