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39話

 二人は今、住居区の一角にあるカフェテリアに移動して、隅の席で昼食を取っていた。

店内は満席とまではいかないが、賑わっており、忙しなく料理を運ぶウェイターの姿が見受けられる。

 リリーはベーコンとハムと卵を挟んだサンドイッチをもぐもぐと食べる一方で、ワイトはホットドッグを食べる時にのみ鉄兜をずらして器用に食べていた。


「食事にここまで難儀するとは……」

「さすがに顔をさらけ出すのはマズいですからね……。突発的にアンデッドが湧いているようですし……」

「タイミング悪すぎるよなぁ――――それはそうとあれだ」


 話が本題へと移る。

何故、王都にアンデッドが湧いているかについてだ。

移動の最中、アンデッドが突如出現するという謎の現象について、情報の共有をしていた。

リリーの場合は既にアンデッドがカインによって消滅した後だったが、ワイトはアンデッドの出現から消滅まで目撃していたらしい。

ワイトがアンデッドを目撃した場所はリリーと同じ住居区だったが、それはまた別の場所だった。


 話を擦り合わせると、時系列はワイトの方が後に起こっていた。

取り残されたワイトが王都内を軽く散策していると、いきなりアンデッドが出現した。

それは手品師がシルクハットからハトをポンと出すように、本当にいきなり現れたそうだ。


 あまりの突然振りに、ワイトは反応が一瞬遅れるも、ちょうどタイミング良く現れた冒険者によって一瞬で消滅させられたらしい。

この冒険者は名前を名乗らず、速攻でその場を後にしていたため、誰かさっぱり分からなかったが、


 リリーの言っていた青年の特徴と重ね合わせると同一人物で間違いないようだ。

以上の点を踏まえて、ワイトは単刀直入に言う。


「俺が思うに、あのカインとかいう冒険者、かなり怪しいぞ」

「そうでしょうか……? 確かに、妙な感じは受けましたが……どの辺が怪しいのでしょう?」

「何が怪しいかって、装備よな」

「装備ですか……?」

「ああ、俺の目には一振りで複数のアンデッドを消滅させているように見えた。ということは、だ。それだけの実力があるってことで、そう考えると、やっぱり、全てが新品すぎるんだよ。年季が入っていないというか……」

「それは新調したから……ではないでしょうか?」

「確かにな、一理ある。だけどな、鎧から剣まで全て新調するなんてことが起こり得ると思うか? 武器や防具は使い慣れたものを使って然るべきなんだ、例えば履き慣れない靴を履いてハイキングに出掛けたら靴擦れ起こしちゃったーとかよくある話だろ?」

「そう、言われてみれば……全てが新品というのは、たしかにおかしいですね……」

「そうなんだ。ましてや、武器と防具は自分の命を預ける命綱だ。どっちかがガタが来てしまって仕方なく買い替えるならともかく、両方はちょっとなぁ……考え難いんだわ。リリーちゃんだって服ぐらい――――」


 リリーの服装を見て、家にある衣服を思い出し、ワイトは発言を訂正した。


「スマン、全部修道服だったわ」

「謝る必要はありません。これは普段着の修道服なので」

「普段着の……?」

「はい。戦闘用、普段着用、就寝用の3つの修道服があるんですよ」

「……俺が言えたことじゃないけど、もっと、ファッションに興味を持った方が良いんじゃないのかねぇ……。ほら、あの金髪の子とか良いお店知ってそうじゃない?」

「余計なお世話です。そもそも、服を買うぐらい――――」


 ムスッとした態度でリリーがそう答えている最中。


「ウワアアアアアアアア!!」


 突如、店の外で男の叫び声が聞こえてきた。

慌てて窓から外を覗き込むと、まず飛び込んで来たのはスケルトンとゾンビの姿だ。

真上では太陽が照り輝いているというのに全く動じていない。


 そして、視線を横に移していくと、そこには、尻もちをついている男の姿がある。

ゆっくりとした動作ではあるが、一体のゾンビがその男ににじり寄っている。

その姿を見るや否や、外に飛び出していくリリーとその後を追いかけるワイト。


 外に出ると、通りにはおよそ10体ほどのアンデッドが見受けられた。

悲鳴を上げながら人々が逃げ惑う中、リリーは小さく呟いた。


「『ラーヴァテイン』……!」


 黒い炎を右腕に纏わせたリリーは、今にも男に襲い掛かろうとしているアンデッドに接近し、上半身を斜めに一刀両断すると呻き声一つ上げずに消失した。

「すまん……助かった!」

「お礼は大丈夫です。早く逃げてください!」


 リリーは周囲に残るアンデッドに警戒している。

男の退路を確保するためだ。

だが、肝心の男はそこから動こうとはしない。

いや、動けなかった。


「逃げようにも……」と腰を擦る。

 腰が抜けてしまったのか、ぎっくり腰になってしまったのかは分からないが立ち上がれないことは明白だった。


「腰抜けちゃってるもんな。俺に任せとけ」


 ワイトはそう言うと、男をひょいっと肩に担ぎ上げた。


「ちょっと、安全なところにまで送ってくる。すぐ戻るから、無理はすんなよ!」

「心配は無用です。この程度の量、なんてことありませんから」


リリーは百体のアンデッドを一度に相手したこともある。

たかだか10体など取るに足らない数であった。


「んじゃ、ま、ちょっくら行ってくるわ」


 そう言ってワイトがその場を一時離脱。

 リリーのみがその場に残される。

後は、このアンデッドを始末すれば良いだけの話だが、先程の一体に妙な違和感があった。

それが何に起因するものなのかは分からない。


「とにかく今は……」


 些末なことだと思考の端っこに置いておき、今は目の前の敵に集中する。

前方に疎らに散るゾンビとスケルトンはぎこちない動きでリリーに近寄って来ている。

陽の光でも活動出来ているという点を除いては、見た目通りの下級アンデッドであり、先程の手応えから見ても、倒すことは難くない。


「ゾンビ3体にスケルトン9体……。動きもあまり良くはない……」


 リリーは前方へと駆け出し、通りすがらスケルトンの首を手刀で切断すると、その首に黒い炎を纏わせて他のゾンビへと投げつける。

案の定、直撃したゾンビに着火し、黒い炎を巻きあげながら消失。

リリーはその間も手慣れた様子でアンデッドを狩って行き、そして、瞬く間に周囲からアンデッドは消え失せていた。


 結局のところ、リリーがこのアンデッドを片付けるのに要した時間は10秒も掛からなかった。

被害が出るよりは全然良いのだが、あまりにも呆気なく、リリー自身が拍子抜けする始末。

陽の光に耐性を有しているのだから、多少なりとも苦戦するかもしれないと内心、警戒していたのだが、それらは全て杞憂であった。


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