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25話

 3年前に森の中で目覚め、自身の正体も分からないどころか、何故か骨の身体になっている自分を見て驚愕していた。

それに加え森から外へと出られないため特にすることもなく暇をつぶしていたら、とある若い冒険者がこちらを見るや否や「アンデッドめ!」といきなり斬りかかってきた。


 程なくして誤解が解け、ワイトは小屋へと案内しその冒険者と会話をしていると、自身の骨の見た目からワイトとスケルトンの違いという話題になった。


「スケルトンはゾンビから肉が消え失せたものであり、ワイトは白骨死体に悪霊が憑りついたものなんだ。アンタに関しては厄介な呪いのような気もするけどな」

「呪い、呪いか。誰が何の目的でこんな呪いをかけたのかはさっぱり分からないが、ひとつ、良いことを思い付いた」

「何だ?」

「これからはワイトと名乗ることにするよ。今まで名乗る名前が無かったからな」

「いやいや、待て。アンデッドの名前を付けるのはさすがにどうかと思うぞ?」

「だけど、しっくり来るような名前もないし、なんか微妙に馴染みがある気がするんだ」

「そうか……。まあでも、早く元に身体に戻れればいいな――――」


 そのような経緯があり自身のことを()()()と名乗ることにしたのだった。


「あいつ、元気にしているかな」


 ふと、そんな昔のことを思い出しながら、地面へと降り立った後、風の精霊によって宙で浮いたまま眠るリリーもその後に続いていく。

 リリーを浮かせたまま、イスラフィル王国の王都<ティアレイン>へ向かうことも出来たが、「ツカレタ!」という風の精霊からのクレームを蔑ろにするわけにもいかず、やむを得ず身体を抱えようとその体に手を伸ばす。

そして、触れた途端――――


「ぐっ……」


 強烈な頭痛に襲われた。

脳内に苛烈に、色鮮やかに、目まぐるしく駆け巡る映像の数々。

程なくして、その頭痛が収まった時、記憶が少し戻っていることに気付いた。


 それは自身の正体に迫る事実。

100年前、英雄ゼロと呼ばれていたこと。

自分はこの世界の人間ではないということ。

女神に喚ばれた存在であるということ。

そして、何かを打ち倒すためにこの世界に召喚されたということ――――


「色々、分からねぇことはあるが……。まあ、いっか」


 記憶の一部は戻ったが不明な点もあり、前の世界の記憶も分からない。

だが、ひとつ言えることはその鍵を握っているのは目の前でスヤスヤと気持ちよさげに眠りについている赤い髪の少女だということだ。


「ま、そん時考えればいいか」


 戻った記憶も不明な記憶についてもさして考え込むわけでもなく、再度、リリーの肩に手を触れた。

今度は何も起こらない。


 ワイトはそのままリリーを背中におぶると月の光が差す夜道を歩き始めた。



 目の奥で強い光が差した。

 その光はリリーの人生を一変させたあの光を想起させるほどの強い光だった。

家族が離れ離れとなった光。

突如として降り掛かった理不尽。


「うわあああああああああああああああ!」


 リリーは叫びながら飛び起きた。

 頭上から光が差している。

それは木漏れ日だった。


 巨大な一本の木の間から風に揺られて時折、強い光が差し込んでくる。

あの強い光はきっと、この光だったのだろう。


 周りを見渡すと、そこは見たことのある平原であった。

 この平原はイスカリ平原という名で呼称されている。

イスラフィル王都ティアレインまで伸びる街道が整備されており、リリーの家はこの街道沿いに位置していた。


 リリーは起き上がろうとしたところで自分の身体が浮いていることに気付いた。

「え、なんで、浮いて――――」と不思議に感じたが、そういえば昨日も同じようなことがあったような……とそう思った矢先、前方から声が飛んできた。


「やっと起きたか。この寝坊助さんめ」


それは今となってはもう聞き慣れた声だった。


「そうですね……。随分と長く眠ってしまっていたようです。もしかするとこの寝心地が良かったんですかね?」

「そう言ってもらえると、風の精霊も浮かばれるな。いや、なんか、遊びに呆けてしまってリリーちゃんを窮地に貶めてしまったことを反省しているみたいでな、だから、俺が提案したんだよ。だったらエアベッドになればいいんじゃないのってさ」

「そういうことでしたか。わたしは精霊の声は聞こえないので分からないですが、こう伝えてください。寝心地は最高でしたと」


 穏やかな風がリリーの髪をすり抜け靡かせる。

リリーはその後、ゆっくりと地面へと着地した。

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