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43話

 しばらく、王都を捜索すると簡単にカインは見つかった。

 むしろ、先行したメリアを探すのに時間がかかっていたくらいだ。


 そこは王都の噴水広場だった。

 中央に陽の光を反射して、キラキラとした水飛沫をあげる噴水があり、その周囲は綺麗に剪定された丈の低い生垣に囲まれていた。

 親子連れやカップルの姿もちらほらと見える。

 その人らに混ざって、ベンチに背中を預け、空を見上げる青年の姿があった。

その姿はどことなく疲れているようにも見える。


「……いましたわよ」


 メリアが小声で後ろの二人に言った。


「ああ、取り囲めばいいんだっけか?」

「ええ、その通りですわ」

「何だか緊張しますね……」


 逃走されないように、ゆっくりとなおかつ、迅速に、カインへと近付いていく一行。

カインは誰かが近付いてくる気配を察して、顔を正面へと向けた。

 そこには、張り付けたような笑顔を浮かべるメリア、少し困惑している様子のリリー、最早、表情など分からない謎の甲冑姿の3人に囲まれていたため、カインは思わず身体を後ろへと仰け反らせた。

背もたれがなければ、そのまま頭から落下していたことだろう。


「や、やぁ、皆してどうしたんだい?」と平静を装おうとしているが、明らかに声からは動揺が滲みだしている。


 そんな彼を見て、メリアは据わった目でただ一言、「話がありますわ」とだけ答えて、裏路地の方をおもむろに指さした。

カインはおずおずと立ち上がる。

 かなりヤバい予感がしていたが、この場で逃亡しようものならさらに恐ろしい目に遭いそうな気がしたため、メリアの指示に素直に従った。


 その後、カインは先導するメリアと後方のワイトとリリーに挟まれる形で、人気のない裏路地へと入っていった。

いつから置かれてあるのかも不明なタルやら木箱やらの横を通り過ぎて行く。

その間、夏場の雨あがりのような湿ったニオイがむわんと漂っていた。


 袋小路に突き当たるとメリアはカインの後ろへと静かに下がった。

 彼の視界には3人が映っており、三方を壁に囲まれてため、唯一の退路は断たれている。

 異様な緊張感の中、メリアの尋問が始まった。


「さて、いくつか質問をさせていただきますわ……」

「な、何をだい?」

「近頃、王都内にてアンデッドが出現しているというのはもちろんご存じですわよね?」

「それはまあ……もちろん知っているよ……」

「ですわよねぇ……。では、次の質問、その剣はどこで手に入れましたの?」

「こ、こ、この剣かい? これは、古道具屋で買ったんだよ。ほら、鞘が独特だろ? だから気に入ったんだ」

「たしかに、独特ですわね。その剣についてその古道具屋の人から説明は受けました?」

「いや、特には無かったよ。何せ、古道具屋だからね、武器の専門家でもないんだから、分からなくても仕方ないと思う」

「なるほど、そうなのですね。では、鎧はどこで揃えましたの?」

「これもその時に買ったんだ。傷一つないからお買い得だと思ってね」

「古道具屋で買った割には、傷が無さすぎるような気もしますけど、ね? まあいいでしょう……。実はわたくし、アナタの経歴を少し調べさせてもらいましたの……そうしたら、あなたの冒険者登録はおよそ半年前ですが実力が発揮出来なかったのでしょうか。そのランクはブロンズ級。ですが、ある日を境に急激にランクを上げておりましてね……その時期、いつか分かります?」


「さぁー……ちょっと、そういうランクとか、そういうのはあまり気にしていないから分からないなぁ。でも、なんか、この剣を使い始めた頃から急に敵を倒せるようになってた気がするなぁ……アハハハハ」


 カインは笑っておどけているが、メリアは一切の笑みを切り捨てて、カインの前に指を二本出した。


「冒険者がランクを上げる手段は大きく分けて二つありますわ。冒険者ギルドに張り出されている依頼をこなすか、王都内での問題に対処するか」

「何の話をしているんだい……?」


 顔を強張らせながらもカインは真意を聞き出そうとするが、メリアはその質問には答えず、話を続ける。


「例えば、犯罪者を捉えたり、外から侵入してきた魔獣を討伐したり、或いは……何故か湧いて出てくるアンデッドを倒したり――――」


そう言ったメリアの視線がカインを射抜く。


「そ、そうだね……。最近、アンデッドが召喚されたところに偶然、出くわすことが多いから、たしかに僕のランクは上がっていっているけど、あれは偶々だからさ。そこに因果関係はないよ」


カインは早口で一連の事件と自分との関係について否定したが、その姿はどこか弱弱しく見える。


「――――なんてね、今のはただの冗談ですわ」


 突如、メリアは口元に笑みを浮かべてそう言った。

 この反応にカインはほっと胸を撫でおろしたかのように一息ついている。

その後、カインの持つ剣についての補足が入った。


「その剣は、魔導剣と言って希少な剣ですのよ。そんな剣を古道具屋で見つけるなんて、本当に運が良いですわね?」

「そうなんだ……。まあ、確かに召喚されたアンデッドが一振りで消滅すると聞いていたからホントかなぁとは思っていたんだけど、いやぁ、ホント、僕って運が良いなぁ?」


メリアの口元から再び、笑みが消え失せた。


「……アナタは先程、この剣についての説明を受けていないと言っていたのにもかかわらず――――」


 カインはメリアの言わんとしていることは察して割り込んだ。


「それは消滅するのを知っていたのは、実際に使っているから当然分かるよ……」

「おかしなところはそこではありませんの。聞いていたの部分ですのよ」

「いや、それは……古道具屋の人から……あ――――」


 カインは自ら墓穴を掘ってしまっていたことに気付いた。

だが、覆水盆に返らず。

言ってしまった発言は取り消せない。

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