30話
「少し見ない間に随分と可愛くなったな、それだけだ」
リリーはいきなり何を言うんだこの人!? と耳まで真っ赤にしながら捲し立てるように言った。
「え、ええええええ! そんなことは全然ないです! 門番さんの方がずっとわたしなんかより可愛くて! 美しくて! スタイルも良くて! 美しくて! そんな足元にも及ばないんです!」
止まることなく一気に言ったものだから、その後に大きく深呼吸をするリリー。
そんなリリーを見てワイトが一言言った。
「カッカッカ!! リリーちゃんがいっちょまえに照れてらぁ」
「何を言っているんですか!? 照れずにはいられないでしょう!! こんなの!!」
リリーはワイトの方を両手を上げながら睨み付けた。
この一連の流れを見て、門番が爽やかに微笑みながら言った。
「なるほど、よく分かった」
「何が分かったんですかー!?」
リリーの絶叫が正門の辺り一帯空高く響いた。
西日が地平線の下へと隠れようとしている。
また一日が終わろうとしていた。
〇
その後、門番と別れる頃には日はもう落ちていた。
「ちぇー、王都内では兜外せないのか。骨人に優しくないですなぁ」
「勝手に新しい亜人を作らないでくださいよ……。」
ワイトがそう言うのには理由があった。
二人が門番と別れる際に、門番から言われた忠告があったからだ。
それは王都内でその鉄兜を外すのは控えた方が良いだろうとのことだった。
リリーはよく理解していたため、素直に頷いた一方でワイトは若干不満気味であった。
不満があって当然だがワイトが本気で不満を感じているとも思えず、リリーは適当に受け流している。
その最中、市場を通り過ぎ、商業区の一角にある煉瓦造りで4階建ての建物が見えてきた。
そこで、ワイトの目の色が変わった。
「ねぇねぇ、リリーちゃん。あの煉瓦造りの建物って冒険者ギルドだったりする?」
「そうですよ。ティアレイン支部ですね」
その建物は冒険者ギルドのティアレイン支部であった。
リリ―にとっては見慣れた建物であったが、ワイトにも見覚えがあったようだ。
「ん~、そうだよなぁ~! 懐かしい気分だけど、昔は1階建てだったような……」
「そうなのですか? わたしが来た時には既に4階建てでしたがそういえば、昔は冒険者やっていたんですよね? いつぐらい前なのですか」
「あー、ざっと100年ぐらい前だな」
ちょっと桁がおかしいため、リリーはもう一度聞き直した。
「ん……? すいません、わたしの聞き間違いかもしれないのでもう一度聞きますが、今、何と?」
「だから、100年前だな。今年は女神歴365年のはずだから――――」
「あー分かった。また、しょうもない冗談を吐いているんですね? あなたのことはよく分かっていますから、ササッ、本当のことを話してください」
「本当も何も事実というか何というか」
明らかに困惑している様子のワイトを前にしてリリーも考えを改めなおした。
ワイトは本当のこと言っているし、100年前に眠りにつき、目覚めると骨の身体となっていた。
「あなたの素性がさっぱり分からない……。何ですか、100年間眠っていたって、伝説の勇者か何かなんですか」
「おっ、よく気付いたな! 伝説の勇者、ワイト様だぜ!」
「はいはい……」
「絶対、信じてないやつだ、これ」
「伝説の勇者ならもっとこう、パッとする人が良かったですよ。何で骨太郎なんですか」
「それは俺も知りたいところ」
横に並んで他愛のない会話をしていると冒険者ギルドまで来ていることに気付いたが、リリーはその横を素通りして行った。
ワイトは疑問に思い、リリーに尋ねた。
「あれれ、今日は冒険者ギルドに行かないの?」
「そうですね。特に用事もないので行きません。また明日行くことにします」
「となると、今からどこに?」
「わたしの家に向かいます」
そう言われて、ワイトは一瞬、家は街道にあるのではと疑問に思ったがすぐに感付いた。
「あー、王都内にも家がある感じ?」
「そういうことですね。プラチナ級に上がった際に冒険者ギルドから貸与してもらったものなのでそんなに広くはないのですが……空き部屋があるのでそちらの方で休んでください」
「今の冒険者ギルドって家貸してくれるんだなぁ……。てか、泊めてくれるんですか!?」
ワイトはリリーに羨望の眼差しを向ける。
門番からの忠告もそうだが、当初よりリリーはワイトを自宅に泊めるつもりでいた。
王都内に入れないのであれば、いざ知らず、無事に中に入れたのだからその責任を持つのは当然のことだ。
それに、こんな得体の知れない骨太郎を外に放置したら何が起こるか分からない。
「そりゃあ、そうでしょうよ。あなたを王都内で寝かせてしまって何かの間違いで死体処理されてしまったらどうするんですか……」
「鎧を着たままだったら、ワンチャンなんとかなる可能性あるけど、やっぱり寝る時は外したいもんね。肩凝るし」
「ま、とりあえず、自宅に向かいます。大したものはないですが」




