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46話

「我が拳……我が躰……業火と化せ……『ラーヴァテイン』」


 胸から黒い炎が噴出したのと同時にリリーは駆け出す。

黒い炎が流れ星のような尾を引いたかと思うと、襲い掛かろうとするゾンビの胸部を右腕で貫いた。

その炎はやがてゾンビの全身へと燃え広がり、「グァア……ガグァア……」と苦悶の声をあげながら、黒い塵と化す。


 眼前の危機は去ったが辺りにはまだアンデッドがうようよと存在している。

出来ることなら、人が多くいるところへ、避難した方が良い。

そのように考えて、リリーは女に尋ねた。

「走れますか……!? 走れるなら早く、この場から離れた方が良いです……!」

「ごめんなさい……、私、足が――――」

女はそう言ってワンピースからスラリと伸びる足を擦っている。


(走れない……だったら、まずは周りのアンデッドを――――)


 周囲に視線を巡らせる。

すぐに襲い掛かってくるほどの近距離にはいないが、あれがこちらの存在に気付くのは時間の問題だ。

アンデッドの恐ろしいところは数の暴力だ。

突如、出現数が増えて、なだれ込むように襲い掛かってきた場合、足が不自由な状態では逃げることもできない。


「回復系の魔術を扱えたら……」

思わず、リリーが呟いたその時、後方から詠唱が飛んできた。


「氷雪の花よ、この者の傷を癒せ――――」

女の足に可憐な白い花が咲いたかと思うと、痛そうに足を擦っていた手が止まった。

「この花は――――」

女は足に咲いた小さな花を神妙な面持ちで見つめていた。


「ただの応急処置ですわ。避難したところでしっかりと手当するのをオススメしますわ」

 その声の主はメリアだった。

リリーは安堵し、感謝の念を伝えた。


「メリアさん、助かりました!」

「いいですのよ、これぐらい大したことありませんもの。それよりも、ひとつ謝らなければならないことがありますわ」

「といいますと……?」

メリアの表情には影が差している。


「貴方たちが、表通りに向かった後、例のマップとやらをカインから徴収したのですが、その一瞬の隙に空間転移してどこかへと――――つまるところ、逃げられてしまいましたわ」

「魔導剣でしょうか?」

「いいえ、スクロールでしょうね。虎の子として隠し持っていていつそれを使うか考えていたのでしょう。わたくしとしたことが、不覚ですわ……」


浮かない表情のまま、メリアは左手に持っていた丸めた紙を開いた。

「ちなみにこちらがそのマップですわ」


 王都全体を記したマップにはカインの言っていた黒い点は存在しない上、日付や時間も記載されていなかった。


 だが、その代わりと言わんばかりに無数の赤い点が虫のように蠢いている。

それが王都に出現したアンデッドだと理解するのに時間はかからなかった。

そのあまりの多さに二人は顔を見合わせる。


「まさか、これが全部――――」

「そう仮定したほうが良いでしょうね……」


再度、マップに視線を落とすと、周辺の赤い点が軒並み消失してしまった。


「あれ、周囲一帯の赤い点が突然――――」

 その時、すぐ後ろからワイトの声が聞こえてきた。

「赤い点が何だって?」

 その後、二人の上からマップを覗き込む。

三人がマップを覗き込む中、リリーは気になっていたことを聞いた。


「もしかして、この周囲のアンデッドを一掃したりしました?」

「ああ、したぜ」と簡潔に答えるワイト。

そして、「やりますわね……一体、どのような手段で?」とメリアは舌を巻きながら彼を見上げた。


 日が照っているにもかかわらず、平然と活動しているアンデッドには日光への耐性がある。

この特性は今まで、王都に出現していたアンデッドに共通していたことだ。

尤も、それらのアンデッドは動きが緩慢に過ぎる他、耐性がある割に簡単に消滅させることが出来、カインに至っては剣の一振りで一帯のアンデッドを消滅(転送)出来ていたわけだが。


 果たしてワイトはどうやって消滅させたのかという疑問が生まれる。

この疑問に対して、ワイトはさして難しいことをしたようなつもりはないようで、飄々(ひょうひょう)とした様子で答えた。


「この日差しにも全く動じないから、口のなかに光の精霊を片っ端からぶち込んでいこうと最初は思っていたんだ。だがな、やっこさんたち、日差しが効かないシールドのようなものを纏っているだけらしく、一定量のダメージを叩き込んだら日に焼かれて消滅したぜ」

「なるほど……そういうことでしたのね……」とメリアは思案気に頷いた。


 当初の予測とは違い、アンデッドは日光を克服しているわけではなく、あくまでもシールドを身に纏っているのみ。

つまり、それを破壊すればあとは日光に焼かれて勝手に自滅する。

その事実に安堵したかのようにリリーは呟いた。

「思ったよりも簡単に片付くかもしれないですね……」


 その矢先、どこからともなくアンデッドが現れ、襲い掛かってきた。

彼女は慣れた手つきでそれを屠ると抗議するかのような視線を送る。


「ここら一帯のアンデッドは殲滅し尽くしたんじゃなかったのですか?」

「いやいや、マップで一掃されていたのはあなたも見てたでしょうに……それにしても、おかしいな。確かに――――」

「これを見てみなさい」


 メリアに促され、マップを見ると先程、消えていたはずの周囲に、赤い点が再び現れていた。

それ見てワイトは瞬時に理解した。

単純に倒せば良いという話ではないということを。


「あー、そういうことか……。これは無限に湧く可能性があるな……?」

「無限に……」とワイトの言った言葉を繰り返す。

 自身がつい先ほど言った簡単に片付くという言葉を撤回せざるを得なかった。


 無限に湧くとなると話は大きく変わる。


 日が出ている今は良いが、日が落ちてしまった場合は?

 リリーはアンデッドには滅法強いわけだが、敵は既に王都に入り込んでしまっている。

その最中で、王都にいる全ての人を護り切れるとは到底思えない。

そうなると、どうしても取りこぼしてしまう命が出てきてしまう。


 この事実に気付いているのは、メリアも一緒のようで「大元を絶つ必要がありますわね……。それも、早急に」と落ち着き払った様子で言った。

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