32話
「そういえば、その師ってさ、一応聞くけど、神父?」
「そうですね……。格別、神を崇めているような雰囲気はありませんでしたね。服装は神父そのものでしたが」
「神職ではないが、神父の格好をしている……その神父知っているような、知らないような……」
「知らないと思いますよ。だってあなたは100年前に眠りについて3年前に目覚めたけれども、ティターニアさんの計らいで迷いの森から出られなかったんですから。外部との接触が出来ないはずです」
「アレは計らいというよりは監禁のような……。まあいいや、100年間生きている可能性は?」
「師の年齢について尋ねたことはなかったのですが、おそらく見た目では20代後半ぐらいですし、長寿で名の知れているエルフ族というわけでもないので、可能性は低いと思います」
「そっかぁ。他にも俺のことを知っている奴がいればなぁとか考えていたんだが、まあいいや」
「……もしかして、寂しいんですか?」
「いや、寂しくは無いぞ。嘆きの森で出会った冒険者の男もいるみたいだしな、にしてもまぁ、こんなことになるなんて……新たな出会いに期待大って感じだな」
「前向きなんですね」
「それが俺の取り柄だからな。カッカッカ!!」
「まあ、それが短所になっているような気もするのですが……」
「どういう意味だ、それ? あー、なるほど」
妙にムスッとした表情をしているリリーの態度を察して、ワイトは付け加えるように言った。
「もちろん、リリーちゃんとも出会えたからな」
「どうして後付けなんですか。ま、いいですけど。わたし、シャワー浴びてきます」
「はいはーい。浴びてらっしゃい」
こうして、部屋に一人取り残されることになったワイトだが、早速、自身が泊まることになる部屋の様子を見に行こうと思い立った。
廊下に出てリリーの案内された部屋の扉を開けるとそこには――――
真っ白なベッドが真ん中に一つ置かれているだけの輪に掛けて殺風景な部屋が広がっていた。
「いや、怖いんだが」
〇
カーテンの隙間から光が漏れ出している。
リリーはすっきりとした表情で気持ちよく目覚めると見慣れた白い天井を見て、王都内の自宅に帰ってきていたことを思い出した。
昨晩は、久方ぶりのシャワーを浴びた後、さっぱり気分爽快といった感じでベッドでちょっと横になろうと思っていたら、旅の疲れもあったのだろう。
そのまま眠りについてしまっていた。
そこまで思い返して、ふと疑問が浮かんだ。
たった今、起きた時タオルケットが掛けられてあったのだが、それを掛けずに眠ってしまっていたはずなのだ。
一体、誰が……とまだぼんやりとしたままの頭で考えるとワイトの存在を思い出した。
「ワイトが掛けてくれた……? んー、それとも無意識の内にくるまっていたとか?」
真偽は定かではないが、寝ぼけたままの頭では何も考えられない。
そのまま、顔を洗いに浴室の隣に併設された洗面台へと向かった。
蛇口から流れ出る冷水を両手に掬い、顔に浴びせた。
目がパッチリし、思考が鮮明になる。
「あ、そうだ」
ワイトを家に泊めている事実もすっぽりと抜けてしまっていたことに気付いた。
リリーはワイトを泊めた部屋の前に立つとノックする。
「ワイトー、朝ですよー?」
呼びかけるも、返事は無い。
あの見た目だから、朝は苦手というわけではないはずだ。
今までの旅がそれを物語っている。
日光浴をしていたこともあったぐらいだ。
もしかして、何かあったんじゃ……と途端に不安に駆られるが、いやいやそれはないと理性が否定する。
バルログ相手に大立ち回りを繰り広げられる実力を有している。
しかも、廃坑内で10体以上と戦っていたと確か聞いた。
心配する方がおかしい。
でも、返事がないのはさすがに心配だ。
リリーは意を決してドアノブに手を掛ける。
「起きないなら開けますよー?」
ゆっくりと開かれたドアの向こうには、ぽつんと部屋の中央に置かれているベッドがあるのみであった。
「うんうん、やっぱり、シンプルイズベストよね……じゃなくて、ワイトいないんですけど!?」




