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31話

 冒険者ギルドから徒歩15分ほどの距離にリリーの家はあった。

3階建ての特にこれといった特徴のない、木材を主とした素朴な造りのアパルトメントであり、3階まで上がった一番奥に位置している。

玄関ドアをリリーが開くと、先に中に入り、ワイトを招き入れた。


「入ってどうぞー」

「おじゃましまーす!」


 一直線の廊下の突き当りにドアが1つ、左壁に2つ、右壁に1つあるのが見受けられた。

リリーは間取りの説明を行う。

 玄関に入り手前にあるのが浴室であり、その隣がトイレであり、右壁の一室はワイトが今晩泊まる部屋のようだ。

そして、その先にあるのがリリーの部屋。

 一通り説明すると、鉄兜を脱いだワイトがバツの悪そうな感じで言った。


「説明してくれたのは有難いんだが、今の俺にはトイレも風呂も必要ないからなぁ……」

「なんですって……ちょっとだけ、羨ましいです。まあ……それに勝るデメリットの方が勝ちますけど」

「そういうことだから、カッカッカ、良かったな!」

「何が良かったのか、よく分からないですが……」


 そう言って、自室の部屋を開けた。

中に入るリリーの一方で、ワイトは廊下で突っ立っている。


「何をしているんですか……?」と怪訝な表情を見せるリリー。


ワイトはおずおずとした口調で尋ねた。


「あの……俺が入って大丈夫なのか?」

「大丈夫も何も、そんなの決まって――――あ、そういうことですか。気遣ってくれたのですね」

「そりゃあ、そうだろ。どこの馬の骨だか分からない野郎がね、うら若き乙女の部屋に土足で入ろうものなら、どえらいことになりかねない」

「どえらいこと……? 具体的には……?」

「ティターニアからぶっ飛ばされる」

「噓でしょ?」

「いや、マジだ。なんかぶっ飛ばされた記憶があるもん。うろ覚えだけど」

「まあ、なにかあったら今度はわたしがぶっ飛ばすので。大丈夫です」

「俺って、今も昔もぶっ飛ばされてばっかりな気がするなぁ」


 身に降りかかる理不尽を再認識し、ワイトはリリーの部屋に足を踏み入れた。

入って早々一言。


「いや、確かに大したものはないとは聞いていた」

「はい、わたしは確かに言いました」

「にしたって、無さすぎるだろ!」


 リリーの部屋はシンプルイズベストであった。

フローリングにカーペットの類は無く、キッチン、クローゼット、照明、テーブル、ベッドが舞台セットのように置かれているだけであり生活をしている感じが見られない。

整理整頓こそされてはいるが、個性がまるでないのだ。


「何もなくはないですよ。クローゼットには替えの服を用意しているので」


 そう言ってリリーがクローゼットをおもむろに開くと中には10着もの修道服が並んでいた。


「それはちょっと、狂気を感じるな」

「まあ、普段着も仕事着も兼ねていますからね。おまけに特別製なのでただの布ではないのです。ゴブリン程度では傷一つ付きません。まあ、さすがにバルログ相手ではちょっと分が悪かったですが……」


 リリーはバルログに苦戦を強いられたことを思い出す。

あの戦いは一方的であった。

 実際、ワイトがいなければどうにもならなかったのだ。

 クローゼットに並んだ修道服をじっと見つめたまま固まっているリリーを見て、ワイトはさらに狂気度が増したなぁと思いつつ口を開いた。


「あれはまあ、仕方がない。レベルが違いすぎる。結局、俺も本体は仕留められてはいないからなぁ……。そういえば、スカート部分にスリットが入っているのも戦闘を行いやすくするための配慮だったりする? てか、何で修道服……?」

「詳しいことは分からないですけど、大体、そういうことだと思います。あと、何で修道服なのかってことですが……師がこれしか着せてくれなかったので」

「それはまた随分と、業の深い人物のような気がするな」

「ですが、同じものに統一するのは良いですよ。なにせ、着るものに迷いませんので」


一見、不便なようにも見えてもしっかりとした利点が存在している。

「それは確かにそうだ」と頷く。



 その傍らで、この神父を知っているような気がしていた。

おそらく、修道服に物凄いこだわりのある人物だ。

だが、いまいち、思い出しきれず、リリーに尋ねた。

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