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48話

「てぃてぃてぃティターニアさん!? どうしてこんなところに!? というか、このサイズ感はどうして!?」


 嘆きの森で見た時のティターニアは人間の肩に乗れるほどの大きさだったはずだ。

それが今では人間と変わらないほどの大きさとなっている上、なんならその背はリリーよりも高い。


 一体、何故なのか。

その疑問に、ティターニアは答えた。


「人の街に行く時にはこの姿になるの。単なるよそ行きフォルムよ。それから、何でここにいるのかはさっき言った通りね」

「偵察でしたっけ? つまり、ワイトの様子を見に来たと?」

「そういうことよ!」

「偵察なんてしなくても俺はしっかりやるんだけどなー」


三人が仲睦まじく話す中、すっかり、蚊帳の外にされてしまったメリアがコホンと咳払いをする。


「突然の再会に水を差すつもりはありませんが、今はとりあえず、アンデッドをどうにかするのが先決ではありませんこと?」


一同は目を見合わせて頷いた。


「それはそうね……。なんだか、大変なことになっているみたいだし」と言って平然と立ち上がるティターニア。


「でも、ティターニアさんは避難したほうが良いですよね……。足の怪我だってあるし……」

「あぁ、怪我なら大丈夫。最初から怪我してなかったから」

「え? じゃあ、あれは!? わたしが助けた意味は!?」

「いや、自分でなんとか出来たけど、リリーちゃんの姿が目に入って、たまには助けられるのもありかなぁと思ってしまって」

「それはまた素晴らしい演技力ですわね……。わたくしも無駄に力を使ってしまいましたわ……」


 げんなりとしながらメリアは言った。

そんな彼女にティターニアは「決して無駄なんかじゃないわよ。ここまで歩いて来たから、足が疲れていたの。助かったわ。スノウローズ家のご息女さん」


「わたくし、まだ、姓は名乗っていないはずですが……」

「名乗らなくても分かるわよ。儚くも可憐な雪薔薇を咲かせるのはスノウローズ家だけですもの」

「あなた……何者ですの?」

「通りすがりのただの綺麗なお姉さんよ」

「自分の正体、隠しといてよく言うぜ」

「うるさいわね」


 ワイトとティターニアの視線が衝突する中、リリーが声を上げた。

「周囲にまたアンデッドが出現しています!」


 どこからともなく再び、アンデッドが姿を現していた。

 元を絶たなければ無限に湧き続けるというのも強ち間違ってはいないのだろう。


「そろそろ行くか」

「えぇ、ワイト頼んだわよ。もちろん、リリーちゃんと一緒にね」

「お前は来ないのか?」

「二人いれば大丈夫でしょ。それに、下級アンデッドとはいえ、一般市民にとっては立派な脅威よ。うまく避難出来ていない人もいるかもしれないから、その救援に回るわ。この娘と一緒にね」


そう言って、ティターニアは優し気な視線を向けながらメリアの頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「わ、わたくしの頭をー!?」と吃驚するメリア。

「もしかして、いやだった……?」

「嫌ではないのですが、その、なんといいましょう……」


 すごく満たされた気持ちがするとは口が裂けても言えなかった。

ライバルの前でそのような甘えたネコのような物言いをするわけにはいかなかったのだ。

メリアの心は色々と複雑であった。


それを見たリリーがフフッと軽く笑う。


「リリー・スカーレット! 笑いましたわね!」

「いや、悪気はないんですよ。ただ、メリアさんも困った顔をするんだなぁと意外に思って」

「そう、そうですか。わたくしも人間ですから、困ることのひとつやふたつはあるってものですわ――――」


 その直後、周囲にいたアンデッドの頭上に白い花が咲いた。

これはメリアの力によるものだ。


「さぁ、お行きなさい。リリー・スカーレット。そして、念のために言っておきますが、これは対決だということを忘れずに。今のところはわたくしがリードしておりますから、早くしないとわたくしの勝ちになりますわよー? オーッホッホッホ♪」


 メリアは高らかに声をあげて笑う。

闘争心を剥き出しにしているようにも見えるが、その実、周囲のアンデッドを蹴散らして二人が目的地まで走り抜けるための道を作ってあげたのであった。


 その厚意にリリーは気付いていたが、彼女のことを想うのであればそれは言わぬが花。

その代わりに、「望むところですよ。むしろ、これぐらいのハンデはあって当然です。わたしは負けませんから」と買って出た。


 そして、目的地に向けて走り出す。

周囲のアンデッドはメリアの白い花によって機能停止しているため、横をすり抜けていけるが、効果範囲のその先にはうようよといる。


その後ろ姿を見ながら、ティターニアはメリアに言った。


「リリーちゃんにこんなに面白い友人がいるなんて、やっぱり来て正解だったわ」

「何を言っておりますの? リリー・スカーレットは友人ではありません。ライバルです」

「ライバル……ライバルねぇ? 良いわね。そういうの――――」


 ティターニアはおもむろに、右腕を上げると親指を上げて人差し指を突き出し、ピストルのような構えを取る。

その指先は二人の前方にいるアンデッドを標的にしているが――――


「わたしもライバルと言える存在がいたのよ――――」


 その視線はリリーと共に走る甲冑姿の男に向けられている。


「それはね、アイツ――――」

 次の瞬間、指先から七色の光線が発射される。

それは、二人を凄絶な勢いで追い抜いたかと思うと、螺旋を描きながらひとつに収束し、極太の光線となって、進路方向のアンデッドを消し炭に変えていった。


 そのあまりの威力に驚いて、二人は思わず足を止めた。

リリーは何が起こったのかよく理解出来ずにそのまま固まっているが、状況を理解したワイトは後ろを振り返って「ありがとなー!」と手を振って、固まったままのリリーの背中をポンポンと叩くと、肉体に魂が返ってきたかのように正気を取り戻し、再び、走り始めた。

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