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23話

 日が少しでも出ている今で手一杯なのだ。

これ以上、強くなってしまったらいよいよ手に負えなくなってしまう。

そこで迫られる選択、ここで一か八か、大技で仕留めるか。


 リリーはそれはダメだと判断した。

相手はアンデッドではない以上、ダメージ量に期待は出来ない。

エルピス国にてギガースゾンビを相手にした時はアンデッドだから一撃で仕留められたのだ。


 それに決め切らなかった場合、その先にあるのは死があるのみ。

かといって、このままでは……と堂々巡りが続き、額に汗を滲ませ、次に出す手に苦慮しているリリー。


 相手が強敵である以上、迂闊な判断は命取りとなる。

そのプレッシャーのためか。

リリーはこの時、致命的な失態を犯してしまった。

それは一瞬でも敵から目を逸らしてしまったということ。


 気付いた時にはもう遅く。

 視界のどこにもバルログの姿が見えない。


 冷静に考えて、あの巨体が音もなく消えるのはおかしい……。

 裡に生まれた疑問を突き詰めると、一つの仮定が生まれた。

それは音を掻き消す能力を持ち合わせているのではないかというもの。

能ある鷹は爪を隠すと師が言っていた。


 その答えにたどり着いた瞬間、首筋に生温かい息を感じた。

 すぐさま、反転して両手を盾にして防ごうとするも、衝撃までは緩和できずに崖へと叩き付けられてしまう。

 バルログを壁に激突させた先程とは逆の立場となってしまった。

ただ一点異なることと言えば、リリーはいくら黒い炎(ラーヴァテイン)によって強化されているとはいえ、バルログほどの強靭な膂力を有してはいない。


「カハッ……」


 喉から込みあがってきたものを思わず吐き出す。

それは真っ赤な血であった。

だが、瞬時に反応出来ていたため、致命傷は回避出来ている。

けれども、逃走出来るほどの余裕はない。

仮に、その余裕があったとしてもあれはきっと逃がしてはくれないのだろう。


(……だったら、一か八か! ここで決める!)


 リリーは仁王立ちになり、バルログを真っ向から迎え撃つ覚悟を決めた。

 瞬間、バルログは距離を詰める。


 対するリリーの足元に展開されるは赤い輝きの大魔法陣。

迫りくる黒い爪牙を前にして

刹那、自身のありったけを込めて叫んだ。



「吹っ飛べぇぇぇぇぇぇ!!」


 全身を纏う黒い炎が右腕に集約し、瞳の色が黒から朱へ切り替わる。 

あとは、振り抜いた後、あの怪物にどこまで通用するのかしないのか。

そんな単純な話だと思っていた。


――――その直後に起きた出来事。

リリーは自身の詰めの甘さを実感した。

 バルログは上方へと飛んでリリーの渾身の一撃を回避したのだ。


「そん、な……」


 勝負にすらなっていなかった。

当たれば勝てるかもしれないという可能性はあったかもしれない。

だが、そもそも、当てさせてくれるような存在ではなかった。


 バルログはリリーの真上から急襲を仕掛ける。

その最中、眩暈(めまい)がして、頭上から迫り来るバルログが幾重にも重なって見えた。

リリーの放った一撃は渾身の一撃だったのだ。

 それを外してしまったリリーの気力は、とうに限界を迎えていた。


「はやく、にげないと――――」


そう思って、足を動かそうとするが動かない。

自分の死を覚悟したその時――――


 突如、身体がふわりと浮いたかと思うと、自身の意思とは無関係にバルログの攻撃を掻い潜って急上昇していく。

 九死に一生を得てはいるが、一体、何が起こったのかさっぱり分からない。

 そんな不思議な状態のまま、20mほど浮上したところで先程、バルログが空けたと思しき巨大な穴から、とある人影が急速接近してきた。


 リリーは心の奥底から安堵していた。

鉄兜と鎧で身を包んでいるが、その声を聞くと聞き覚えのある声だったからだ。


「リリー、無事だったか!」


 それはワイトだった。

右手には細身の剣を有している。

リリーは疑問に思った。

そのような剣をもっていただろうか……?

廃坑内で拾ったのだろうか、それにしては、綺麗すぎるような……。


 だが、そんなことは些末な問題だった。

一度は本当にいなくなってしまったと思い込み、心にぽっかりと大きな穴が空いてしまったような心境に陥っていたことに比べれば、剣の所在などそんなものは大したことではない。


「……はい、なんとか!」

「いやいや、血吐いてんじゃねぇか!? 外に逃がしてしまった奴にやられたんだな!? すまん! ちょっと数が多くてな! やり損ねた!」


続けて「痛まないか!? 大丈夫か」とリリーを心配する声をかけるワイト。

リリー自身、負傷はしているものの、命に別状は無く、深刻な痛みもないため、平気な様子で答えた。


「大丈夫です……! 少しやられてしまいましたが……何故か、身体が勝手に浮いてですね……」

「そうか、大丈夫ならそれで良いんだ……。浮いた理由は後で説明する。だけど、今は――――」


 ワイトが突如、下の方を見遣るとそこには蝙蝠のような黒い翼を大きく広げ、こちらに向かって急接近するバルログの姿が見える。

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