41話
「あいつがカインか……。悪いやつには思えないがやっぱりなんか怪しいんだよな……」
「そうですね……。妙なところで驚いたり、変なところで視線が泳いだり……。ですが、あなたの言う通り悪い人ではないと思います」
リリーはワイトの方を向きながら同感だと言わんばかりに頷いた。
カインの振る舞いはなんとなく作られているような気がしていた一方で、そこに少なくとも悪意は感じられなかった。
「同じ意見か。まあ、仮にカインが黒幕であり、何らかの手段でアンデッドを召喚していたとしよう。そうなると動機がさっぱり分からないしな。王都を襲撃するにしたって、あのレベルのアンデッドをちまちま召喚したところで何にもならないだろうし」
リリーの頭の中に、エルピス国でのことが想起された。
城の内と外という違いはあるが、殺意が高かったのはエルピス国の方だ。
周囲を結界で囲い込み、マナを負のエネルギーに変え、あとはアンデッドで攻め滅ぼす。
籠城を決め込まれても、補給線が確保できない以上、当然、人の方が餓死することになる。
一方で、ティアレインの方は彼が言うように行動の意図が読めない。
そもそも、いくら日光耐性を有しているアンデッドを召喚したとはいえ、まともに動こうとしないアンデッドを用意してどうするのだという話なのだ。
「エルピス国の方では、やり方という意味ではしっかりしていましたね」
「あー、そういえば言っていたな。確か……『アクエリアス』だっけ?」
「禁術『アポカリプス』です」
「あー、それだそれ。そっちの方が利に適っているような気がするんだが……。とにかく、怪しいことは間違いない。ここは一旦、カインを――――」
そこに突如、口を挟む少女が一人。
「調査を行うということですわね!?」
声のする方を見ると、メリアが優雅なステップで近付いて来ていた。
「あ、出た、謎の少女X」との一言がワイトの口からポロっと飛び出る。
メリアはそんな彼の前に立つと、コホンと咳払いをして、名乗りを上げた。
「わたくしは『謎の少女X』などではなく、『メリア・フェ・スノウローズ』と申しますの。以後、お見知りおきを……というよりも、今朝、お会いしておりますわね? ひとつ、お伺いしても宜しいかしら? リリー・スカーレットとはどのようなご関係でして?」
口元には笑みを含んでおり、言葉こそ丁寧だが、得も言われぬ凄みを感じる。
おそらくそれは目がちっとも笑っていないからであろう。
その反応を見て、ワイトは思った。
これは選択を誤ると厄介なことになりそうだと。
「あぁー……俺はワイトと言うんだ。ただの用心棒だよ」
「なるほどなるほどそうですかそうですか! 用心棒!! つまり、舎弟ということですわよね? よく分かりますわ。わたくしのライバルたるリリー・スカーレット……舎弟の一人もいなければ張り合いがないというものですわよ!」
「いや、こいつ、何も分かってねぇ!」と思わず、口を衝いて出そうになるのをなんとか堪えるワイトの傍らで、リリーが控えめに口を開いた。
「メリアさん……。あの、用心棒と舎弟では、意味合いが変わると思うのですが」
「そうですの?」
「この方は、わたしの身を護ってくれるそうなので……」
「リリー・スカーレットの身を……護る……?」
メリアは信じられないものを見るような目でリリーを見つめている。
「貴方、護られるようなお方でしたっけ?」
「そこはまあ、色々ありまして……」と言い淀むリリーから何かを察したメリアが人差し指をピンと突き立てて満面の笑みで言った。
「ああ、なるほど、このわたくし、メリア・フェ・スノウローズ完全に理解しましたわ。要は表向きは護られるか弱い乙女を演じるおつもりですのね!?」
「そういうことじゃ――――」
メリアは自身の胸に手を当てて、目を瞑り、しっとりとした表情で語り掛ける。
「分かりますわ……。私たちは"聖域"の座を争い合うライバルである以前に乙女でありますものね……。雄々しい姿だけを見せていては殿方は皆、明後日の方向へと逃げ去ってしまうもの。時には弱い一面を曝け出すことも一種のテクニックですわよね……やりますわね、リリー・スカーレット!」
言いたいことは色々あるがとりあえず、「いや、何も、分かってない!」とリリーは心の中で軽く突っ込んだ。
そして、どうやって、この誤解を解こうかと頭を悩ませていたところ、ワイトが「ところで、何と呼べば良いんだ? メリアさんと呼べばいいのか……?」と話題を切り替えてくれたため、その件は一旦、先延ばしにすることが出来て、リリーはホッと一息ついた。
「リリー・スカーレットの舎弟はすなわちわたくしの舎弟ですから、メリアと呼んでいただいて構いませんわ」
「おう、分かった! メリアな、よろしくな!」
舎弟のままになっているがワイトはあえてスルーした。
蛇が出ることが分かる藪をわざわざ突く必要はないのだ。
ただ、意外に思ったのは呼び捨てでも問題なかったところ。
そこはてっきり様付で呼ばせるものだと思っていたが、どうやらメリアは懐が広いらしい。
ワイトは続けて「ところで何の用件だったんだ?」だと問い質す。
「そうでしたわね。すっかり、話が脱線しておりましたわ。用件は至ってシンプル。王都アンデッド出現事件の犯人を捕まえるというものですわ……!」
メリアは拳を震わせながら力説した。
その目は義憤に駆られているかのように燃えている。
王都の秩序を乱す悪漢をこの手で捉え、正義の鉄槌を下すつもりで一杯であったのだ。
「ところで、犯人の目星は付いているのですか?」とリリーの当然とも言える質問が飛んでくるが、それに臆することなくメリアは答える。
「もちろん、付いておりますわ……!」
「もしかして……」
「えぇ、そのおそらくもしかしてですわ――――」
メリアは不敵な笑みを浮かべる。
両者の意見は一致していた。
その人物とは、王都内でアンデッドが出現する場で目撃されることがほとんどであったあの青年冒険者――――カインである。




